ここにはタネも仕掛けもございません――虚構に魔法をかけてきた人気俳優が音楽で現出させる『Illusion』。実人生での感情も、演じることで焼き付いた記憶も、すべて手繰り寄せながら描いた素敵な風景とは?

いろんな気持ちを巻き込んでの創作

 宮世琉弥の3作目となるニュー・アルバム『Illusion』は、みずからも作詞・作曲に多く関わったヴァラエティー豊かな楽曲を収録。次なるフェーズへの突入を感じさせる意欲作だ。ファースト・アルバム『PLAYLIST』(2024年)、俳優活動と活動名を統一したセカンド・アルバム『Soleil』(2025年)を経て、彼の姿勢や現在地を示す仕上がりとなった本作を、自身はどう捉えているのか。

 「宮世琉弥としての世界観を決めることができた作品になっていると思います。楽曲をすべて提供していただいた1枚目のあとに音楽制作を学び、2枚目ではリード曲“猫がいびきで”を自分で作りました。今回は提供いただいたものもありつつ、半分以上の楽曲を自分で作詞していて。一つ一つの詞にモチーフを入れたり、世界観をジャケット写真に落とし込んだり、曲ごとのジャンルは違っても、同じニュアンスを感じられる作品になったと思います。歌とダンスを武器にしたうえで、会場と一体感が生まれるようなバラードなどにも挑戦したいんです。そのベースとなる軸を示せた気がします」。

宮世琉弥 『Illusion』 ソニー(2026)

 タイトルの『Illusion』は、俳優と音楽アーティスト――2つの顔を持つことで着想を得たものだという。ただ、それぞれについては「ギアが全然違う」と話す。

 「俳優は、監督やプロデューサーさん、脚本家の方の世界観に自分を素材として当てはめにいく作業なので、いい意味でどれだけ自分を消せるか、みずからを削いで役になりきれるかが必要ですが、アーティスト活動は僕の想いを届ける場で、自分の想いがないと伝わらないですし、作品にも深みが出ない。ましてやソロは、自分の意志や軸をしっかり持っていることが大事だと思っているので、たとえ失敗することがあっても、納得したものを届けたいです」。

 マルチな活動から得た視点は、本作にも色濃く反映されている。〈2025 TBSバレーボール〉の応援サポーターとして日本代表の合宿などを取材した体験から生まれたLASTorder作曲・編曲の“GRAVITY”、ABC/テレビ朝日系日10ドラマ「いつか、ヒーロー」で演じた役から着想を得たという“雨に唄えば”などは、彼ならではの経験からインスパイアされた楽曲だ。

 「〈僕にしかできないこと〉を強みにしていきたいと思うんです。〈2025 TBSバレーボール〉の応援サポーターとして選手や試合の取材をさせていただいたり、役を演じて自分以外の人生を歩んだりすることで、価値観の広がりや、共感を持つことができるんじゃないかと思っています。また、映像作品に関わる期間は、役を追求していくので、そこで生まれた感情はほぼ自分のものと言っても過言ではないのかなと。傷ついて泣いている場面のときは、リアルに泣いているので時間が経っても俯瞰して見られなくて、こういう思い出があった、みたいな感覚に近いんです。さまざまな作詞の仕方がありますが、自分は心を燃やしている部分を落とし込んでいきたいですし、いろんな気持ちを巻き込んだ曲を届けることが僕ならではの表現なので、ファンのみなさんやドラマの視聴者などにも届いてほしいです」。

 

聴く人を元気にしたい

 ドラマ「パリピ孔明」で出会った石崎ひゅーいとの共作曲“美貌録”、崎山蒼志が作詞した“ブラウンシュガー”にも、彼の音楽との向き合い方が現れている。

 「“ブラウンシュガー”は、朝の散歩中に思ったことを崎山くんに送り、ストーリーを組んでもらいました。崎山くんの世界観に僕の等身大を落とし込んだ曲です。加えて、Aqua Timezの長谷川大介さんと一緒に作曲させてもらったんですが、すごく緊張しましたね。僕が言ったコードを大介さんが弾いてくれて、そうやってメロディーを作る作業は、贅沢で極上の時間でした。“美貌録”は、ひゅーいくんがピアノ、僕はギターを持ってスタジオに入り、コード進行を作りながらメロディーを考えていきました。アルバムの1曲目をその“美貌録”にしたのは、後半に向かって壮大になっていく曲なので、一気に引き込んでくれそうだと思ったからです。いい意味で期待を裏切られるだろうし、この世界観に浸ってほしいという意図もあります。“美貌録”から“Flower chord”に繋がる感じも心地よくて、その流れを採用しました」。

 “美貌録”から、軽やかなポップ・チューンの“Flower chord”、パワフルなダンス・ナンバー“SUPER!!”と続く序盤は、リスナーを一気に『Illusion』の世界へと連れ出す。ほかにも、身近な人のエピソードをもとにした楽曲や、ライヴを想定したものもあるそうだ。

