砂粒が地中海から吹いた西風に舞い上がるように鍵盤の旋律が飛翔していく。ベルギーのピアニスト、イェルン・マレーズによる最新アルバムは彼が2022年と2025年に訪れたパレスチナ西岸地区での経験を元に音楽を奏で上げる。悲しくなるくらいの静寂の中で打ち放たれた鍵盤の響きが砂塵のごとくに耳を掠めていくようだ。パレスチナ独立宣言を起草した詩人マフムード・ダルウィーシュの抵抗精神を昇華させた詩が音となってメロディを築きあげる。かくのごとき事情の中でここまでに踏み込んで芸術と現実とを結び付けようと試みるその勇敢さに脱帽したくなる限りだ。