バンドでライヴハウスに立って演奏する、それだけでいい。挫折や失恋を乗り越え、男はロック・シーンに戻ってきた。かつて友たちと交わした約束を守るために――

やりたいのはバンドだけ

 日本のギター・ロック~メロコアを経由した、衝動と抒情性を併せ持つバンド・サウンド。そして、恋愛やバンド活動への葛藤など、みずからの経験や感情を源泉とするソングライティング。音、言葉、歌が一体となってリスナーの心を揺さぶる、真のエモさを備えたロック・バンドだ。

 その名はWorld’s End Super Nova(通称ウェスン、以下WESN)。くるりの楽曲タイトルを冠したこのバンドの中心は、大阪出身のツモトアキ(ヴォーカル/ギター)。結成は2015年頃。何度もメンバー・チェンジを繰り返しながら、現在はサポートのヨシダアニキ(ドラムス)、ヤマモトリョウスケ(ベース)と共に3ピース・バンドとして活動している。

 「僕がWESNの前にやっていたNOAはツイン・ヴォーカルのメロコア・バンドで、英語で歌うことが多かったんです。2014年にNOAが活動休止になって。音楽、バンドを辞めるということはまったく考えなかったし、次は自分のやりたいことを全力でやれるバンドを作ろうと思って、WESNを組みました。自分にとっていちばんデカかったのは、日本語で歌いたいということ。(音楽的にも)表現したいものの幅が広かったし、わがままにやってますね」(ツモト:以下同)。

 バンドの音楽に惹かれ、ギターを弾きはじめたきっかけは、ASIAN KUNG-FU GENERATION。以降、くるり、BUMP OF CHICKEN、BEAT CRUSADERSなどを聴き、Hi-STANDARD、横山健を知ったことでメロコアに傾倒。一方で幼少期には両親の影響で松任谷由実や山下達郎の曲に親しみ、「安藤裕子さんやSalyuさんなどの女性シンガーも好きです」というツモト。音楽的嗜好は一辺倒ではないが、音楽をやる手段としてはバンド以外には考えられないという。

 「自分にとってはバンドがいちばん手っ取り早いし、とにかく楽しいんですよね。バンド以外にも音楽を作る方法はいっぱいあるけど、やりたいのはバンドでライヴハウスに立って演奏することなので。宅録で作った曲をサブスクに上げるだけでは納得できないというか、〈ホンマに届いてんの?〉みたいな気持ちになっちゃいそうで(笑)。メンバーが突然辞めたり、チャンスが巡ってきそうなときに失速することもあったんですけど、バンドを続けることしか考えてないんですよ。それがなくなると、何をやったらいかわからなくなるというか……。あと、支えてくれた人たちとの約束を果たしたいという気持ちもあります。〈また対バンしような〉とか〈次のバンドでもウチのライヴハウスでやってよ〉みたいなことなんですけど、まだそれら全部を実現しているわけではないので」。

 

失恋して、どん底まで落ちて

 2021年には、コロナ禍でダメージを受けたライヴハウスに人が戻るようにという想いを込め、ライブ会場限定の無料配布音源『夜の歌、夢で逢えたなら』を発表。現場主義を貫き、ライヴハウス・シーンでの支持を強めてきたWESNは今年6月に初の配信シングル“ミッドナイトソングライティング”を発表した。シャープな疾走感を湛えたビート、鋭利な響きを放つギター、創作活動に対する濃密な感情を反映したヴォーカルがぶつかり合うこの曲には、WESNの個性と決意が刻まれている。

 「今回のアルバム『EHON』のリリースが決まっていたので、まずは名刺代わりになる曲を出したくて。WESNらしさがあり、いまの自分たちの新しい表現も取り入れながら、ガシッとした曲にしたいと思っていました。タイトルは、かっこつけて英語にしてますけど、〈夜中に曲を書いている〉ということですね(笑)。僕は絵も描くんですけど、創作はやっぱり夜のほうが合うんですよ。アレンジはめっちゃアナログなやり方ですね。弾き語りしたものを聴いてもらって、全員で合わせて。それをずっと聴き返しながら、頭の中で展開とかを考えまくって、またスタジオで演奏して。だいぶ手間がかかってますけど、想像していたものが形になっていくとどんどん脳汁が出てきて(笑)、〈うわ! めっちゃ楽しい!〉ってなるんですよ」。

