ライヴハウスをちぎれるほど熱狂させている3人から、いまを生きる若者たちの〈恋愛〉を切り取ったニューEPが到着!!! 純粋で曖昧、ときに暴走する彼女や彼の顛末は?

とにかくライヴが好き

 大阪・寝屋川発の3ピース・ロック・バンド、the paddlesがサードEP『結婚とかできないなら』をリリース。高校1年の春に軽音楽部で出会い、すでにキャリア11年目となる彼らは、メンバーの脱退などがありながらも歩みを止めず、ライヴハウスで着実に力を付けてきた。

 「高2から寝屋川VINTAGEにお世話になってます。結成当初はそのライヴハウスにだけ出てた感じやったんですけど、徐々に活動が本格化していって」(松嶋航大、ベース)。

 「先輩のUnblockやyonige、後輩のBlue Mashやgrating hunnyが、気付けば近くにおったね。僕たちはホンマに叩き上げのバンドで、とにかくライヴが好きなんです。去年は100を超える本数をやったし、やってないとおもろない。レーベルメイトのkoboreにも感化されました。〈どんだけツアーすんねん!〉みたいな彼らの姿を見てたから。〈ライヴこそthe paddlesの良さがいちばん伝わる〉という考えのもと、意識的に増やしてます」(柄須賀皇司、ヴォーカル/ギター)。

the paddles 『結婚とかできないなら』 Paddy field(2025)

 「皇司は打ち上げでケンカじゃないけど、想いをぶつけ合って仲良くなったりする」(松嶋)、「精神性に共通点のある、闘争心が強い奴に惹かれますね。bokula.やArakezuriはまさにそう」(柄須賀)と話す通り、切磋琢磨してきた仲間は多い。果敢にライヴを重ねるなかで、今年2月に正式加入した新ドラマーの渡邊剣人とも巡り会えたのだという。

 「SNSで見つけたんじゃなく、たまたまイヴェントで共演したのがきっかけ。ライヴをたくさんやってたおかげですよ。プレイが素晴らしいうえに〈the paddles顔〉なので(笑)、すぐピンと来ましたね。これまでと異なるタイプのドラマーなのもよかった。前任の(加賀屋)航平は歌に寄り添うシンプルなアプローチだったのに対し、剣人はいい意味で現代ナイズされたシャープな叩き方。自分たちの幅を広げられると思ったんです」(柄須賀)。

 「サポートをいろいろやってきたけど、過去イチしっくりきたのがthe paddlesで。歌やサウンドが好みなのはもちろん、さっき話に出たようなライヴ感やバンド像が自分の理想とするものだったんです。それをお母さんに伝えて、曲を聴かせたら〈カッコいいじゃん、入っちゃいなよ!〉と言ってもらえたのも大きい。音楽に詳しくはないんですが、直観が僕と似ているので信頼していて。気持ちを見抜いてくれました」(渡邊剣人、ドラムス)。

 ギター・ロックやパワー・ポップを主軸にしてきたthe paddles。初期は青春を歌うことが多かったけれど、現在は思春期に限定されない恋愛の曲が増えたりと、テーマも多彩になってきている。

 「その年齢やタイミングでしか書けない曲を心掛けているんです。学生の頃はジャンルにこだわってましたけど、最近は囚われなくなりました。歌詞も〈思い出〉〈友情〉〈不条理〉がメインやったけど、世の中の人、ライヴハウスに来てくれる人の暮らしを考えるうちに、〈恋愛〉の曲も作ってみようかなと。みんな等しく悩んでるはずやし、たぶんいましか書けないテーマじゃないですか。2022年の“予測変換から消えても”以降、積極的に取り組んでます。コロナ禍にいったん就職して、見える景色が変わったことも転換点でした」(柄須賀)。

 

感情って本来は曖昧なもの

 今回のEPは、新体制初のまとまった音源集だけにフレッシュなムードが満載。なおかつ、従来のthe paddlesらしさも感じられる全6曲が並ぶ。

 「特にコンセプトがあったわけじゃなくて方向性も違う6曲やけど、同じ盤に収めたらちゃんとthe paddlesの名刺になる。そんなEPやと思います」(柄須賀)。

 「剣人のドラムだから実現できたアレンジばかりなんですよ。皇司の歌詞によって、不思議な一貫性が生まれているところも気に入ってますね」(松嶋)。

 「個人的には、初めて正規のバンド・メンバーとしてリリースできる全国流通盤。好きなことをやれていて、こうして形になったことが嬉しいです」(渡邊)。

 印象深いのは、一段と振り切った恋愛ソングの数々。ジャケット・アートワークのように、熱意や嫉妬の赤が思い浮かぶ、感情的で狂気的で倒錯的な世界観に驚かされる。冒頭曲“ちぎれるほど愛していいですか”の〈ちぎれるほど〉という表現から早くも強烈だ。

 「高校時代から言うてる皇司の口癖なんですよ(笑)。〈ちぎれるほど眠たいわ〉〈ちぎれるほど酔うてる〉とか、ホンマによく使っていて」(松嶋)。

 「ストイックな恋愛模様を描きました。ジャケは曲数を示す6本のアネモネが燃えた、中心が目にも見えるちょっと怖いデザインにしています。花を育てる趣味はないけど、誰かに贈る行為や花言葉の存在は素敵だなと思っていて、そういう取っ掛かりから書いたのが“赤いアネモネ”。さらに“恋愛ヒステリック構文”は、ラランドの大好きなネタ〈お母さんヒス構文〉の音楽版みたいな試みをふざけ倒してやりました(笑)。EP全体にコミック感とラブコメ感が散りばめられているのもいいんじゃないかな」(柄須賀)。

