日本の音楽史にその名を刻んだアーティストのドラマ
毎日が誰かの誕生日であり、毎年のように何かの周年はやってくる。今年はかのAKB48が発足して20年という節目にあたる年だが、同グループの飛躍を語るのに欠かせない作曲/編曲家の井上ヨシマサも、奇遇なことに今年で作家デビュー40周年の節目を迎えている。
現在は大阪芸術大学で客員教授も務めるシンガー・ソングライターの井上ヨシマサは、東京出身・66年生まれ。幼少期からピアノでクラシックを学び、小学生の時にビッグバンドでジャズの基礎を学んだ彼は、中学生になるとコスミック・インベンションの鍵盤奏者として79年にデビューする。中学生がテクノ・ポップを奏でるという話題性もあってバンドはYMOの武道館公演で前座に抜擢もされるが、82年に解散。その頃から作曲していた彼は、ソロを志向しながら曲作りに勤しみ、85年に小泉今日子の『Flapper』で曲が採用されて作曲家デビューを果たす。
当時では珍しい〈アイドルと同世代の作曲家〉として注目される一方、87年には原信夫とシャープス&フラッツの演奏でソロ・アルバム『JAZZ』を発表。その後は作曲/編曲に比重を移して荻野目洋子“スターダスト・ドリーム”(88年)で初のチャート首位を獲得、アニメ「ふしぎの海のナディア」主題歌として知られる森川美穂“ブルーウォーター”(90年)、ハウスに取り組んだ中山美穂“Rosa”(91年)などのヒットを手掛け、他にもTHE GOOD-BYEや田原俊彦、沢田研二、浅香唯、松田聖子、とんねるず、郷ひろみ、森口博子らに楽曲を提供していく。なかでもCMソング“それぞれの夢”は多くの人が意図せず耳にしたことがあるかもしれない。そんななかで旧知の秋元康から始動したばかりのAKB48への作曲を依頼された〈その時〉、彼女たちと井上の双方にとって歴史は動いた。
実際に彼はグループのターニングポイントとなった楽曲を多く手掛けている。初めてTOP 10入りした“制服が邪魔をする”(07年)、レーベルを移籍して放った代表曲“大声ダイヤモンド”(08年)をはじめ、初のオリコン首位に輝いた“RIVER”(09年)、絶頂期の“Everyday、カチューシャ”(11年)、前田敦子センターの最後となった“真夏のSounds good !”(12年)など、近年では柏木由紀の卒業シングル“カラコンウインク”(24年)も記憶に新しい。その華麗な仕事ぶりは今回のアニヴァーサリー作品から辿ることもできるだろう。