World’s End Super Nova 『EHON』 惑星堂(2023)

 “ミッドナイトソングライティング”を含むニュー・アルバム『EHON』は、ツモトの創造性とバンドのこだわりが凝縮された作品だ。

 1曲目の“惑星と流星群”は、〈約束を果たすため僕はここまで来たんだ〉というラインが印象的なミディアム・チューン。ライヴでも導入として演奏されている、WESNのテーマソングと呼べる楽曲だ。

 「ライヴハウスの景色と自分の心の中にある世界を行き来しているようなイメージですね。いろんな人との約束を思い出しながら、演奏に没入していくための楽曲というか」。

 大切な〈あなた〉の不在をテーマにした“愛の歌”、〈伽藍堂 僕の心は消えて無くなった〉からはじまる“ぬくもりの歌”は、ツモト自身の体験を下敷きにした楽曲。

 「失恋して、どん底まで落ちて、〈何のために生きたらええねん〉みたいになって。“愛の歌”“ぬくもりの歌”は、大好きだった人と一緒にいられなくなったときの曲ですね。いちばんキツかったときも、曲はずっと書いてたんですよ。たぶん、そうしないと自分の精神を保てなかったというか……。自分の想いを曲にして、人前で歌って。そうやって〈別れたことにも意味がある〉と思い込ませないと、人間としての形を保てなかったんだと思いますね」。

 

心を燃やすきっかけになれたら

 それに対して、〈世界の全ては2人のもの〉というロマンティックなフレーズが印象的な“いつか最愛をあなたへ”、2人だけの満たされた日常を映し出す“凌霄花の流れる日々に”からは、穏やかな幸せが伝わってくる。アルバムの後半に置かれたこの2曲ももちろん、彼自身の環境の変化を背景にしている。

 「いま一緒に生活している人に出会って、自分の生活も一変して。それまでは〈自分が不幸せじゃないと、過去の出来事に対して不誠実じゃないだろうか〉と思い込んでいたんですけど、そんな状態から少しずつ抜け出すことができた。そのことを曲にしたいと思って書いたのが、“いつか最愛をあなたへ”なんです。“凌霄花の流れる日々に”は……安藤裕子さんの“のうぜんかつら”が子どものときにすごく好きで。あの曲が使われていたCMの映像もそうですけど、僕の中で幸せのテンプレートみたいになっている作品なんです。一緒に生活している人との日常のなかで、ふと“のうぜんかつら”を思い出した瞬間があって、それがこの曲のきっかけになってます」。

 アルバムの最終曲“夜の歌”は、コロナ禍のなかで制作された楽曲。メロコア直系のビート、爆発的な解放感に溢れたメロディーと共に〈そう今夜 それから僕らはそれぞれ歩みを進める〉というフレーズが響き渡るパワフルな楽曲だ。

 「ライヴハウス界隈、音楽業界とかが全部止まってしまって。みんなの元気がなくなっていくなかで、〈俺も同じ気持ちだよ〉と伝えることで、どうにかがんばって、心を燃やしてくれるきっかけになったらなと思って書いた曲ですね」。

 CDのブックレットには、曲の世界に合わせてツモト自身が描いた絵が掲載され、まさに〈絵本〉のような仕上がりに。ツモト自身の人生に裏打ちされたWESNの音楽は、リスナーの経験や感情と重なりながら、それぞれの日々を照らし出すことになるはず。そして、ここから始まるWESNの新たなフェイズにもぜひ注目してほしい。

World’s End Super Novaが配信で発表した作品。
左から、2019年のミニ・アルバム『アラカルト』、2023年のミニ・アルバム『短編集』(共にWorld’s End Super Nova)

