過去を背負いながら同じ名前で生まれ変わった5人組は、嘘のない生き様を自由な発想で音に刻む。妖しくカオティックな魅力を放つニュー・シングルで彼らが本当に表現したかったこととは?
ヴィジュアル系シーンで活動中の5人組バンド・グラビティは、いま変革の真っ只中にいる。2017年に結成した彼らは、V系ファンのツボを刺激するスラングを用いた歌詞、ポップな曲調でフロアを盛り上げる趣向を凝らした楽曲に加え、深夜の東京ドームでキックベース大会を開くなど、突飛な企画も実施。〈とにかくバズって知ってもらう〉というスタンスで、戦略的に活動を続けてきた。その思惑は見事的中。ハイペースでリリースを続け、ライヴ本数も動員も増えてきたが、肉体的にも精神的にも極限状態に。「正直もう辞めたいと思った」と、ヴォーカルの六が明かす。
「例えばTikTokをきっかけに人気になったグループみたいに、その曲でTikTokドリームを掴めたとしても、もともとこれがやりたかったのかな、これをやっていて嬉しいのかな、その印象が名刺代わりになったとして、そのために曲を作っていけるのかなって考えたら、〈無理かも〉って。バンドって別ジャンルには出せないかっこよさが絶対にあって、その別ジャンルの方がバンドをやりたくなるぐらい、真っ直ぐを突き詰めたくなったんです。嘘をつきたくない」。
当初は今年1月にフル・アルバムを発表する予定だったところを、急遽ベスト盤『tUrn OFF』に変更。そこで過去曲を総括しつつ、現状のモードを反映させた新曲“the LI3ght_ON/OFF”を収録し、3月にはハイパーポップ的なサウンドを組み込んだシリアスなトーンのEP『SERAPH1M』をリリース。バンドをリセットするにあたって彼らが取った決断は、解散でも、活動休止でも、改名でもなく、「過去を背負う」ことだった。
「あの時はあの時で必死だったし、それを否定したくはないんです。それに、過去も背負って生まれ変わったほうがおもしろいんじゃないかなって。いまはいまの生き様を全部吐き出したいし、それが世間に認められなかったら潔く散るバンドでありたいなっていう気持ちで臨んでいます」。
このたび完成した最新シングル“ピンク・ドーナツ”では、ヴィジュアル・イメージをこれまでの煌びやかなものからダークな路線に変更。六が以前から患っていた顎変形症の手術を経て生まれたという表題曲は、ヘヴィーなバンド・サウンドを軸にしつつ、大量のエフェクト・ヴォイスがカオティックな空気を醸し出すなか、心の奥底から吹き零れてくる黒い感情を優麗なストリングスが彩っていて、不穏ながらもどこか美しさを感じさせる。
「今回書いた歌詞は全体的に〈欲望〉ばっかりですね(笑)。でもしょうがないです、生き様なので。あと、悩みって常に人間の根底にあって普遍的なものだから、クラシックっぽくしたいと思ってストリングスを入れたり、人の痛みって簡単に触れられるものじゃないから、優しく寄り添うという意味でギターもあまり歪ませなかったり。そういう作り方になりましたね。〈こういうポップな感じにしたら、みんな踊りやすいよね〉とかじゃなくて、考え方がマジで変わりました」。
また、ある種の迎合的な楽曲制作ではなく、六のフェイヴァリットが作品に反映されていることもポイントかもしれない。
「人間って何度も繰り返し悩み続けるじゃないですか。それが円を描いて泳いでいるみたいだなと思って、ドーナツに例えたんですけど。そこは過去を背負うという意味で、ポップさをちょっとお洒落に入れたところだし、自分の好きなマック・ミラーの『Circles』と『Swimming』から来ているところでもありますね。カップリングの“IF ME”(A type収録)は、最近シューゲイザーをよく聴いているのでそんなサウンドに仕上がっています。歌詞が悲しい反面、いつでも聴けるように逆にサウンドは心地良くしてみました。僕の好きなBIGBANGに“IF YOU”っていう同じような内容の失恋の曲があるんですけど、もし自分がそういう状況になったらこういう別れ方はしたくないなって。なので、YOUのところを変えて、“IF ME”にして(笑)」。
本作に強い手応えを感じるがゆえに、「これより良いものを作れるのか心配」と話す六。すでに次作の制作にも取り掛かっているそうだが、「曲が全然できないっす」と笑みを浮かべる。しかしその表情に悲壮感はまったくなく、むしろ楽しそうだ。
グラビティの近作。
左から、2025年のベスト盤『tUrn OFF』、2025年のEP『SERAPH1M』(グラビティ/Happinet)