ポストモダンのインディー、ここに極まれり――現代的なポップ・サウンドを探求してきた3人組が驚くべき傑作を完成。ポジティヴィティーとロマンティシズムに満ちた『1626』はどんな日々を讃えている?
キラキラしたポップへの憧れ
大阪発の3ピース・バンド、Re:nameがニュー・アルバム『1626』をリリースした。タイトルは、メンバー3人がこのバンドを始めた〈16歳〉と、現在の彼らの年齢である〈26歳〉を並べ合わせたものだという。
「〈10周年〉なんていうとヴェテランな感じがしますけど(笑)、僕らの10年は、〈16歳から26歳〉という多感な時期なんです。そこを強調したくて、この『1626』というタイトルにしました。高校1年生でバンドを組み、結成当初からオリジナル・ソングに取り組んだ。地元のライヴハウスで自主企画をやり、最初は友達ばかりだったお客さんが、徐々にいろんな人たちになっていった。そんな少しずつの〈上手くいっている〉という実感の積み重ねが、10年やってこれた理由かなと思います」(高木一成、ヴォーカル)。
「アルバムをリリースする3月25日が結成記念日で、この日に大阪城野外音楽堂でフリーライヴを開催するんです。バンドを始めた頃からすれば〈とんでもないことが起こりそうだ!〉と思える現実がいま目の前にあって。でも〈こんな未来を想像していたか?〉といえば、そうではない。まずはライヴハウスでライヴをすることが目標で、その次は〈ツアーを回りたい〉、その次は〈ワンマンを埋めたい〉……そうやって目の前のことに真剣に向き合っていたら、予想していなかった未来が次々と僕らのもとにやってきた。そんな10年でした」(ヤマケン、ドラムス)。
「僕は〈おもろそうやな〉くらいの気持ちでバンドに入ったんです。いま思えば、そのときから10年間ずっとおもしろさ最優先でやってきました。〈しんどくても、おもしろければなんでもできる〉と思っているし、自分の〈おもろそう〉センサーは間違っていなかったと実感できていますね」(Soma、ギター)。
聴く人を一瞬で惹きつけるポップさと、バンドならではのエネルギーが合わさった〈ポップ・ロック・サウンド〉がRe:nameの真骨頂。アルバム『1626』を再生すれば、1曲目の“MUCHU”から弾けるようなパワー・ポップが日々にかかる靄を吹き飛ばすかのように響き渡る。歌われるのは〈君こそ僕の世界なんだ!〉と叫ばんばかりの〈夢中〉な感情。この前のめりにポジティヴィティーを獲得しようとする眼差しこそが、Re:nameを他のバンドとは一線を画している持ち味であり、Re:name自身がポップに惹き付けられ続ける理由でもある。
「僕らがやりたい音楽は10年間ずっと一緒なんです。中学生の頃にワン・ダイレクションにハマり、ファイヴ・セカンズ・オブ・サマーに出会って〈楽器カッコいい!〉と思い、それ以来ずっと海外のポップに憧れてきた。最初の頃はシンプルな曲しか作れなかったけど、最近は生楽器以外の音も入れていて、どんどん自分たちが理想とするサウンドに近づいている。ポップってリスナーのポジティヴな気持ちに寄り添うものが多いと思うんです。Re:nameも明るくてパーティー感のある曲が大半だし、そこに込めた〈聴けばポジティヴになれる〉エネルギーは、日本のライヴハウス・シーンでは他にあまりいない、僕らだからこそ出せるものだと思います。いろんな曲を作ってきたけど、立ち返れば結局、キラキラしていたワン・ダイレクションや、MVで歌い踊るジャスティン・ビーバーに僕は憧れ続けているんです」(高木)。
小さな選択を積み重ねた10年間
収録曲は全8曲(CDでは2曲のボーナス・トラックを収録)とコンパクトだが、『1626』にはバンドの創作意欲が濃密に閉じ込められている。メロウでダンサブルな“Bedroom Angel”に、爆発感のあるロック・ソング“愛はきっとLonely”、淡くきらめくロマンティックな“Vintage Car”――Re:nameの音楽的な豊かさを感じさせる多彩な楽曲を揃えている。
「“Bedroom Angel”はリファレンスがK-Popのサウンドなんですよ。ILLITやFIFTY FIFTYは、音楽的には高度なことをやっているのに、国や年齢を問わずさまざまな人たちに受け入れられているのがすげえなと思っていて。この曲は生楽器をあんまり使っていなくて、ほとんどシンセだし、AIの声も使ったりしている。聴いた人のリアクションが楽しみだし、個人的にも大好きな曲ですね」(高木)。
