大江千里がジャズピアノの概念をぶち破る!　新たな挑戦が満載の〈きみと生きたい～I Wanna Live With You〉冬公演にかける想い

大江千里〈大江千里 New Year Piano Concert「きみと生きたい～I Wanna Live With You」Encore〉

新春は〈手袋のように〉温もるジャズを聴きに行く。

　夏公演に冠された〈I Wanna Live With You〉のコトバは2025年新春公演の千秋楽後、高速へ向かう車内で大江自身が「感覚的に呟いて」即座に同乗スタッフの賛同を得たという。が、それには前段のエピソードがあって実は、会場関係者や出待ちファンから盛大に見送られての発進後、誰かが突然忘れものに気づいて引き返し……照れ笑いの一件落着後、改めての見送りを受けていざ帰路へ。その車中で次公演の前掲テーマが思い浮かんだというのが正確な顛末だったそうだ。

　6月のリモート取材（NCY↔TOKYO）の際はそれも一つの思い出し笑い的な秘話として聞き流していたが先日、彼の著書「マンハッタンに陽はまた昇る」を再読していたら気づいた。〈ジャズは心の写し絵〉と綴る著者の一行と再会したら〈忘れものを取りに行く〉という行為自体が千里JAZZの譬喩にも想えてきた。POPS時代のオリジナルヒット曲を自らジャズ翻訳して弾き聴かせるライブへの誘いを「人生の答え合わせに来てほしい」と、彼は言い表わす。前掲書の副題（60歳から始まる青春グラフィティ）もそうだが、独特な清涼感／郷愁性／安堵感が音の行間から漂う千里JAZZの魅力は意外とこの、忘れものが戻った〈のちのおもひ〉に似ているのかもしれない……と、思い直したのだった。

　さて、年が明けると全国11か所でのアンコール公演が始まる。本人の予告メッセージによれば、夏公演の真っ最中に「もっとたくさんの人にこのライヴを届けたい」と思い、「更にキラキラ、更にエナジェテック!」になると宣言している。Encoreが単なる再演で終わらないだろうことは明白だ。今回はメールで新春に寄せる想いを訊いた。

「夏の公演が非常に自由度の高い公演で、しかも〈きみと生きたい〉のテーマを体現する内容だったので、ああいう〈楽しくて笑って泣いていっぱいの想いを持ち帰れるコンサート〉をまたやりたいなあと思ってタイトルを考えてたところ、〈「きみと生きたい〜I Wanna Live With You」Encore〉がピッタリじゃないか?と思いついたんですね。あの飄々としていながら真っ直ぐに伝えているかんじや、玩具箱をひっくり返したような楽しさ、大人だからこそできる冒険、それをさらにバージョンアップしてやれたら最高かもしれないなと、そう思ってこのタイトルにしました。時間旅行して、人生の答え合わせして、夢中で歌って乗れて、ピアノコンサート、ソロジャズピアノの概念をぶち破りたいと思います。楽しみにしててください」

　現時点で公表できる〈刷新部分〉があれば教えてください。

「刷新というよりは、斬新な冒険がまた散りばめられた内容になります。時代がさらにこの秋から冬へガラッと変わりましたので、そういう背景もあるし、僕自身の選曲では《未成年》あたりがトーナリティになる予定です。新しい曲もやりたいので知恵を絞ってる毎日です。夏の公演は、〈納涼千里天国〉を1人でやったのですが、それが印象的でしたね。10分ほどなんですけど、花火が上がって、スタジアムの夜空が見えて、一瞬にしてみんなで一緒にタイムスリップした体験でした。エアセリ下りを各地でやって腰や膝をずいぶん痛めましたけど、それもいい思い出です」

　聞いたところでは新語・流行語大賞の候補に〈二季〉（夏と冬のみ）がノミネートされたらしい……そんな時代の〈冬〉を千里JAZZはどう活写し、どんな音色を鳴り響かせるのだろうか、今から愉しみだ。

「そうですね。アンコールとついてますが、全く別の新たな挑戦の内容になりますので、夏にご覧になった方もぜひまた冬の新たな内容にドキをムネムネさせていらしていただければ嬉しいし、ジャズってなんだろう?って思ってらっしゃる方も〈初めてのジャズ〉がSenri Jazzでありますように。ぜひぜひ待ってますよ!」

〈手袋を買いに〉の気分で心温もる音楽を聴きに行こう。