独立独歩でステージを拡大させてきたロック・バンドがついにメジャー・デビュー! 複雑かつ曖昧な感情を自在な発想で鳴らす4人が見た、決して消えない色とは?
2024年にZepp Shinjukuでのワンマンをソールドアウトさせ、今春メジャー・デビューを果たした東京・江古田発の4人組ロック・バンド、時速36km。このたび発表されたメジャーでのファースト・フル・アルバム『目を閉じても残る赤』は、バンドが積み重ねてきたギター・ロックやオルタナティヴ・ロック、ハードコア、パンクといったサウンドを基盤に、ラップやポエトリー・リーディングなどさまざまな手法を取り入れた、純粋な音楽愛と好奇心が漲るエネルギッシュな作品に仕上がっている。同作が生まれた経緯をメンバー全員に語ってもらった。
セオリー通りじゃなくていい
――昨年のEP『Around us』もそれまでの時速36kmの延長線上かつ新しいことに挑戦した作品でしたが、『目を閉じても残る赤』は違う角度からそれを実現させている印象を受けました。
オギノテツ(ベース)「制作過程で自然と〈変なことをいっぱいしよう〉というスタンスになっていったんです。たとえば“東京”ではシンセ・ベースやバリトン・ギターを使ったり」
仲川慎之介(ヴォーカル/ギター)「〈おもしろいアルバム〉にするための選択を重ねました。“ブリキの翼”は野外で録ったコーラスをめちゃめちゃ入れてみたし、ラップ曲の“Beyond the Sea, Above the Lights”はもともと趣味で作っていたもので、ドラムもサンプリングを使っています。そんな曲もこのアルバムにはしっくりきた」
――過去にラップ調の節回しを入れた“Cakewalk”を発表しているので、違和感はありませんでした。
オギノ「それまでと全然違うことを急にやると、聴いてくれる人が戸惑って付いてこられないと思うんです。 今回の“Beyond the Sea, Above the Lights”は“Cakewalk”があったから入れられたし、この節目のタイミングでもいろんなエキスを入れておけば、のちのち出す曲に対しても〈急に路線変更した? 迷走してる?〉と思われることはないだろうなと」
石井開(ギター)「手法自体は手垢の付いたものばかりでも、僕らとしてはあまりやってなかったことを積極的に取り入れています。ちゃんと僕らの色で完成させられた満足感がありますね」
松本ヒデアキ(ドラムス)「『Around us』は全曲シングルになってもいいものをめざしたので、良くも悪くも大きな逸脱は生まれにくかった。でも今回はフル・アルバムだから自由度の高いものになりました」
――サウンド面でのアプローチが広がったことで、歌詞で描かれた心象風景とサウンドスケープの親和性が高くなったと感じました。歌詞をより生々しく、立体的に伝える音になっている。
仲川「まさにそういうことを大切にしました。『Around us』の制作で〈俺が日本語で歌っているのは聴き手に伝えたいからで、アレンジは歌詞とメロディーを充分に伝える役目を果たすためのものだ〉という結論に至って。“波の中の一粒”もこの歌詞で描いた波の様子を表すなら絶対にギター・ソロは2本でハモる必要があったし、(石井が)俺のデモ以上にすごくいいフレーズを出してくれた」
石井「フレーズを作るときに、ソングライターが曲に込めた思いや意図を無意識のうちに考えていたんだと思います。慎之介の作った“Fire”や、オギノが作った“東京”みたいなそれぞれの深層心理が出た曲は、ギターにも自然と力が入りますね。それはバンド結成10年の歳月があるからできることなんだろうなって」
松本「レコーディング・エンジニアの兼重哲哉さんが〈塊でドカッとくるバンドらしい迫力は損なわないようにしつつ、音を整理してヴォーカルがしっかり乗るようにしよう〉と提案してくださったんです。“七月七日通り”では、僕らのライヴ特有の質感をミックスで出してくれたんですよね」
オギノ「俺が作った曲については、歌のことはフル無視でアレンジを考えました。“オーバードライブ”は兼重さんに〈サビにベースのスラップ入れていいわけないだろ〉と怒られたけど(笑)、我を通して」
仲川「あのベースは歌詞に説得力を出しているから正解だと思う。アレンジは一般常識やセオリーで組むものじゃない。寂しくても、うるさくても、歌詞がその音を求めているならそれでいい。それが確信に変わりました」
