©Lusine Pepanyan.

ロシアの若き実力派が〈チェロの旧約聖書〉を全曲録音!

 2019年のチャイコフスキー国際コンクールで第3位入賞を果たし、世界から注目を集めるロシアの若き実力派チェリスト、アナスタシア・コベキナ。23年にソニー・クラシカルと契約し、この度レーベル第2弾となる新譜がリリースされた。そこには〈チェロの旧約聖書〉として聳え立つJ. S. バッハの無伴奏組曲全6曲が収録されている。

 「前作は5弦のモダン楽器で16世紀から現代まで巡る音楽旅行をお届けしたので、今回はできるだけオリジナル楽器で演奏したいと思って。1週間のセッションで毎日1曲ずつ録音して、今自分が求めている〈一瞬のスナップショット〉のような仕上がりになったと思います」

ANASTASIA KOBEKINA 『J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲』 Sony Classical/ソニー(2025)

 今回の大きな聴きどころは、1698年製 & 1717年製のストラディヴァリウスとピッコロ・チェロの3挺にすべてガット弦を張って弾き分ける形(第1~3番が1698年製、第4 & 5番が1717年製、第6番がピッコロ・チェロ)で録音されていることだ。

 「1698年製が深くどっしりとした質感なのに対して、1717年製は温かく丸い音色で豊かに歌えるのが魅力。また私はフランクフルト音楽大学でバロック・チェロを学んで7年になりますが、その影響もあり、天使のように光り輝く高音を持ったピッコロ・チェロと出会えたことは本当に幸運でした」

 高名な現代作曲家ウラジーミル・コベキンを父に持つ彼女。その薫陶は、今回の作品解釈にも大いに活かされているという。

 「バロックと現代音楽の共通点は作曲時の録音が存在しないので、解釈の自由度が高いこと。この点、父の音楽に対する考え方も、演奏者や聴き手の自由な解釈を大切にするので、私がそれを聴いて育ったことは、J. S. バッハの抽象的な音楽に普遍性を見出すのに多くの示唆を与えてくれました」

 今年10月には、セミヨン・ビシュコフ指揮チェコ・フィルの来日公演でソリストを務め、ドヴォルザークの傑作協奏曲を披露予定。

 「チェコ・フィルにとってドヴォルザークは自国の文化的ヒーローなので、演奏の質も情熱も別格。マエストロ・ビシュコフも来日前の夏にしっかりリハーサルをやろうと意気込んでくれています」とのことなので、まずは当盤でバロック、そして秋の実演ではロマン派、それぞれの最高峰を瑞々しい感性と知性で存分に堪能させてくれることだろう!

 


LIVE INFORMATION
セミヨン・ビシュコフ指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

2025年10月23日(木)東京・赤坂 サントリーホール
開場/開演:18:20/19:00

2025年10月25日(土)埼玉 所沢市民文化センター ミューズ
開場/開演:13:15/14:00開演

■曲目
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調
チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 op. 64

https://www.japanarts.co.jp/concert/p2156/