『VOCALIST』から『COVERS』へ
11年の時を経て新たな章を刻むカヴァー・アルバム

 デビュー40周年――時間の積み重ねだけでなく、その長いタイムラインには満遍なく足跡がつけられ、彼は絶え間なく歌を、彼自身の音楽を届けてきた。堂々の40年だ。21世紀に入り、彼――德永英明のディスコグラフィーにおけるハイライトとなったのが2005年から始まった『VOCALIST』シリーズと銘打ったカヴァー・アルバムであったことは言うまでもないだろう(そのあいだにオリジナル・アルバムも2枚発表し、高い評価を得ている)。2015年の6作目で封印されたカヴァー・シリーズだが、このたび『COVERS』の名で新たな章を彼は記しはじめる。

 「『VOCALIST』シリーズは10年という節目で一旦封印したけれど、テレビでもライヴでもずっと歌い続けてきました。〈カヴァー〉は僕のライフワークのひとつですね。(一昨年に)日本コロムビアに移籍して、アルバムをリリースする話になったとき、何をしたいかと聞かれてとっさに〈カヴァー・アルバムを作りたい〉と口にしたのが今回の『COVERS』のきっかけなんです」

徳永英明 『COVERS』 コロムビア(2026)

 オリジナル歌唱アーティストを女性ヴォーカルに絞ったコンセプトで唯一無二な世界観を築き上げたのが『VOCALIST』だったが、そのシリーズ封印から10年ほどのときを経て届けられた『COVERS』では、男女問わない選曲で彼の歌声の芳醇さ、奥行きの深さをじっくりと聴かせてくれる。

 「久々にさまざまなジャンルの楽曲をたくさん聴きました。今回は男女問わず、いま自分がどの曲を歌いたいか、テーマは純粋にそれだけでした。スタッフからのアドバイスもあったり、結果としていま、まさに自分が皆さんに届けたいと思うようなアルバムが完成しました」

 遠い昔のことさ♪――アルバムは“夢伝説”(スターダスト☆レビュー)で勇壮に幕を明け、都会的センチメンタリズムを含ませた“「いちご白書」をもう一度”(バンバン)、スウィンギーでアダルトな装いに着替えた“飾りじゃないのよ涙は”(中森明菜)、「楽曲選びの初期から自分のなかで候補として挙がっていました」と言う“帰れない二人”(井上陽水)、そして“つぐない”(テレサ・テン)ではあらためて女性ヴォーカル曲のチョイスのセンス、独自の艶がある解釈に感服するはずだ。続く“JAM”(THE YELLOW MONKEY)は、少々意外な選曲のように思えるかもしれないが……そのたくましい歌声に男惚れさえする。

 「“JAM”はカラオケでよく歌っていた十八番の曲です。最高に楽しいレコーディングでした! 歌い終わったときにバンドのメンバーが〈イェイ!〉〈最高!〉って言ってくれて。まさにライヴという感じでした! やっぱり自分はカヴァーも好きなんだなぁとあらためて実感しました」

 バンドと言えば、ベースの松原秀樹、ドラムスの渡嘉敷祐一、ギターの土方隆行、アルバムの共同プロデューサーでもあるキーボードの坂本昌之ら、近年のコンサート・ツアーでもおなじみとなっている面々を中心としたプレイヤーの演奏とアレンジワークも聴きどころ。同じカヴァー・アルバムでも『VOCALIST』ではなく『COVERS』と銘打ったところにおいて、そのポイントはいままで以上に大きなものと言えるだろう。

 「そうですね。おなじみのメンバーだったのでリラックスしながらレコーディングできたし、楽しかったですよ。アレンジについてはとくにやりとりはしていないけれど、坂本は僕のことを僕以上に理解してくれている。僕の良さを引き出してくれる。絶大な信頼をしています」

 彼のハートフルなヴォーカルがとくに際立つ“メロディー”(玉置浩二)、まるで子守唄を聴かせるようにロマンティックに歌いかける“見上げてごらん夜の星を”(坂本九)、オリジナルのもつ透明感と適度な湿度まで彼流に再現している“海を見ていた午後”(荒井由実)……と、ここまで聴くと、井上陽水、松任谷由実の楽曲が(自身が歌っていたものと提供していた曲を交えながら)アルバムの半数近くを占めているのに気づいたりもする。両者から与えられた影響の大きさを物語るところ、といったところか。

