Photo by PETROS

UK出身のシエナ・スパイロが、1stアルバム『Visitor』をリリースした。サム・スミスやエルトン・ジョンらがその才能を認め、現在上映中の映画「プラダを着た悪魔2」のサントラにも参加するなど次世代を担うシンガーソングライターのひとりとして、今まさに大きく羽ばたこうとしている。そんな彼女が完成させたデビューアルバムを、ライターの村上ひさし、文筆家のつやちゃんにそれぞれレビューしてもらった。

なお、タワーレコードでは〈タワレコメン〉7月度のアーティストの1組としてシエナを選出したほか、〈YO!GAKU TO THE FUTURE〉の最新アンバサダーとしても彼女をピックアップしている。こちらも要チェックだ。 *Mikiki編集部

SIENNA SPIRO 『Visitor』 Capitol/ユニバーサル(2026)

 

ボンド映画のテーマソングも狙える逸材
by 村上ひさし

ルックスから、ファッションから、全身から醸し出されるオーラから、スター性を感じさせるシエナ・スパイロ。憂いを帯びた表情でこちらを見つめる写真1枚だけでも、彼女の独特な世界観に引き込まれてしまうのだが、歌声にはさらに驚かされる。大輪の花のような艶やかさと、燻し銀のような渋さを併せ持った、その歌声。一度耳にしたら忘れられないほど個性的な上、感情の乗せ方がとにかく特筆ものだ。

聴く者を一瞬で金縛りのような状態に陥らせる。その最も顕著な例が、先行リリースされたヒット曲“Die On This Hill”ではないかと思う。シンプルなピアノ演奏をバックに、優雅に、丁寧に、心を込めて歌い始めると、次第に切実さが増していき、弦楽伴奏も加わって、遂には熱い思いがマグマのように迸る。この1曲だけでも価値あるデビューアルバムではないかと思うのだが、アルバムとしてのコンセプチュアルな統一感や、古き良き時代のビンテージな肌触りも秀逸だ。すぐさま愛着を抱かせる。

ビンテージソウル色豊かな“This Is My House”でアルバムは幕を開け、ラナ・デル・レイを彷彿とさせる“We’re Not In Love”、エイミー・ワインハウス風の“He’s Not My Baby, I’m His”や、もちろんアデルを想起させるゴージャスな感涙系バラードも幾つか並ぶ。著名な宝飾職人の父親からの影響で、幼い頃からフランク・シナトラやエタ・ジェイムス、ニーナ・シモン、バーブラ・ストライサンドなどを聴いて育ったというが、どう考えても20歳とは思えない歌声と歌唱力で聴き手を圧倒する。いわゆるスモーキーボイスと呼ばれるタイプだが、あえてしゃがれ声と表現したいほど、既にたっぷり人生観や喜怒哀楽を感じさせてくれるのだ。

収録曲の多くで彼女と共に曲を書き、プロデュースを手掛けるオマー・フェディ(リル・ナズ・X、24kゴールデン)が、アルバム全体の監修を担当。演奏は全て生身のミュージシャンによるもので、豪華なオーケストラが導入され、ジャジーなニュアンスが差し挟まれ、レトロな雰囲気が満載だ。何かとレイの最新アルバム『THIS MUSIC MAY CONTAIN HOPE.』との共通点が認められる。だが、シエナの方が、現代人がレトロなサウンドに触れた時に感じるモンドやキッチュといった感覚やエッセンスをより多分に持ち合わせている気がする。

個人的には、歌の上手さだけに頼ったバラード一辺倒のアルバムにならなかった点も正解ではないかと思う。筆者が最もエキサイトさせられたのは、まるで映画「007」シリーズのテーマ曲かと思わせる”Time, You & Me”だ。ひと際ゴージャスで、ディーバ的なアティチュードもたっぷり。ドラマティックかつスリリングな歌唱と演奏を披露する。これをきっかけに、「007」の次回作のテーマ曲のオファーが舞い込むのでは? というか自ら獲りに行っているという気も。彼女なら役者としての出演(ボンドガール?)もありそうとか思ったり……。

アルバムには、当然ながら恋愛を歌った曲が多く収録されているが、それだけではないのも、彼女のアーティストとしての奥行きを感じさせる、オープニング曲“This Is My House”には詩人のニキ・ジオヴァニのポエトリーリーディングが引用され、ラストナンバー“Mono No Aware”で日本語の〈物の哀れ〉という概念について歌い、さらに同曲のインストバージョン(日本盤限定ボーナストラック)で締め括られる。そんな構成も、心地よい余韻を残してくれる。

つい先日、ホイットニー・ヒューストンを手塩にかけて育てたクライヴ・デイヴィスが亡くなったが、彼ならシエナをどう育てるのだろうか、とふと思ったり。きっと彼なら、このアルバムに関して100点満点を付けるのは間違いないだろう。

 