「“OTHER SIDE”はアニメのオープニング曲みたいなイメージ。他のRe:nameの曲ではやったことのないタッピングを入れた〈これぞギター・ロック!〉といったソロを弾きました。これもかなり挑戦した楽曲ですね」(Soma)。
アルバム終盤には、バンドが歩んできた人生を歌ったと思しき楽曲が並ぶ。7曲目“Forever Always”ではバンド史上初めて高木とヤマケンが共同で作詞を手掛けた。
「“Forever Always”はアルバムのコンセプトをいちばん担っている曲だと思います。10年間を走ってきたRe:nameのことを書こうと決めていました。先に僕が1番とサビの歌詞を入れたデモをヤマケンに送ったんです。ヤマケンには〈1番で俺が16という数字を入れるから、2番で26という数字を入れて〉と伝えました。サビの〈So keep holding on tight, boys〉と言う部分はメンバーやチームのみんなに向けて、〈I’ll be with your bad days, girls〉という部分はRe:nameを聴いてくれる人たちをイメージしていて。僕らは3人組ですけど、絶対に3人だけではここまでやってこれなかった。だから、みんなを巻き込んだ曲にしたかったんです」(高木)。
アルバムで最初に出来たという“I don’t wanna”に、高木は〈小さな選択で未来は変わっていく〉というメッセージを刻んだという。それは『1626』全体に通底するものかもしれない。ラストを飾る“one room”は、ささやかな偶然や出会いによって新しいものに生まれ変わっていく、そんな私たちの日々を祝福する一曲だ。
「“one room”の歌詞は、ジブリ映画の『海がきこえる』に影響を受けています。大学生のときに1回観ていたんですけど、去年リヴァイヴァル上映に行ったら、以前は何も感じなかった場面でボロボロ泣いちゃって。〈些細なきっかけで新しいことは始まるし、その繰り返しで人生は続いていく。それって素晴らしいことなんだ〉と思ったんです。そしてそれは、バンドの10年とも重なる気がした。そんな気持ちで映画館を出たら、一成から映画の雰囲気に近い“one room”のデモが届いていて、勝手に運命を感じながら歌詞を書きました。この曲がアルバムの最後にあることには、すごく意味があるなと思います」(ヤマケン)。 *天野史彬
本文中に登場したアーティストの作品を一部紹介。
左から、ワン・ダイレクションの2011年作『Up All Night』(Syco/Columbia)、ILLITの2025年のシングル“NOT CUTE ANYMORE”(HYBE LABELS JAPAN)、The 1975の2020年作『Notes On A Conditional Form』(Dirty Hit/Polydor)
一直線に〈ポップ・ロック〉の精度を高めていったRe:nameのディスコグラフィー!!!
疾走感に溢れたメロディック・パンク“Hey Cloud”、ミクスチャー的なリズムで弾む“99”など蒼さと健康的な肉体性が眩しいファースト・アルバム。発表時、メンバーは10代だったと思われるが、丁寧に仕上げられた楽曲と音作りに驚かされる。
このセカンド・アルバムでは、高木が影響を明かすThe 1975の『Notes On A Conditional Form』に重なる多彩な曲調で進化を刻印。ギター・ポップの“byebye”やフォーキーな“seventeen”などのシンプルな演奏にメロディーの良さが引き立つ。
タワレコ限定でCD化されたミニ・アルバム。〈時流を取り入れたインディー〉というヴェクトルは変わらずも、ドライヴィンな“Hurt Me”で幕を明け、チープ・トリックを思わせるパワー・ポップな表題曲で〆る構成にロック・バンドの魅力が。
ディスコ・ポップ“prettyfine :)”やスクエアな“i’m in two”などエレクトロニクスの比重を強めたサード・アルバム。いつになく節回しがロックっぽい“What Do You Wanna Know”は高木にとってベスト・ヴォーカル・パフォーマンスのひとつでは。
プロダクション重視の制作メソッドをさらに深めたミニ・アルバムは、英米のメインストリーム・ポップやK-Popに勝るとも劣らない高品質な6曲を収録。全編を貫く清潔感や品の良さを含め、バンドが自身のチャームを掴んだ感も。
エレクトロ・ハウスを下敷きにした“TOY”や人工歌唱ソフトウェアを使った“Vague”など、ジャンルを横断する歩幅はさらに広く。ありすぎる可能性を示唆したかのようなこの4作目を経て到達した10年目の〈Happy End〉が『1626』だろう。 *田中亮太