文中で言及されたバンドの最新作。
左から、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの2023年作『サーフ ブンガク カマクラ(完全版)』(キューン)、11月3日にリリースされるくるりのニュー・アルバム『感覚は道標』(スピードスター)、Hi-STANDARDの2023年の7インチ“I’m a Rat”(Fat Wreck Chords)

 

WESNと併せてチェックしたい、メロディックでパンクでエモな日本のギター・ロック盤!!!
ディスクガイド/田中亮太

Left 『新天地より』 Ailet(2021)

福岡・久留米で結成、2008年から大阪が拠点の4人組はWESNと長く共演を重ねてきた。疾走感と切なさに溢れたメロディック・パンクの演奏に加えて、声質の違うツイン・ヴォーカルが魅力。5作目にあたるこのミニ・アルバムも聴き手に勇気を与えてくれる。

 

鉄風東京 『From』 No Big Deal(2023)

仙台発、平均年齢20歳の4人組が先日リリースしたばかりのタワレコ限定EP。エモ~ポスト・ハードコアの影響を感じさせつつ、間奏の強烈なノイズに痺れる“SECRET”、メロの良さに耳を奪われる“HOW IS LIFE”など表情豊かな6曲を収録しています。大器の予感!

 

BUZZ THE BEARS 『咆哮』 THE NINTH APOLLO(2021)

ツモトがWESN以前に在籍していたNOAはTHE NINTH APOLLOから作品をリリースしており、この大阪発の3ピースはかつてのレーベルメイト。自由への渇望を叫ぶ“READY?”、高速2ビートのショート・チューン“180°”などメロディック王道を邁進する7曲入りだ。

 

Blue Mash 『学生街より e.p』 十代のすべて(2022)

WESNと同じく寝屋川のライヴハウス、VINTAGEを根城にしている4ピースの、新体制になってからの初音源。青春時代に特有の焦燥感をストレートに映し出すサウンドには耳を奪われるが、心の震えをそのまま発しているかのような歌声がなによりも眩い。

 

SPARK!!SOUND!!SHOW!! 『NU BLACK』 SPA!DUPA! Inc.(2019)

『EHON』収録の“未完傑作”はツモトの10代からのバンド仲間が上京した際、再会を願って書かれたもの。その親友とは〈スサシ〉のタナカユーキ。この2作目ではインダストリアル・テクノやトラップなど多様な音楽性を独自のミクスチャーとして鳴らしている。

 

the paddles 『ベリーハートビート E.P.』 Paddy field(2023)

こちらも寝屋川を拠点にしているパンク・バンドの最新EP。柄須賀皇司の蒼さを残した歌声と爽快感に溢れた演奏がキラキラと輝いています。衒いのないラヴソング“プロポーズ”、失恋から歩み出す心を綴った“ブルーベリーデイズ”など、甘酸っぱさがたまりません。

 

pavilion 『Moonsault』 Pavilion(2023)

東京発の3ピースによる初作。グランジを背景にしたノイジーなギター・サウンド、あっけらかんとした明るさと陰りを同居させる歌声が耳を引く。疾走感のある “Hit-or-Miss”などキャッチーな楽曲はもちろん、終盤の長尺な2曲に醸される色香にもグッとくる。

 

SAGOSAID 『Tough Love Therapy』 Re:Me(i)/SECOND ROYAL(2023)

she saidを率いていた彼女のソロ・ユニットにはVINCE;NTや元シャムキャッツのメンバーが貢献。90年代オルタナ譲りの不機嫌な歌い回しに、Y2Kリヴァイヴァルにシンクロするポップさを重ねています。世界に毒づきながら、弱さを曝け出す様がクール&キュート。

 

FOMARE 『midori』 ソニー(2022)

群馬発の3ピースによるメジャー初作。シンガロング必至なメロディーとタイトにまとまった演奏にはパンク門外漢のリスナーでさえ心を動かされるだろう。Hump Backの林をヴォーカルに迎えた"恋につられて"を筆頭に、〈好き〉の切なさを直視する言葉も素晴らしい。