未来に伝統を伝えるユニークなプロジェクト
アルト・サクソフォニストとして活動するいっぽう、マルディ・グラ・インディアンのビッグ・チーフとしてニュー・オーリンズの伝統文化継承の一翼も担うドナルド・ハリソンが、新作『ザ・マジック・タッチ』を発表した。同じ曲を9種類の異なる音楽スタイルで録音するというコンセプトだが、このアイディアは2006年のアルバム『3D』にまで遡る。
「僕は1920年代から60年代に至る、あらゆる時代のジャズ・アーティストと共演していた。チャーリー・パーカーの〈実体験のないことは楽器からは出てこない〉という言葉を信じて、あらゆる時代の偉大なジャズの先達と共演しようと心に決めていたからね。それで、ジャズはもちろん、これまでに学んだソウルやR&B、ファンク、クラシックなどの要素も全てミックスしようと思ったんだ」
そのアイディアは1990年代からあったが、レーベルの理解を得られず、自主制作の『3D』でようやく実現させた。ニュー・オーリンズの伝統音楽とクラシックが融合した『コンゴ・スクエア組曲』や、ジャズとトラップ・ヒップホップを融合した『ジ・アート・オヴ・パッション』といったその後の作品も、コンセプトは新作と同じだ。
新作では、ヌーヴォー・スウィングからスムース・ジャズ、ボサ・ノヴァ、ブルース、セカンド・ライン、トラップ・ヒップホップまでと多様で、現在のドナルドのバンドのレギュラーであるジョー・ダイソンや奈良岡典篤、ヘッドハンターズのビル・サマーズ、クリス・ボッティ、メイズのマッキンレー・“バグ”・ウィリアムズなど、それぞれのスタイルに最適なプレイヤーを起用している。スウィングに〈ヌーヴォー(新しい)〉という形容詞が付いていたり、ドナルドにとってネイティブなセカンド・ラインを都会的なサウンドに仕上げていたりするところからは、新作が懐古趣味ではなく、未来志向であることがうかがわれる。
「僕は長年の間、フレッド・ウェスリーからはファンク、アート・ブレイキーやマイルスからはジャズといったように、それぞれのスタイルを築いてきた人たちから学んできたから、いろいろなスタイルのアレンジが見えるんだ。万華鏡を回転させるみたいにね」
来る11月に、まさにそのアート・ブレイキーが率いたジャズ・メッセンジャーズのトリビュート・バンドでドナルドが来日する。過去と未来を見据える彼がどんな演奏を聴かせてくれるか楽しみだ。
LIVE INFORMATION
COTTON CLUB 20th Anniversary
A JAZZ MESSENGERS TRIBUTE TO ART BLAKEY
2025年11月21日(金)、22日(土)、23日(日)、24日(月)コットンクラブ
■出演
Brian Lynch(トランペット)
Donald Harrison(サックス)
Robin Eubanks(トロンボーン)
Benny Green(ピアノ)
Alex Claffy(ベース)
Carl Allen(ドラムス)
https://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/jazz-messengers/