(左から)SOMAOTA、石尾紘樹、takaosoma、たけひろ、安原大貴

京都からやって来た6人の男たち=Black petrol。大学のジャズ研を母体とし、サックスとキーボード、ラッパーを含むユニークな編成で、コロナ禍をはさみながらも、己の道をゆっくりと確実に進んできた。彼らの最新作『Diaspora』は、グライムやダブステップといったUKダンスミュージックをバンドで昇華した折衷的なサウンドで、都市に生きる精神的漂流者(ディアスポラ)へ応答を呼びかける。

バンド/ラップ/クラブミュージックのミクスチャーというスタイルは、ニュー・オーダーやランDMC、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのように、時代ごとに更新され、それぞれが一代限りの独自のやり方で、新たな音楽を生み出して来た。日本においてそれはSuchmosやcero、Dos Monosといった系譜に引き継がれているだろうが、Black petrolは西からやって来た、その最新形だ。前日に、仙台でのライブを終えたばかりの彼らに、東京でインタビューを行なった(ドラマーKuga Arumuは欠席)。

Black petrol 『Diaspora』 Black petrol(2026)

 

クラブの入り口になりたい

――京都で結成するまでの経緯を教えてください。

takaosoma(ギター)「〈ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテスト〉という有名な大会があって、関西一円の大学がそこに向けて動くんですけど、そこで各大学のバンドが対バンしたり、いろいろ交流があって。メンバーはその中で互いに知り合った感じですね。だから、いろんなバンドの人間が寄り集まって結成した流れです。キーボードの石尾(紘樹)さんはジャズ研ではなくて、同じ大学の軽音楽部の副部長でした。ドラムの(Kuga)Arumuに関してはそれ以前の、中学時代から僕とバンドをやってた友達ですね。

〈売れるぞ!〉というよりは、やりたい音楽が合う人が少なくて自然と集まったって感じですね。ジャズ研はクラシックなジャズが好きな人が多くて、僕は浮いてたんですよ。その頃はまだ、SuchmosとかWONKとかが流行り出す前ですね」

――ラッパーが参加するようになったのは?

takaosoma「ラッパーがいたらいいよねという話になって、大学でサイファーをやってたラッパーをTwitter(X)で見つけて〈バンドでラップ、やってみない?〉とDMを送って。SOMAとはそうやって出会いました」

SOMAOTA(ラップ/ボーカル)「自分はもともと高校生のころにドラムもやってたし、バンドでラップするのは違和感がなかったですね。最初は僕を含めて、MCが4人もいたんですよ。それで小っちゃいライブハウスに出るんですけど、9人もステージに乗り切らないから、MCは客席の真ん中でずっとフリースタイルするライブでした(笑)」

takaosoma「最初の頃はメロコアのバンドとかと対バンして、どっちにとってもよくわからないみたいな(笑)。そういう時期が3、4年あったんですけど、京都のnanoってライブハウスの店長のモグラさんから〈多分もっとやりやすい場所あるよ〉と教えてもらって、そこからいろんな場所を知って、少しずつ活動が広がり始めた感じです」

――ライブハウスではなく、クラブではどうですか? 関西にも面白いハコはいろいろありますが。

安原大貴(サックス)「京都やと、メトロですかね。兵庫だとRINKAITENとか」

SOMAOTA「あとは大阪だとSOCORE(FACTORY)とCONPASSですかね」

takaosoma「僕やSOMAOTAは友達のイベントとかに遊びに行ったりしますけど、他のメンバーはそんなに、クラブ自体あまり行かないんですよ。なんというか、クラブって〈外〉に開いてないじゃないですか。でも、友達に誘われれば、行くし。だから僕らとしては、今のスタイルで友達を各地に増やしたいって感じですね。それはお客さんとかミュージシャンとか関係なくですね」

――友達が来てる、というのは行くきっかけとして大きいですよね。

takaosoma「クラブに興味があっても〈自分はオシャレじゃないし、クラブに行ってもいいのかな?〉という人は、いると思うんですよ。なので、あんまりキラキラしてない自分たちがクラブで企画とかをやることで、オシャレじゃなくてもいいし、怖い場所じゃないんで、遊びに来て下さいよという、窓口になりたいという思いはありますね」

