
作編曲とアンサンブルにおける多彩な影響源
――すごいですね! それと本作からはキーボードのさまざまな音色が聞こえてきますが、どういった楽器を使っていらっしゃるのでしょう?
「基本的にエレピはNord Stageで、ローズ・ピアノの音を使っています。あとはヤマハのMOTIFというシンセサイザーを使っていて、コンピューター音源も多いですね。いまはさまざまなシンセの音を再現するソフトが多いので、重宝しています」
――曲を書く際、アレンジやオーケストレーション、ハーモニーは頭の中で鳴っているのでしょうか?
「響きとしては鳴っていると思います。基本的にピアノで作曲して演奏し、レコーディングする際はあとからダビングして、いろいろとオーケストレーションしている部分もありますね。レコーディングしながら〈ここにちょっと別の音を足してみようかな〉とか」
――影響を受けたアレンジャーはいますか?
「尊敬しているアレンジャーの方はたくさんいますね。ポップスだとクインシー・ジョーンズ、デイヴィッド・フォスター、映画音楽を作っているジョン・ウィリアムズからも影響を受けています。
あとクラシックの作曲家はもちろん、バッハ、プロコフィエフ、ベートーヴェン、ブラームス、ヘンデル、ワーグナー、ニコロ・パガニーニ、シューマン、チャイコフスキー、ドビュッシー、ラベル、サティ、ショパン、ラフマニノフ、オリヴィエ・メシアン、ストラヴィンスキーなど、まだここで思い出せない、数え切れないほどの作曲家たちから影響を受けていると思います」
――アンサンブルの面で参考にするバンドやミュージシャンはいますか?
「たとえばジャズのピアノトリオだったら、ビル・エヴァンスの場合はそれまでの常識的なジャズの形式になかった和音やインタープレイという新しい解釈の設計図を作り、それまでのピアノトリオの演奏スタイルとは違ったアンサンブルを作った人ですよね。
ジャズは即興演奏を重視して演奏しながら作り上げていく部分が色濃い音楽ですが、ビバップ以降にいろいろなジャズミュージシャンがチャレンジしてきた音楽の作り方も勉強しました。あと、バンドの人数が多くなれば多くなるほど、ある程度の設計図は必要になってきます。そういう大編成の演奏も勉強してきました。もちろんジャズだけじゃなく、クラシックについてもそうですね。
要は、構造体の話だと思うんです。基本となる構造がいろいろあり、それを違う方向から見るとか、ちょっと向きを変えてみるとか、上下を逆にしてみるとか。そうやっていろいろな形で表現する、という考え方をしています」
多くの人と繋がる希望を込めたZARD“マイ フレンド”のカバー
――そんな羽仁さんの周囲にいらっしゃるファンキーな方々が集まった本作は、とても親しみやすくて、聴いていて楽しいアルバムですね。アドリブが熱くなっていく部分もあって、たとえば表題曲では演奏が8分も続く。そのあたりは、やはりセッションのノリを重視して長く収録したのでしょうか?
「ライブ録音みたいな感じになっちゃったんです(笑)。時間を決めて、5分に収めるためにいろいろと切り詰めて、みたいなことは考えませんでした」
――気になるのが、織田哲郎さんが作曲したZARD“マイ フレンド”をカバーしていることです。
「ジャケットについてもお話ししたように、このアルバムをサブスクなどを通じて世界中で聴いていただくことを考えたとき、歌のないインストゥルメンタルの音楽を聴いてくださる支持層は、やっぱり規模としてポップス全般に比べたらほんの少ししかいないと思います。
そのちょっと外側の人たち、インストゥルメンタル音楽に近い場所にはいるんだけど中に入っていない人たちと繋がりたいということを考えていて、織田さんといえば日本を代表する素晴らしいメロディメーカーですから、J-POPを代表する曲を演奏することによってインストのリスナー層ではない人たちと繋がりたい、という希望がありました。そのためのチャレンジが“マイ フレンド”のカバーなんです」
――羽仁さんのオリジナル曲で、特にライブで盛り上がる曲はどれですか?
「“Higher Vibration”は最近やるようになった曲で、B-EDGEでも演奏しているんですが、メロディが覚えやすいからか〈いいね〉と言ってくれる人が多いんです。なので、これから発展させられたらいいなと思う曲ですね。
全曲に思い入れがありますが、“Enchant”は和声に特徴があるんですよ。〈1度→4度→5度〉というバッハが完成させた、人間が聴いていて気持ちよくなる黄金比のような和声があるんですけど、それを全部外して書いた、変わった作りの曲なんですね。音の響きが普通の曲と違うんだけど、でも起承転結があるように聞こえるコード進行にしています」
――“Higher Vibration”はブレイクのところに〈Ooh!〉という声が入っていてお茶目ですね。
「曲の中でアクセントを置いたあと、隙間が空いたんですね。あの声は最初はなかったんですけど、みんなで演奏しているうちに〈Ooh!〉と言いはじめて、〈それいいじゃん!〉という感じでそのまま入れました(笑)」