変わったし、変わってない
――メジャー・ファースト・シングルにもなった“その未来”のサウンドは2000年代のJ-Rockをテーマにしたそうですが、当時の質感を落とし込むにあたり、どのような考えがありましたか?
松本「バンドを組む前からずっとそのあたりの音楽が好きなので、あえて意識しなくても自然とあの時期の音作りや演奏になるし、たとえ影響を感じさせるものであったとしても、慎之介が歌えば時速36kmになるという安心感もあります。あと僕らって音楽の好みは近いけれど、まったく同じではない。俺が通ってきたパンクやメロコアを慎之介はそこまで通ってなくて」
オギノ「〈あのバンドみたいな音楽がやりたい〉という具体例がないんです。同い年や同世代のメンバーだから、これまで生きてきた時代の空気を共有し合っているうえで、好みの音楽性はバラバラ。それらが偶然上手いこと混ざってるだけなんですよね」
――とはいえ“My Hummingbird”のメロディーが持つムードには、仲川さんが傾倒してきたBUMP OF CHICKENの影響を色濃く感じます。
仲川「こればかりは言い訳できないです(笑)。DTMでデモを作るようになった最初期の曲で、しっかり自分のなかの世界を落とし込んだ結果、バンプの影響が色濃く出てしまった……。でも選んだ言葉やメロディーには自分っぽさもすごくあるし、それだけバンプの音楽が血肉になっていると実感しましたね」
――なお、アルバム・タイトルの『目を閉じても残る赤』は“網膜の奥、ハートの側”から抜き出された一節です。
仲川「“その未来”が外側から見える我々の10年間なら、“網膜の奥、ハートの側”は内側から見た10年だと思っていて。アルバムが出来上がって俯瞰的に聴いていたときに、このフレーズを聴いてふと〈目を閉じていても光は赤として残っていて、それが嬉しいのか悲しいのか、鬱陶しいのかどうかもわからない。そんなアルバムかもしれないな〉と思ったんです」
オギノ「ずっと昔から慎ちゃん(仲川)と、くるりの“東京”が日本語ロックの完成形だと話しているんです。〈まぁいいか〉という一節にたくさんの感情が入り混じっていて、あれを引き伸ばしたものを歌詞と呼ぶんだと思うな。日本語ロックにおいては、単一の感情で曲を作ってもおもしろいものは生まれないと思うので、10代の頃から東京という街が身近だった俺だからこそ感じる苛立ちや怒り、やるせなさといった本音を“東京”でぶちまけました。あの曲を作った経験は今後に活かせると思っていますね」
――未来への布石となる楽曲が揃ったアルバムになりましたね。
石井「“網膜の奥、ハートの側”では〈なんて新しい音なんだ! 時代が変わろうとしてる!〉と自分でも感動するほどおもしろい音を出すことができて、新しさとルーツを両立させられたように感じます。今後のアプローチにも幅が生まれるんじゃないかな」
松本「『Around us』から歌を際立たせることを重視してドラムを作ってきて、その面でも今作で順当な成長ができたし、どの楽曲も気持ちよく受け入れてもらえると自信を持って言えます。慎之介もオギノも歌詞でアイデンティティを貫いてくれたからこそ、〈こんだけ変わったし、でもこんだけ変わってないんだよ〉としっかり示せるアルバムになりました」
時速36kmの作品。
左から、2019年のEP『最低のずっと手前の方で』、2021年作『輝きの中に立っている』、2023年のミニ・アルバム『狂おしいほど透明な日々に』(すべて2DK)、2025年のEP『Around us』(時速36km)、2026年のシングル『その未来/ハロー』(ポニーキャニオン)