SOMAOTA「クラブって、見えないルールというか、コード(規範)みたいなのはありますよね。僕もソロでクラブに出演したことは何度かありますが、そんなに馴染めなくて……」

takaosoma「クラブって〈カッコよすぎる〉んよな(笑)」

――バンドでありつつ、ラップやクラブミュージックもやる折衷的なスタイルで、お手本にした存在はいますか。

takaosoma「うーん、あんまり無いですね。最近になってちょっと〈近いかも〉と思ったのは、エズラ・コレクティヴやフレッド・アゲイン、あとカトパコ(カトリエル&パコ・アモロソ)とかですね。東京でも、自分たちと同じようなことをしてるなって人とは出会ってないですね」

 

はぐれ者を肯定したい

――ラップの内容については、いかがですか。

SOMAOTA「これまでは自分が考えたリリックに誰かの修正や意見が入ることはなかったんですけど、今回のアルバムから、そこもバンドでやり取りすることが増えました。例えば〈ひとつのフレーズを繰り返すスタイルでいこう〉と皆で話し合って出来たのが“Hollow”とか“Stressor”だったり。〈この歌詞どう思う? 他にいい表現ないかな?〉とかメンバーにも相談してます」

takaosoma「〈1行目がこうで、3行目がこうだから、ここを繋げる2行目のラインを皆で考えよう〉っていう、ラップの大喜利みたいなこともしましたよ」

――リリックには、生まれ育ちや自分の体験など、個人的なテーマもよく出てきますよね。

SOMAOTA「けっこう本を読むんですけど、私小説によくある〈こじらせた内面〉を吐露するみたいな作品が好きだからかも知れないですね。あと、リリックに関しては、今回は伝わりやすさを意識しました」

――新作のタイトルである『Diaspora』という言葉は、故郷や祖国を追われた、あるいは離れた人々という意味ですよね。アルバムとしてはどういったテーマでしょうか?

SOMAOTA「はぐれ者に向けて作ったというか、はぐれ者に対して、はぐれたままでいい、はぐれ者であることを肯定したい、というテーマですね。それは自分がヒップホップから受け取ったメッセージでもあります」

――具体的にはどういったはぐれ者ですか?

SOMAOTA「さっきのクラブの話じゃないですけど、暗黙の了解だったり、見えないルールやコードって、世の中にいっぱいあると僕は思うんです。そういうのに入っていけない、なんか世の中からズレちゃう人、っていうイメージですね。そういう人に〈わかるわかる、俺もめっちゃズレてるよ〉と寄り添いたいというか」

 

クラブサウンドから影響を受けたUKジャズへの共感

――サウンド面では“Overdrive”のUKドリル~グライム感だったり、現行のイギリスの音楽の影響を感じました。

takaosoma「これまで自分たちの音楽ジャンルを、ちゃんと把握してなかったんですよ。ヒップホップなのか、広義のロックバンドなのか。人に〈ミクスチャー〉と言われても、それもよくわからないし(笑)。だから、ジャンルをちゃんと勉強してみようと思って。それで、ようやく去年、自分たちがやっていることはどうもロンドンとかの若手がやってる音楽に近いんだろうな、とわかって」

――なるほど。

takaosoma「UKのミュージシャンの中でも、トゥモローズ・ウォリアーズとかでジャズの教育プログラムを受けたアルファ・ミストみたいな連中が、その足で地元のクラブに行って、グライムやUKガラージのようなクラブミュージックを聴いて、それをジャズとしてやってみようという実験的な遊びをしてるんですよ」

――ジャズ評論家の柳樂光隆さんも、イギリスのミュージシャンの音楽教育について、よく言及していますよね。

takaosoma「イギリスは音楽教育に予算をかけているし、進んでますね。日本のバンドで同じことをやろうとしても、前提となるシステムが違いますし、プレイヤーのMIDIやビートに対する知識もまだまだですし。Ableton Liveの同期をどうやって現場で走らせるかとか、自分も勉強中ですね」

 

既存のジャズを超え、正解がない道を歩む

――KID FRESINOやSkaaiなど、ラッパーのバンドセットも割と普通になってきましたよね。あるいはSATOHとかバンドになったDos Monosとか、インディーだとQPLOだったり、トラック制作と演奏を兼ねるバンドも増えています。でも、トラックと生演奏の配分とか音源のライブでの再現度とか、バンドごとに違うと思うんです。皆、それぞれ我流でやるしかないというか。そこが大変でもあり、面白くもあるように思います。

takaosoma「方法論が皆バラバラで、正解がないんですよね。あと、そういうバンドも、多くてもメンバー3人とかだと思うんですよ。うちはサックスもいてキーボードもいて、毎回6人でやってるので」

