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躍動的にスウィングする箏

――では、それぞれの曲についてうかがっていきたいのですが、“シング・シング・シング”は箏で弾くのに苦労したそうですね。

渡辺「箏の奏法に、〈スウィング〉というものはないんですよね。現代曲だとたまにあったりしますが。なので、最初はどう弾いたらいいのかという苦労がありましたが、弾けるようになってからはこの曲にハマってしまって(笑)。あのリズム感がちょっとクセになっている感じです。これはCDのライナーノーツにも書かせてもらいましたが、軽快なリズムに心地好さがあるというか、弾いていて心が弾んでくるので、今ではとても好きな曲になっています」

伊佐津「邦子さんとはもう何年もやらせてもらっているので、アレンジを考える時に、箏だったら弾きにくいかなとか、特にソロパートでは思うのですが、でも、反対に箏でこんな風に弾いたらおもしろいんじゃないかとも思うんですね。だから、“シング・シング・シング”でも同じ音の連打になってしまったり(笑)。それでも箏ならではのニュアンス、他の楽器にはない演奏が出ると思ってアレンジしています」

――アレンジで斬新だと思ったのが“ロミオとジュリエット 愛のテーマ”です。いきなり箏のソロで始まって、終盤のソロがハッピーエンドとはならないラブストーリーの哀しみを表現しているように感じられますが。

渡辺「箏と尺八の対話から始まって、途中でドラムやピアノが加わった時に、わずかな期間ではあったけれど、ロミオとジュリエットが送った楽しい結婚生活が思い出されてくるんですね。哀しいラブストーリーのなかにあってもふたりの幸せ、歓びが感じられるアレンジになっていると思います。

そして、物語は幸せな結末になればいいんですが、そうはならない。その結末に辿りつくまでの空想のシーンが終盤のソロで表現されている。さゆりさんのアレンジをそんな風に感じて演奏しています」

――伊佐津さんがアレンジを考える時は、やはり映画のストーリーを意識しているのでしょうか。

伊佐津「全体的なイメージとしては映画のストーリーは考慮しますが、でも、そこに自分の色を重ねています。場面の展開などを表現したい時は転調を入れたりしますが、コード進行などはどうしても自分好みのものになってしまいますね(笑)」

 

スリリングな転調にも手慣れた対応

――気になるアレンジのひとつに、“ノクターン”があります。優雅でありつつ、明るい爽やかな“ノクターン”が新鮮です。こういう曲にした理由とかってありますか?

伊佐津「理由というより、作曲する時と同じようにアレンジも、アイディアが降ってくる感じなんです」

渡辺「そこがさゆりワールドだと思うんですね。場面展開というのか、このメロディーがここに来る!っていう、弾いていてもワクワク、ゾクゾクするスリルがあって、それがとってもいいと思います。転調が多くあって、箏の演奏上は大変ではあるんですが、そこがまたいいところです」

――前作のインタビューでも箏の転調の場合、箏柱(ことじ)を動かすことでチューニングするので、大変だと言っておられましたよね?

伊佐津「それを知っていても、転調がやめられないんですよ(笑)」

渡辺「13本ある絃のうち10本は、転調のために箏柱を動かさなくてはいけない曲が今回もありまして。でも、それがないと、曲がおもしろくないというか、同じ調で弾き続けるのはね……。聴いている方の楽しみにもなっているので、転調は大事だと思います。

ただ、早いテンポの曲、“彼こそが海賊”や“踊りあかそう”などはスリルがあっていいのですが、失敗しないように神経を使います。転調はどうしても耳に集中して音程を確かめるので、手慣れていないと、やるのは難しいと思いますが、その代わりに曲の内容を豊かにしてくれます」