北欧プログレの30年選手がいまだ止まらぬ進化を証明する新作!

 スウェーデンのプログレ・バンド、フラワー・キングスによる通算17作目『Love』。すでに結成30年を超えているが、数年おきに新作をリリースというペースは90年代に世に出たプログレ・バンドのなかでも特筆すべき点だ。90年代は北欧から彼らやアネクドテンにアングラガルド、米国からはスポックス・ビアード、本場英国からはポーキュパイン・ツリー、そして鉄のカーテンに隠れていた東欧からコラージュやクィダムといったグループが冷戦終了と共に登場し、プログレ全盛期にあたる70年代前半並みの百花繚乱状態が起こった。それでも30年後も順調に活動を続けているのは一握りである。

THE FLOWER KINGS 『Love』 Inside Out/ソニー(2025)

 歩みを止めないフラワー・キングスの原動力は創始者でありブレインでもあるギタリスト、ロイネ・ストルト。本作を聴くとジェネシスやキング・クリムゾンから影響を受けたスタイルを再確認できつつ、それらのバンドを引き合いに出すのはもはや不要ではないかと言いたくなる。制作前に正式メンバーとなったラレ・ラーションが弾くピアノに導かれて始まる“How Can You Leave Us Now?”の美しさと雄大さは70年代のバンドにはない個性で独自の魅力を醸し出している。同曲や“Burning Both Edges”でのロングトーンを多用したストルトのギター・ソロはスティーヴ・ハケットやデヴィッド・ギルモア、マリオ・ミーロといった名プレイヤーと並べて語るべき素晴らしい演奏。また、モーグやメロトロンなどヴィンテージ機材ならではの温かみのあるサウンド、ジェイコブ・コリアー指揮のクワイアによる重層的なコーラスも聴きどころだ。

 日本では70年代のレジェンドたちを中心に語られることの多いプログレだが、2000年代の中盤以降もムーン・サファリやビッグ・ビッグ・トレインといったバンドがブレイクし、バッド・エレファント・ミュージックなどのレーベルからも新しい才能が次々に登場している。プログレを大樹と捉えると、レジェンドたちは根っこであり、フラワー・キングスは幹のようなものだろう。彼らの新作から根に向かうもよし、葉先に向かうもよし。この『Love』を〈プログレッシヴ・ロック=進化するロック〉の世界に飛び込むきっかけにしてはいかがだろう。

左から、フラワー・キングスの2023年作『Look At You Now』(Inside Out)、ジェイコブ・コリアーの2024年作『Djesse Vol. 4』(Hajanga/Decca)