日本のグレイトフル・デッド――めんたんぴんの佐々木忠平が伝説を語る!!
72年に石川県小松市で結成され、〈日本のグレイトフル・デッド〉とも呼ばれ、熱狂的な支持を得た伝説のロック・バンド、めんたんぴん。佐々木忠平(ヴォーカル/ギター)、池田洋一郎、飛田一男(共にギター)、石崎三郎(ベース)、沖村公平、寺井貢(共にドラムス)を中心とする彼らの初期3作品がアナログ盤でリイシューされる。
このバンドは81年の活動休止以降も断続的に再結成してきたが、リイシューを機に元メンバーが再結集。新たな活動を開始するのだという。今回は佐々木に電話インタヴュー。今回復刻される3作品のことや、あくまでも〈ローカル〉にこだわり続けてきた、めんたんぴんの歴史について語っていただいた。
彼らが前身となるめんたんぴんブルースバンドを始めたのは69年冬。当時はブルースとローリング・ストーンズのカヴァーを中心にしていたが、やがてオリジナルを歌うめんたんぴんとして活動を始める。その頃、佐々木は京都と小松を行き来する生活をしていたのだという。
「僕にとっては村八分が京都から出たということが大きくて、京都に一時住んでたんですよ。当時のロックの中心は京都でしたし。東京にはビジネスとしてのロックがありましたけど、若者がロック的に生きようという感覚は京都や大阪のほうが強かったと思います」。
〈日本のウッドストック〉とも呼ばれた野外フェス〈夕焼け祭り〉での熱演などで少しずつめんたんぴんの名が広がるなか、74年、佐々木はサンフランシスコでグレイトフル・デッドのライヴを初体験する。佐々木は「そこで人生が変わっちゃったんです」と話す。
「本当に痺れる音だったんですね。クリアな音が直進してくるんです。あのときのデッドは5時間ぐらいやってましたけど、完全に宇宙遊泳させられましたよ。後半は1曲30分くらいやってましたから。〈これしかないな〉と日本に帰ってみたら、残ったメンバーが偶然デッドのカヴァーをやってたんですよ」。
以降、めんたんぴんは自前のサウンドシステムをトラックに積み込んで全国を回るというグレイトフル・デッド・スタイルのツアーを行うようになる。
「4トン車にPAを積み、僕らはハイエースに乗って全国を回ったんです。PAは金沢の楽器屋に注文しました。品のいいALTECのスピーカーにしたので、えらい金がかかりましたよ」。
そうしたツアーが評判になったことで、75年には名門レーベル、フィリップスからファースト・アルバム『MENTANPIN』をリリース。彼らの日常を歌った“コンサート・ツアー”、ライヴの定番曲“木こりの唄”などの代表曲を収録し、いずれの楽曲でも日本語が大切にされている。
「当時、日本語と英語、どっちで歌うべきかと論争されていましたけど、僕らはどっちでもいいじゃんと思ってました」。
76年にはセカンド・アルバム『MENTANPIN SECOND』をリリース。前作以上にジャムの割合が増え、独自のサイケデリック・ロックを展開している。
「この頃はものすごい数のライヴをやってて、その合間にアルバムを作っていたんです。やっぱり毎日ライヴをやってるっていう強みですよね。ライヴでやってたことがそのまま反映されていると思いますし、エンジニアがそのあたりの塩梅を大事にしてくれたんですよ」。
また、“今日も小松の街は”や“国道8号線”などでは地元の風景が描写されており、めんたんぴんが活動していた小松の町の風土も見えてくる。
「僕はそういうことを表現するのがロックの本道だと思ってましたから。日本のロックもそうなると思い込んでたんですけど、なぜかそうならなかったですね」。
76年のサード・アルバム『カントリー・ブレックファスト』はLAのワーナー・ブラザース・スタジオでレコーディングされた。佐々木は「ライヴ続きで、もうヘトヘトだったんですよね。曲のストックもなくて、向こうのホテルで書きました」と話すが、そのような状況で制作されたとは思えないほど楽曲は粒揃い。なかでも〈始まる場所は生まれたとこから 始まる場所は育ったとこから〉と歌われる冒頭曲“始まる場所は”では、彼らのアイデンティティーが改めて宣言されている。
「アメリカに行ったからこそ、そういう歌詞が出てきたんですね。自分のことが俯瞰できるようになったんだと思います。僕らは東京でライヴやろうが、どこであろうが一緒なんですよ。あくまでも小松人であるということ。独立独歩という思いが強かったんです」。
今回この3枚のアルバムがリイシューされることについて、佐々木はこう話す。
「地元の人もめんたんぴんのことを知っているようで知らないんですよ。そういう人たちに〈かつて小松からこういうバンドが出たんだ〉ということを知ってほしい。12月に元メンバーが集まって〈めんたんぴん小松セッション〉をやるんですが、音楽を楽しみながら故郷のことを知る機会になればと思います」。
ローカルに根差しながら、流行に流されることのない作品作りを続けてきためんたんぴん。彼らの骨太な音とスピリットに触れてほしい。 *大石 始
めんたんぴんのメンバーの関連作を一部紹介。
左から、池田洋一郎を擁するコクシネルの86年作『BOYS TREE』(バルコニー/いぬん堂)、飛田一男が作曲に参加した浅川マキの96年作『こんな風に過ぎて行くのなら』(ユニバーサル)