――確かに、固定で6人という編成はあまりいないでしょうね。

takaosoma「だから、やっぱり自分たちで研究せざるを得ないですね。例えば、〈ジェイムス・ブレイクのあの曲みたいなフレーズが欲しい〉とか、〈UKガラージっぽいコーラスのかかったベースがいい〉って彼(たけひろ)に言っても〈いや、どうやったらええかわからん〉って話になるんですよ。彼がもともと好きなファンクとかとは違う音楽性だし、音質的にも両立は難しい。でもそこを自分はやりたいし、Black petrolを、イギリスのシーンに負けないバンドにしたいと思ってやってますね」

石尾紘樹(キーボード)「彼(takaosoma)の中の正解を目指すのは、面白いけど大変ですね(笑)。録音の時ならともかく、ライブだと、弾いてる内に、楽しくなってついつい手癖が出てしまったりするので」

――ベーシストとしては、いかがですか。

たけひろ(ベース)「楽器を長くやってる分、〈そんな音は無理やろ〉っていう固定観念というか、実現可能性で考えちゃう部分はありますね。最近は〈まずは一回やってみるか〉という風にチャレンジしています」

――サックスの安原さんの場合はどうでしょうか?

安原「サックスで上手いプレーヤーって、結局皆ジャズをやってるんですよ。僕もジャズ研でビッグバンドをやってたんですけど、ジャズよりもファンクとかフュージョンの方が好きだったんです。だから、今、ジャズの壁が立ちはだかってる感じですね。少しずつ挑んでます」

takaosoma「〈バンドは自由で楽しくあるべき〉っていうのは、僕もわかるんです。ただBlack petrolは8年も続けて、普通にやっていたら、もう新しい作品は作れないと思うんです。メンバー皆で新しいインプットをしない限り、以前やっていた音楽の焼き増しにしかならないんじゃないかと。だから、今は苦しいかも知れないけど、本当に楽しい音楽のためには、そういう修行というか苦しみがあることも……(姿勢を正して)当然だと思っています」

石尾「(笑)」

 

PERSIA、Sakepnk、Gimgigamとの境界を超えた共演

――ゲストについても質問します。表題曲でフィーチャリングしている、オーストラリアのシンガー、PERSIA(パージャ)さんは、どういった方でしょうか?

takaosoma「一昨年の年末ですが、バイトも辞めて、アレンジの仕事とかギターの録音で食べていくことにしたんですよ。でも結局向いてなくて、その生活もすぐ破綻して。じゃあもう、路上ライブでギターを演奏して、そのチップで生活していこうと思ったんですよ」

――なんというか、勢いがありますね(笑)。

takaosoma「はい(笑)。で、真冬に外でギターを弾いてたんですけど、寒いから誰も立ち止まらないし、どんどん精神的に追い詰められて。

そこに、オーストラリアからの旅行者だというPERSIAが声をかけてきたんですよ。僕が弾いてるソウルとかR&Bに反応して、〈私もシンガーだから、ここで歌わせて欲しい〉と。ダニエル・シーザーとかの曲を歌ってたんですけど、それが凄く良い歌で」

――ドラマのようですね。

takaosoma「で、後日PERSIAは普通に帰国したんですけど、今回アルバムを作ってて、故郷を離れた人、はぐれ者の集い、といったテーマについて考えてたら、〈PERSIAとの出会いも、そういう感じだったかもな〉と思い出して。アルバム的にも、女性ボーカルの曲が一曲欲しいと思ってたので、改めて彼女に連絡したら〈オッケー!〉と」

――自然な成り行きというか、縁がそのまま作品になった訳ですね。

takaosoma「“Hollow”を共作した、w.a.uにいたSakepnk(サケピンク)くんはA&Rから提案されたんですけど、話してみたらすごく意気投合して。去年会った人の中で、あの人が一番面白かったですね。いやもう、会えば一発でわかると思います、あの人の面白さ。ラップのディレクションも凄く優秀だし、実はバイオリンとかも弾けるんです。音楽の芯の部分で信頼できる、チャラくない人ですね。表面的にはチャラいんですが(笑)」

――“Stressor”でコラボしたGimgigam(ギムギガム)さんはどうでしょうか。

takaosoma「ギムさんも最高で、オシャレでクールだけど、柔らかい雰囲気の人ですね。スタジオでピザを取る時、〈ギムさん、ピザでいいですか?〉って聞いたら、〈ピザがいいです〉って言ってて、〈こういう人とは仲良くなれそう〉と思いました(笑)。

僕らはそもそも他のアーティストと一緒にやるということ自体馴れてないし、大変だったんですよ。でもそこを、例えば〈低音の処理が難しい〉とか〈フレーズのアプローチをどうしよう〉とか、そうやって困った時にGimgigamさんやSakepnkくんが〈こういうのはどう?〉と、助けてくれました。そういう、プロの仕事を感じられたのは、共作ならではだなと」

