
言葉のない実験的な電子音楽へ向かった大山田大山脈
――大山田大山脈という、アンビエントやテクノを作るひとりユニットもされていますよね。まずこのユニット名はどこから来たんですか?
「2011年に股下89でフジロックの〈ROOKIE A GO-GO〉に出たんですけど、その時に初めて山の近くに行きまして。で、本当に山が大きくてびっくりしたんですよ」
――大きいですよね。
「その〈おお、山だ! ……大山脈!〉という驚きをそのまま名前にしたんです」
――(笑)。じゃあもう股下89をやっていた時から大山田の構想はあったんですね。
「ありましたね。といっても、最初はそれで音楽をやるというよりは、あだ名みたいな感じで考えていて。例えばYouTubeにアカウント登録する時に名前が必要だったりするじゃないですか。そういう時に使っていました。で、電子音楽を新しく始めるっていう時に名義として使ったっていう感じですね」
――電子音楽をやるというのは、歌がある音楽に疲れてしまったみたいなこともありました?
「ありました」
――なぜでしょうね?
「歌詞を作るのがとても大変で。特にバンドをやっていた頃は、バンドで曲が先にできて、私が後から歌を乗せていたんです。ただ、それは音のムードを崩さないように、消去法で書いていたんです。この言葉はふさわしくないなっていうものを消して選んでいったというか。それがとても大変だったので、その経験をもうしたくないと思って、大山田を始めました。
あとエイフェックス・ツインとか、歌のない音楽を聴くようになっていたのも大きいですね」
――『Selected Early Works』というタイトルのアルバムがありますけど、あれはエイフェックス・ツインの『Selected Ambient Works』からとった?
「そうです。エイフェックス・ツインはリズムへのアプローチよりも、メロディーが好きなんですよね」
――テクノとかエレクトロニカ、アンビエントのあたりではどういうミュージシャンが好きなんですか?
「90年代のワープ周辺のものは好きでした。LFOとかブラック・ドッグとか。アンビエントだとブライアン・イーノとかハロルド・バッドとかですね。あとツーシン(Tzusing)やアンディ・ストットやアルカなどのエクスペリメンタルテクノ、『KOWLOON’S GATE』や『ゆめにっき』などのゲーム音楽からの影響も大きいです」
シンガーソングライターとして深めた内省的表現
――歌詞を書くのが大変だったとおっしゃってましたけど、今回のアルバムには歌詞が入っていますよね?
「それは、バンド用に歌詞を書いて持っていくのと、ソロ名義用に歌詞を書くのとでは、気持ち的に違うところがあるからですね。バンドに持っていく時は、ドレスコードみたいなものが決まっていて、その雰囲気に合わせて提供する感じなんです。だから、制約が自分の中にあって。
それに対してひとりで作る曲っていうのは、もうプライベートなものをそのまま出せる。そういう意味で、ひとりで作っている曲に関しては、歌詞を書くことに対しての〈疲れ〉は感じませんね」
――バンドだとまずメンバーに見せたらどう思われるか考えますよね。
「そうそう。それはあります」
――ソロだとパーソナルなもの、内省的なものでもいいっていうような?
「はい。ソロだとプライベートな要素を押し出しやすいところはありますね」
――大山田でやったことの蓄積っていうのは、今回も反映されているんじゃないかと思ったんですけれど。
「大山田で、アレンジも含めてひとりで曲を完結させられた経験は自分の中で大きいですね。あと大山田で歌ものの曲のリミックスをやらせてもらう機会が何度かあって。そういう経験のおかげで、歌の入っている曲もひとりでやってみようっていう気持ちになれたんです」