 「“ちぎれるほど愛していいですか”も“赤いアネモネ”も、サウンドは軽やかでポップなんですよね。跳ねたリズムなど新たな要素も聴きどころです」(渡邊)。

 「6曲のなかでもっとも強いワード」(柄須賀)という理由から、EPタイトルになったのが“結婚とかできないなら”。この曲はどんな経緯で作られたのだろうか。

 「手短に連絡を取って会う恋愛が増えるなか、〈結婚できへんのになんで付き合ってんねやろ〉みたいな焦りや迷いを抱いている人も多いんじゃないかと思ったんです。あと、昨今のエンタメについては受け手が答えを求めすぎる、起承転結がハッキリしたものを欲する傾向があるので、〈とか〉をあえて不恰好に残し、〈結〉の部分がない、2人の関係がダラダラと続くようにも描きました。人間の感情は本来、これくらい曖昧なのがリアルだと思う」(柄須賀)。

 代表曲“ブルーベリーデイズ”の続編ですでに配信シングルとしても発表されている“夏の幻”、できるだけ一定に揃えたビートやループ感を持たせたコード進行のもとで、バンドの現在地を着飾らず力強く歌った“会いたいと願うのなら”も秀逸で、来年に控えたリリース・ツアーへの期待が膨らむ。

 「再スタートですね。いろんな経験をしてきたけど、剣人が入ってくれて1年目の気分に戻れた感じもある。めっちゃいい状態やと思います!」(柄須賀)。 *田山雄士

the paddlesの作品。
左から、2019年のミニ・アルバム『EVERGREEN』、2020年のシングル『スノウノイズ / 22』、2020年のミニ・アルバム『THE ERA』、2022年のミニ・アルバム『efforts』、2023年のEP『ベリーハートビート E.P.』、2024年のEP『オールタイムラブユー E.P.』(すべてPaddy field)

 

国産ギター・ロックの震源地……the paddlesが所属するPaddy fieldをチェック!!

 東京拠点のレーベル、Paddy field。その運営に携わるのは自身もバンド活動をしている藤田政司だ。レーベルの誕生には〈府中発〉を謳うkoboreの躍進が関係している。当時、koboreは〈ビクターロック祭り〉へのオープニング・アクトでの出演が決まるなど注目を集めていたが、レーベルや事務所には所属しておらず、自主で活動していた。そこで、彼らをサポートするために藤田はメンバーと話し合い、2017年にPaddy fieldを設立。以降はNegative CampaignやDear Chambersといったアップカマーたちを世に送り出しつつ、Paddy fieldからのリリース経験を問わずに集められた若手バンド中心のコンピレーション・シリーズ〈to the next field〉も展開。2021年にはサブ・レーベルのPaddy field SUMMERを立ち上げ、これまで以上に幅広い世代や音楽性を持つバンドをフォローしている。藤田がもっとも重要視しているのは〈メロディーの良さ〉と〈ライヴの力〉。koboreやthe paddlesを筆頭に多くのバンドが飛躍を遂げている点からも、彼の審美眼の確かさは明らかだろう。

Paddy fieldのカタログを一部紹介。
左から、3SET-BOBの2024年のEP『ANTHEM』(Paddy field SUMMER)、Dear Chambersの2022年作『you & me』、2021年のコンピ『to the next field 4』、Negative Campaignの2019年作『Negative Campaign』(すべてPaddy field)

 

kobore 『アケユク ヨル 二』 Paddy field(2017)

Paddy filedの1ページ目を飾った記念すべきミニ・アルバム。〈月平均10本〉というライヴ現場で鍛えられたバンド・サウンドは、一切の迷いなくまっすぐに聴き手の心を貫く。何かが始まる予感に溢れた、夜明け前の光の如きロック。

 

kobore 『ヨル ヲ ムカエニ』 Paddy field(2018)

ヨル、ふたたび。〈タワレコメン〉にも選ばれ、さらに知名度を上げた本作には、バンドを代表するアンセム“ヨルノカタスミ”、スタンスを明快に歌った“ローカルから革命を”などを収録。独りぼっちのリスナーへと灯を差し出すような優さが溢れる。

 

POETASTER 『Imagination World』 Paddy field(2020)

2013年に結成された八王子出身の4人組。もともとFIVE RATに所属していた彼らのリリースは藤田のなかで〈新たな挑戦〉だったそう。メンバー脱退を経たバンドにとっても再始動の一枚にあたり、世界に飛び込む意思が漲るミニ・アルバムだ。

 

灰色ロジック 『see the sea』 Paddy field(2021)

藤田が〈珍しく自分から手伝おうと声を掛けた〉というつくば出身の2人組によるファースト・フル・アルバム。スケール感の大きいギター・サウンドに魂の震えを重ねた、長く聴かれるべきオルタナの傑作だろう。配信なしで、CDパッケージのみ。

 

THE JAPANESE PRIDE 『FEVER TIME』 Paddy field SUMMER(2025)

レーベルの新ラインからリリースされた3人組の最新EP。〈Paddy field SUMMERのキーワードはパンク〉と藤田が語る通り、メロディックからハードコア、スカまでを痛快に鳴らしている。エア・ホーンも活躍する“SUPER PARTY”が最高!

 

Halujio 『days』 Paddy field(2025)

〈府中発〉を標榜している4人組はkobore直系の後輩。BUMP OF CHICKENの楽曲から取ったバンド名が示すように、楽曲の耳馴染みの良さは特筆すべきで、歌声とメロディーが魅力的だ。ポスト・ロック的な演奏の細やかさも聴きもの。 *田中亮太