ピアニストの伊佐津さゆりと、箏奏者の渡辺邦子によるジャズ・イリゼ。新作『シネマ・ソングスII ~スカボロー・フェア~』は、タイトルからもわかるように、好評だった昨年のアルバム『シネマ・ソングス ~シェルブールの雨傘~』につづく映画音楽曲集の第2弾になる。
今回もふたりが観てきた名画を中心に楽曲を選び、その名曲を伊佐津さゆりがアレンジして、箏と尺八という和楽器と、ピアノとベース、ドラム、サックスといった洋楽器がコラボレーションを展開する。それぞれが経験豊富なミュージシャン。技巧はもちろんのこと、経験に裏打ちされた熟練のチャレンジがリスナーの発見になる。そんなアルバムについて話をうかがった。

好評を受けた『シネマ・ソングス』第2弾は幅広い時代から選曲
――前作が好評だったと聞いています。実際にはどんな反響が得られたのでしょうか。
伊佐津さゆり「ホールからの依頼でコンサートを、何百人も入るような会場で『シネマ・ソングス ~シェルブールの雨傘~』からの楽曲を演奏したんですが、すごい反響だったんですね(2024年6月23日に長野・佐久市コスモホール 大ホールで開催された〈トワイライトコンサート Vol. 11「信州で紡ぐ大人のジャズセッション」〉)。曲が終わるたびに拍手がすごくて。その時は箏と尺八、ベース、ピアノという編成だったんですが、よく知る映画音楽も和楽器で奏でると違う感動があるといった声を終演後のアンケートで聞くことが出来ました。観客のみなさんの笑顔を見ることが出来ましたし、本当に驚くほどの大反響が得られました」
――その大反響が第2弾への背中を押した感じでしょうか。
渡辺邦子「数ある映画音楽のなかで、この曲もいいね、というのがまだまだたくさんあったものですから。ならば、もう1回という感じで、去年とはまた異なる欲も出てきたので、第2弾を制作するという選択になりました」
伊佐津「最初は他のジャンル、クラシックやポップスの曲を演奏することもちょっと考えてはみたんですけれど、でも、これだけ観客のみなさんに喜んでいただけたってことが、もう一度シネマソングスを選んだ大きな理由です」
――選曲は悩みましたか? 1950年代の名画「愛情物語」から、「パイレーツ・オブ・カリビアン」のような2000年代以降の映画まで幅広い時代の作品からの選曲になっていますよね。
伊佐津「古い時代の映画であっても、『愛情物語』の“ノクターン”は一般的によく聴かれているメロディーですし、反対に『パイレーツ・オブ・カリビアン』の“彼こそが海賊”を選んだ理由は、コンサート会場に中高生のような若い人の姿があったのもありますし、学校の吹奏楽で演奏されている曲でもあるんですよね。最終的にいろいろな時代から選曲しました」
渡辺「“シング・シング・シング”もオリジナルは1930年代だったかしら、古い曲です。でも、2004年の映画『スウィングガールズ』で演奏されたので、若い世代にも耳馴染みのある曲ですよね」
――そういう意味でも音楽が接点になっている映画って結構ありますよね。おふたりもご覧になった想い出の映画から、やはり選びたくなりましたか?
渡辺「映画館で観た作品は、シーンでも、音楽でも心に残っているものがあります。音楽と映画が結びついて、さらにその時の自分の想い出とも重なって忘れられない作品って結構ありますよね」
伊佐津「コンサートの観客からも演奏を聴いて、映画がとても懐かしく思い出されたといった声をいただいているので、観た映画というのは選曲の理由になっています。
ですが、私の場合は、小学校低学年の頃にヤマハ音楽教室でエレクトーンを習っていて、映画音楽曲集を練習で弾いていたんです。なので、子供の頃から馴染みのある、そういう意味で懐かしいという曲も選んでいます。たとえば、“追憶”や“スカボロー・フェア”、“風のささやき”、“踊りあかそう”などがそうです」