〈Refraction〉とは〈屈折〉の意。それが複数形となることでアルバムという集合を示すとともに、個々の楽曲の事象の地平面でも実にさまざまな屈折が起こっていることを仄めかしている。

Cornelius=小山田圭吾の表現を前に私は深読みを禁じ得ない。1990年代初頭にまで遡るこの悪癖(?)を絶ちきるのは容易ではないが、2017年の『Mellow Waves』、その6年後の『夢中夢 -Dream In Dream-』(2023年)、編集盤ではあるが『Ethereal Essence』(2024年)と、近作における内省的なトーンは深読みを誘うよりも音楽家=小山田圭吾の滲み出す滋味を堪能するのを誘うかのごとき興趣があった。むろん世相や空気といったものとも無縁ではない。おそらく小山田はそれらに恬淡と向き合うことを選択した。

そして本文でも述べるとおり〈老成〉といえるかもしれない前作までの〈文脈〉から〈屈折〉の題名を冠した本作で小山田はあきらかに転調している。ジャズにブラジル、サーフィンにインド音楽、ファンクにはデジタライズを施しグルーヴはとぐろを巻くかのごとくである。他方、クレジットに目を落とせば、坂本慎太郎、アート・リンゼイ、ザ・モノクローム・セットのビドにショーン・レノンと、親交のあつい面々が集結し、他者なる壁としてCorneliusを囲繞している。

AIの使い方を指して壁打ちというのは投げたものが予測可能な軌道で戻るからだが、小山田の壁は角度があり、投げたものは屈折し、予想外の方向に向かうことをよしとする。

AIを用い、アートワークやMVの制作にもみずから携わったという小山田に、今回のインタビューではビジュアル方面の質問も数多く行っている。タワーレコードのキャンペーン関連という大人の事情も関係なくはない。とはいえいかなる入射角の質問であってもCorneliusの創作哲学へと屈折させる思考はあざやかである。

小山田圭吾の〈Mind Train〉に乗り込もう。

Cornelius 『Refractions』 ワーナー(2026)

 

AIと肉体的な手作業を融合させる試行錯誤

――『Refractions』はフィジカルにも力が入っていますね。

「今回は自分のイメージを完全に具現化したアートワークを作りたくて、僕がAIで作った画像を、Corneliusのアートワークにずっとかかわってもらっているデザイナーの北山雅和さんにIllustratorで入稿データに起こしてもらいました。今回の作品では生成AIを結構使っていて、そこに肉体的な要素、手作業でスプレーを吹くなど人間の手が入るようなハイブリッドな方法をとっています。アルバムのDeluxe Edition(ワーナーミュージック・ストア限定販売)のアートワークもそことリンクするようなイメージですね」

――『夢中夢 -Dream In Dream-』から『Refractions』へ至る3年のあいだ、環境上の最大の変化といえばAIの社会実装ですよね。

「そうですね」

――AIでなんでもできるようになりました?

「いや、なんでもはできないんですよ、やっぱり(笑)。僕は音の部分と、アートワークやビデオ、歌詞にもAIを使うことがあります。主に言葉や考えを整理する作業に使っているんです。制作のあらゆる側面にAIは入ってきていて数年前に較べたらかなり高度、でも完全にいうことを聞いてくれるわけではないからね。今回、生成AIで映像も作ったけど、どんなにプロンプトを打ってもいうことを聞いてくれない(笑)。でもそのエラーを楽しんでいる部分もあります」

――“夢寝見”などのMVはどのように制作されたんですか。

「まず静止画を作りました。何百枚と作ったなかからいい感じの画像をとりだして、AIに学習させて動かすんです。動かすのもプロンプトです。その作業に去年、ハマってしまって。いま世の中に出ている映像のほとんどは去年制作したもので、最近はそこからさらに進歩していますが、やっぱりまだ完全にいうとおりにはなりませんね」

――ものすごくダイナミックな映像ですよね。

「撮影では絶対できないよね。指示して、それを聞いてくれたり、くれなかったり、ということの繰り返しです(笑)」

――まだまだ試行錯誤が必要というか、時間はかかるんですね。

「僕がAIで制作した一連の映像を実際に撮影しようとしたら、おそらく数千万円単位の制作費がかかると思うんですね。スタッフの人数も半端ではないと思うし、コンピューターグラフィックスの技術とかスタジオの使用料までふまえると、映画並の予算が必要だと思うんです。それを個人でまかなえるというのはすごいことだと思います」

――『Fantasma』から『Point』における変化が象徴的ですが、小山田さんのこれまでのキャリアはどうしても制作費がかさばるような着想をテクノロジーを援用しつつコンパクト化してきた歴史でもあるような気がします。

「ビジュアルでいえば、『Fantasma』のツアーで使用した映像も最初は自分で作っていたんです。当時はVHSの時代でしたから複数のビデオデッキを駆使して、映像を音に合わせながらダビングしていました。そこから辻川幸一郎くんとか、中村勇吾さんとか、今回お願いした大西景太さん、groovisionsもそうですね。いろんな方に映像を作っていただきました。もともとそういった作業は好きですし、今回はイメージする世界観に近いものが自分でもできることが楽しかった。映像を使い始めたころの感覚を思い出しました」