 「そこまでとくに意識していませんでしたが、結果、そうなっていましたね。陽水さんは僕にとって神様のような存在。ユーミンさんは、おこがましいかもしれないけれど、何か通じるものがある気がしているんです。尊敬する瀬尾一三さん(今回取り上げている“「いちご白書」をもう一度”のオリジナルもそうだが、“壊れかけのRadio”など德永の楽曲も数々手掛けている編曲家)のアレンジ楽曲もアルバムに入れたかったんです。

 ラストは衒いなく真っ正面からその世界観のなかで歌声を泳がした“Story”(AI)。全10曲、最初から最後までの流れもあり、十章で一篇の素晴らしい物語(ストーリー)を読み終えたときのような充実感がある。作り上げた彼自身もきっと、予想以上の手応えを感じたのではないかということは察するに難くないが、『VOCALIST』シリーズとは違った達成感があるとすればどのようなところだろうか。

 「『VOCALIST』は女性限定だったので、ずっと歌いたいと思っていた男性アーティストの曲をカヴァーできたことかな。アルバムが世に出たら、もっと何かを感じるかもしれません」

 『VOCALIST』のようにシリーズ化するのか、それとも……。

 「また歌ってみたい曲が見つかって、そして皆さんからの要望があればシリーズ化するかもしれませんね」

 


德永英明(Hideaki Tokunaga)
1986年1月21日、シングル“レイニー ブルー”、アルバム『Girl』でデビュー。1987年にリリースされた4枚目のシングル“輝きながら…”で大ヒットを記録。その後も“風のエオリア”“最後の言い訳”“夢を信じて”“壊れかけのRadio”など次々とヒット曲を発表。傍らテレビドラマや映画などでも活躍。2005年、デビュー20周年に向けて制作された〈女性アーティストの名曲をカヴァー〉するというコンセプトで制作されたアルバム『VOCALIST』は、德永がヴォーカリストという立場に徹し、言霊の素晴らしさを確かめながら、德永の切なくて優しい繊細な歌声で紡ぐ魅力に溢れた作品としてロングヒット。進むべき新たな道を切り開いた。かくして人気シリーズとなった『VOCALIST』は2015年までにシリーズ6作品まで達し、〈カヴァー・アルバム〉という位置付けを変えるオリジナル・ブランドを作り上げた。これまでに54枚のシングルと18枚のオリジナル・アルバムを発表、コンサート・ツアーも精力的に行っている。
※〈徳〉は旧字体、〈英〉は草冠の間が空きます

 


LIVE INFORMATION
Hideaki Tokunaga Concert Tour 2026

TOUR SCHEDULE 前半
2026年4月11日(土) J:COMホール八王子
開場/開演:15:00/16:00

2026年4月25日(土)大宮ソニックシティ 大ホール
開場/開演:15:15/16:00

2026年4月26日(日)栃木県総合文化センター メインホール
開場/開演:15:15/16:00

2026年5/1日(金)フェスティバルホール
開場/開演:15:00/16:00

2026年5月2日(土)フェスティバルホール
開場/開演:14:00/15:00

2026年5月9日(土)長良川国際会議場 メインホール
開場/開演:15:15/16:00

2026年5/10日(日)静岡市清水文化会館 マリナート 大ホール
開場/開演:5:15/16:00

2026年5月16日(土)昭和女子大学 人見記念講堂
開場/開演:15:15/16:00

2026年5月17日(日)昭和女子大学 人見記念講堂
開場/開演:14:15/15:00

2026年6月5日(金)けんしん郡山文化センター 大ホール(郡山市民文化センター)
開場/開演:15:45/16:30

2026年6月7日(日)新潟県民会館
開場/開演:15:15/16:00

2026年6月13日(土)福岡サンパレス
開場/開演:15:15/16:00

2026年6月14日(日)福岡サンパレス
開場/開演:14:15/15:00

2026年6月27日(土)ロームシアター京都 メインホール
開場/開演:15:45/16:30

2026年6月28日(日)ロームシアター京都 メインホール
開場/開演:14:15/15:00

2026年7月4日(土)本多の森 北電ホール
開場/開演:15:15/16:00

2026年7月11日(土)仙台サンプラザホール
開場/開演:15:15/16:00

2026年7月12日(日)仙台サンプラザホール
開場/開演:14:15/15:00

2026年7月19日(日)愛知県芸術劇場 大ホール
開場/開演:15:45/16:30

2026年7月20日 (月・祝)愛知県芸術劇場 大ホール
開場/開演:14:15/15:00

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