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「完璧に修復されたノートルダム寺院のオルガンの、夢の音響を楽しんでいただきたい」

 世界に衝撃を与えた火災から6年。パリのノートルダム大聖堂のオルガン奏者を務めるヴァンサン・デュボワ氏が、復旧された大聖堂のオルガンでノートルダムにゆかりの作品を録音した。8月には来日し、サントリーホールのオルガン・フェスティバルで超絶技巧が要求される19-20世紀の大曲を鮮やかに弾きこなしたリサイタルを開催。ノートルダムの大オルガンへの思いを聞く。

VINCENT DUBOIS 『永遠のノートルダム』 Warner Classics(2025)

 

――ノートルダム大聖堂のオルガンとの出会いは。

「16歳の時にこのオルガンの音を初めて聴き、オルガンとはこういうふうに響くのだと感激しました。今でも演奏するたびに鳥肌が立ちます。この5年間、自分にとって大事なもの――家族のような仲間や生活や仕事――が全てストップしてしまったのはきつかったです」

――修復後は何が変わったのだろうか。

「石を洗浄したので壁が白くなり、雰囲気が一変しました。オルガンは前と全く同じに修復されたのですが、聖堂を綺麗にしたので音響がクリアになり、特に高音がよく響きます」

――ノートルダム大聖堂のオルガンは、19世紀フランスの製作者カヴァイエ=コルによる銘器として知られる。

「オルガンの個性がかなりはっきりしていて、すべての音が特別です。重低音が非常に豊かですし、高音に行くほど豊かな丸い音になる。それはパイプが倍音を生かす設計になっているからで、そこがカヴァイエ=コルの秘密なのです。彼は750台のオルガンを作りましたが、ノートルダムのオルガンが一番お気に入りということでした」

――復活したオルガンを演奏した新譜のプログラムについて。

「すべてがノートルダムのオルガンに繋がるよう工夫しました。バッハを入れたのは、ヴィエルヌらノートルダムのオルガニストと親交があり、バッハに造詣が深いシュヴァイツアーの生誕150年という理由もあります。ヴィドールやフランク、ヴィエルヌはノートルダムのオルガンと関係が深く、彼らの作品はフレンチ・オルガンの系譜という形で聴いていただくことができます。あとの作品は、ノートルダムのオルガン奏者の編曲版です。完璧に修復されたノートルダム寺院のオルガンの、深く詩的な夢の音響を楽しんでいただきたいと思います」

――サントリーホールのオルガンについて。

「かなりモダンな系譜のオルガンで、とても美しい、いい楽器だと思います。あらゆるレパートリーを弾くことができる構成の楽器です。ホールの音響が素晴らしいのも貴重ですね」