シンガーとしてひと皮むけた〈ダンディTOSHI〉
彼がアダルトな顔を最初にアピールした楽曲はなんだっただろう。同名の主演映画第3作の主題歌となった“エル・オー・ヴイ・愛・N・G”(1983年)だったか、それとも20枚目のシングル“ラストシーンは腕の中で”(1984年)だったか。とにかく気付くと天使な顔をした王子様はいつの間にかセクシーな目つきをした伊達男に変貌しており、愛称から〈ちゃん〉を取って〈TOSHI〉と呼ぶのが相応しいシンガーになっていたのだった。そんな彼の転機を、ここでは筒美京平が5作連続で曲提供を行なった1987~1988年に絞りたい。
例えば、ドラマ「ラジオびんびん物語」の主題歌であり、歌詞にわいせつな表現が含まれるという理由から一度は放送禁止の烙印を押されかけた“どうする?”(1987年)でみせた、どうしちゃったの?と思わず言いたくなるような色っぽさ。ロビー・ネヴィルの“C’est La Vie”を思わせる切れ味鋭いビートをバックにアーバンにしてラグジュアリーな歌声を響かせる姿からは、シンガーとして文字どおりひと皮むけた様子が見て取れた。
これに続いて登場した、スウィンギンなジャズ歌謡“夢であいましょう”(1988年)、新しい音色とヴィンテージな香りを巧みにミックスさせた船山基紀のアレンジが光る“かっこつかないね”(1988年)などもバツグンなカッコ良さだけど、ひとつ頭抜けた存在と言えるのが主演ドラマ「教師びんびん物語」の主題歌に起用された“抱きしめてTONIGHT”(1988年)だ。曲全体を貫くサウンドのテイストなど時代にしっかりと即していながら王道感溢れるメロディーが確固たる存在感を主張するこの曲と、臆することなく堂々と対峙してみせるTOSHI。これほどまでに揺るぎない安定感を与えてくれる曲ってこれまでなかった気がする、といった感慨を抱かずにいられなかったあの日の気持ちをいまも鮮やかに思い出すことができる。
そして90年代以降はこのラインがすっかり定着……というか、正真正銘アダルトな年齢に到達し、ダンディ仕様のポップソングを数々発表していくわけだが、80年代後期のTOSHI大人化計画から生み出されたトライアル要素の高い楽曲群があまりに魅力的すぎて、どうしても頻繁に耳が向かってしまうのである。
忘れてはいけない、バラードで発揮された〈切なげなTOSHI〉
と、ここまでいろいろと書いてきたが、スッポリ抜け落ちてしまった部分がある。それは、切なげなTOSHI。つまり彼が残したバラード系ナンバーの存在だ。名曲は山ほどあって、ピックアップしたらこれまでのテキストと同じぐらいの文字数を費やしてしまうと思われるので簡単に追っていきたい。
まずは記念碑的名曲といえる7枚目のシングル“グッドラックLOVE”(1981年)。内なる情熱をグイグイ押し出すような歌唱スタイルは、トシちゃんならではのセンチメンタリズムを発動させる必要条件であることをしっかりと証明しており、名取裕子や真野響子といった年上の女優と絡んだときにみせた仔犬のような瞳を思い起こさせる効力があり。
また、“さらば・・夏”(1983年)や“雨が叫んでる”(1992年)などこれまで愛聴してきたTOSHIバラードはいろいろあるが、最高に好きなのは、みずから設けたルールを破っちゃって申し訳ないけど、サードアルバム『No.3 Shine Toshi』(1981年)に収録された“ジュリエットへの手紙”だ。羽田健太郎が奏でるピアノのロマンティックな調べに導かれるようにしてトシちゃんの甘いボーカルがすうっと現れるオープニングの鮮烈さに、いまだ魅了されっぱなしなのであります。