 

自分の感性を信じ、好きなものを好きと言おう

――リリースを経て、ライブもいろいろ準備していますよね。国外のイベントへの出演もありますが、意気込みはどうでしょうか。

takaosoma「やっぱりその日までにめちゃくちゃ皆で修行して、細かい所も詰めたいですね。タイや台湾で見た景色、いろんなものを吸収した上で、日本でのライブでそれを出せることができたらいいなと思います」

石尾「デモや録音でカッコいいものを、ライブでは更に超えたいっていう気持ちはありますね。そのためにはまさに修行が必要ですね(笑)。難しくもあり、楽しくもありますが」

SOMAOTA「ツアーの開催まで海外含め遠征ライブがたくさんあるので、バンドの皆と過ごす時間が過去一多いと思います。自分は、バンドは物語を見せられるのが良い所だと思ってて。海外のライブを経て自分たちがどう変わったかを見に来てほしいです」

たけひろ「いろんな状況、やばい状況も乗り越えた先の自分たちを見せたいですね(笑)」

安原「アルバムの収録曲は、まだまだ練習しないといけないので。そもそもアレンジも固まってなかったり……」

takaosoma「固めろよ(笑)!」

安原「(笑)。まあ、ライブをするに当たって、楽しみたいというか、楽しめるようになっていたいっていう気持ちですね」

takaosoma「あと、今後の展望としては、渋谷WWWでやりたいですね。近年、あそこでワンマンをやることが、バンドにとってひとつの登竜門になってると思います。そのためにはそれに見合う音楽の力はもちろん必要だし、ファンやスタッフの後押しも必須ですが」

――最後に、リスナーに一言お願いします。

takaosoma「リスナーに限らずですが、ひとつだけ言いたいのは〈自分の好きなものを、自信を持って好きだと言ってほしい〉ということですね。SNSの影響で、〈自分の好きなものをバカにされるんじゃないか?〉みたいな心配をする人も多いと思うんですよ。でも、それを気にして音楽を聴く必要はマジでないと思っているので。他の人にバカにされようが、自分が好きな音楽は好きと言えるように、自分の感性を信じて欲しい、という思いはありますね」

 


RELEASE INFORMATION

Black petrol 『Diaspora』 Black petrol(2026)

リリース日:2026年3月4日(水)

TRACKLIST
1. Overdrive (w/Gimgigam)
2. Stressor (w/Gimgigam)
3. mosaic
4. Hollow (w/Sakepnk)
5. Diaspora (feat. PERSIA)
6. Sphere
7. Soma
8. TURN I
9. TURN II

 

LIVE INFORMATION
Black petrol Club Tour “Diaspora”

2026年3月13日(金)大阪・心斎橋 CIRCUS Osaka
開場・開演:23:00
Act:Black petrol/空音/Aru-2/DJ Rin

2026年3月19日(木)東京・渋谷 CIRCUS Tokyo
開場・開演:23:00
Act:Black petrol/Sakepnk and friends/möshigigam(MÖSHI+Gimgigam)

2026年4月25日(土)京都 CLUB METRO
開場・開演:23:00
Act:Black petrol and You!

チケットリンク:https://eplus.jp/blackpetrol/
ADV./DOOR/UNDER 23:2,500円/3,000円/2,000円

 


PROFILE: Black petrol
京都から世界へ。ブラックミュージックを中心に多様な音楽ジャンルに影響を受けた 〈ナードでハード〉な音楽集団。京都の音楽シーンで大学在学中にそれぞれのジャンルに精通した高い演奏力を持つメンバーによって結成された。2023年に〈SUMMER SONIC〉、2024年に〈FUJI ROCK FESTIVAL〉、2025年5月に北京で開催された中国最大級のフェス〈Strawberry Music Festival〉に出演、9月にビルボードライブ横浜でSkaai(Band set)と対バンを行なった。2026年1月、〈CEIPA x TOYOTA GROUP “MUSIC WAY PROJECT”〉に選出され〈Bangkok Music City 2026〉に出演、2月に台中の〈浮現祭 Emerge Fest.〉でステージのトリを飾ったほかアジアの大型フェスに多数出演。2026年3月、現行UKシーンのジャズとエレクトロニックの関連性に注目しクラブサウンドを独自の解釈で融合させ、国内外のアーティスト・プロデューサーが参加した約5年ぶりの新作で2ndフルアルバム『Diaspora』をリリースする。

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