 「“We both think alike”は、年末年始に家族で集まったときに、両親の出会いやデートの話を聞いて制作した曲なので、自然の中で愛を育んでいた2人の初々しさも入れつつ、未来を想像してサビを作ったから、どこか大人びた恋愛ソングになっています。 “Voice”は、(自分の故郷である石巻を襲った)東日本大震災のことを考えて書いた曲です。震災から15年経ったいまも復興活動をがんばっている方がいるんですが、そうした場所に若い世代の方々が少なく、困っている方も少なくなくて。震災を知らない人も年々増えていますが、この曲があの出来事を知るきっかけになってほしいですし、(自分の楽曲や活動を通じて)現地の方々を元気にしていきたいです。“Voice”や“Feel a LIVE”は、ライヴでみなさんと一緒に歌って完成する曲なので、ツアーでは同じ空間の中で顔を見ながら歌ったり、聴いたりしてほしいですし、素敵な景色を見られたら嬉しいです」。

 多くの作詞に携わるも、「作詞って、22歳での経験の数だと題材が尽きちゃうんです」と話す姿も印象的だった。それでも、言葉や音楽と向き合うなかで彼が届けたいものは明確だ。

 「以前、制限をかけずに僕の記憶や感情を書いたこともあるんですが、後から聴いたときにしんどくなってしまったことがあるんです。ただ、感情が動いたときのリアルな描写を削ると、どうして僕がそう感じたのかもわからないですし、そのあたりをどう出していくのかが難しくて。僕は、ももいろクローバーZさんに元気をもらってこの職業を選んだので、〈音楽活動を通じて聴いてくださる方を元気にしたい〉という思いが強くあります。現時点では、その気持ちをベースに、自分が届けたい曲や思いを大切にしたいです。多くの人と関わることが自分の財産になるので、周りの方々からの意見を大切にしていきたいですし、さまざまな要素を取り入れながら、自分の世界観に巻き込んでいきたい。そうすることで、新たなジャンルが生まれるのかなと思っています」。 *長澤香奈

『Illusion』に参加したアーティストの作品。
左から、LASTorderの2016年作『Cherish』(PROGRESSIVE FOrM)、石崎ひゅーいのニュー・アルバム『Tokyo City Lights』(エピック)、崎山蒼志の2023年作『i 触れる SAD UFO』(ソニー)、Aqua Timezの2025年作『海いっぱいに降りしきる星』(エピック)

 

備忘録として綴る、2つの顔を持つ宮世琉弥の世界を広げていく歩み

 〈宮城から世界へ〉という想いを名に込めた宮世琉弥は、2019年に俳優デビュー。以降、多くのCMや映画、ドラマなどに出演しており、「恋わずらいのエリー」(2024年)では原菜乃華とW主演、「顔だけじゃ好きになりません」(2025年)では初の単独主演を務めた。2026年に入るとドラマ「ヤンドク!」で鈴木颯良役を熱演。着実にスター街道を進んでいる。

 2023年からは音楽アーティストとしての活動をスタートし、同年5月に“AWAKE”、6月に“S.W.I.N.G”を配信で発表。7月にはこれらのシングルをまとめたファンクラブ限定のCD『AWAKE』をリリースした。さらに直後、TVドラマ「パリピ孔明」に出演。圧倒的なスキルを持つラッパーのKABE太人を演じ、劇中で披露したエモーショナルなラップが話題を集めた。

 そして2024年2月、“Ms.Playlist”でメジャー・デビューを果たし、4月にファースト・アルバム『PLAYLIST』を発表。ニュー・アルバム『Illusion』にも参加しているLASTorderら制作のスタイリッシュなポップソングを軽やかに歌いこなしていた。また、7月には同年1月に開催した東京国際フォーラムAでの初のワンマンライヴの模様や密着ドキュメンタリーを収録した映像作品「宮世大決起集会 20th ANNIVERSARY LIVE」をリリースしている。

 2025年1月には国立代々木競技場第一体育館でのライヴ・イヴェント2デイズを成功させた。その後、心弾ませるウィンター・ソングとなった表題曲に、ファンから音源化が待ち望まれていた2曲“Desire”“Be Alright”をカップリングしたシングル“白く染まる前”を経て、3月にセカンド・アルバム『Soleil』をリリース。自身で初めて作詞作曲した“猫がいびきで”を含む同作では、アンビエントR&Bからエッジーなロックまでサウンドの幅を広げ、ミュージシャンとしての成長を印象づけていた。その後、5月にスウィンギンな“雨に唄えば”、8月にユーフォリックなダンス・ポップ“GRAVITY”と、ハイペースに新作『Illusion』の先行曲を配信していたことを思うと、彼の創造性は充実期を迎えていると言えよう。 *田中亮太

左から、2025年の映画「パリピ孔明 THE MOVIE」(フジテレビジョン)、2024年作『PLAYLIST』、2024年のライヴ映像作品「宮世大決起集会 20th ANNIVERSARY LIVE」、2024年のシングル“白く染まる前に”、2025年作『Soleil』(すべてソニー)