生きているように聴こえる歌声
by つやちゃん

シエナ・スパイロは、歌っているというより、生きているように聴こえる。『Visitor』には、歌唱技術では説明できない生々しさがある。息漏れ、かすれ、揺らぎ。それらは欠点ではなく、身体が感情を受け止めきれなかった痕跡として鳴っている。

彼女は、〈完璧なボーカリスト〉を目指していない。英メディアのインタビューでは、「私は声帯結節があり、それが私の声をかすれさせている」「実は技術的には私はひどいシンガーだと思っている」「でも、その技術不足がむしろ感情を歌に入れてくれる」と率直に語っている。この発言は、『Visitor』という作品全体を理解する鍵でもあるだろう。

“We’re Not In Love”を聴けば、すばらしい歌唱の中にも、独特の息漏れやザラつき、少しかすれた響きが感じられる。本人が声帯結節に由来すると語るその質感を、欠点として隠すのではなく、自らの声のアイデンティティとして引き受けているからこその堂々とした歌唱だ。彼女の歌は、技巧を披露するためではなく、物語を語り、それを聴き手に追体験させるために存在しているように感じられる。

たとえば映画で、俳優がそのつもりではなかったにもかかわらず本当に泣きそうになり声を詰まらせる場面は、発声技術だけを見れば〈失敗〉かもしれない。しかし、観客はその詰まりにこそ心を動かされる。シエナ・スパイロの歌にも、近いことが起きている。完璧な声を届けることよりも、その身体を通してしか生まれない物語を届けることに意識が向いているように感じられる。

かつてのポップスでは、高音を安定して伸ばすこと、広い音域を自在に操ること、ブレスを感じさせないことが優れた歌手の条件のひとつだった。しかし2020年代、少しずつ価値基準は変わり始めている。リスナーが聴きたいのは、完成された声ではなく、その声を発している身体である。歌とは、音程を正確に再現する技術というよりも、ひとりの人間の身体がいま何を経験しているのかを記録するメディアへと変化しつつある。

“Die On This Hill”を聴いていると、そのことを改めて実感する。かすれ、鼻腔共鳴、息漏れ、声帯が閉じ切らない瞬間。そうした〈声の質感〉が、そのまま物語のリアリティを生み出している。声とは、本来身体の痕跡なのだという、ごく当たり前の事実を思い出させる。ときに声が割れそうになり、高音では身体が少し追いついていないようにも感じられるが、“The Visitor”でぐいぐいと押し出す声を聴いていると、隣で誰かが本当に泣きそうになりながら歌っているような錯覚すら覚える。

ここまで考えてくると、シエナ・スパイロがAI生成による音楽のありかたを否定する理由もよく分かる。最新のインタビューで、彼女はこう語っていた。

「AI音楽なんて最悪だと思う。あんなものが本当に良くなることなんて、絶対ないよ。なんで自分の頭を使わずにAIなんか使うのか、私には理解できない。AIが作った曲を、いったい誰が聴きたいの?」

近年、〈テクスチャー〉という言葉は、シンセサイザーやギター、ビートの音色を語る際によく用いられる。しかし彼女は、その議論を〈声〉へと拡張しているように思うのだ。身体が生きた痕跡として鳴るということ。そこには、歌詞やメロディだけでは伝えきれない現実が宿っている。だから彼女の歌は、情報として理解される前に、身体感覚としてこちらへ届く。つまるところ、シエナ・スパイロは、生きているように聴こえる。

 


RELEASE INFORMATIO

SIENNA SPIRO 『Visitor』 Capitol/ユニバーサル(2026)

■国内盤CD
リリース日:2026年7月3日(金)

品番:UICC-10060
価格:3,300円(税込)
SHM-CD仕様
ボーナストラック1曲収録予定
歌詞・対訳・解説付

TRACKLIST
1. This Is My House
2. We’re Not In Love
3. Great Expectation
4. Die On This Hill
5. He’s Not My Baby, I’m His
6. Pure
7. The Visitor
8. Time, You & Me
9. You Stole The Show
10. Mono No Aware
11. Mono No Aware (Instrumental)*
*日本盤限定ボーナストラック

 

INFORMATION
YO!GAKU TO THE FUTURE
タワーレコードの洋楽応援企画 第12弾:シエナ・スパイロ

■YO!GAKU TO THE FUTUREポスター掲出
2026年7月3日(金)より、全国のタワーレコード、TOWER RECORDS mini全店にて〈YO!GAKU TO THE FUTURE〉シエナ・スパイロver.のポスターを掲出します。

■タワーレコード オリジナル特典
タワーレコードならびにTOWER RECORDS mini、またはタワーレコード オンラインでシエナ・スパイロ『Visitor』を購入の方にA3ポスターをプレゼントします。
※予約者優先で先着にてなくなり次第配布を終了します

A3ポスター(全1種)

■タワーレコード応募抽選特典 サイン入りアートカード
タワーレコード全店またはタワーレコード オンラインでシエナ・スパイロ『Visitor』を購入のうえ、応募していただいた方にサイン入りアートカードを抽選で5名様にプレゼントします。特設ページからの応募となり、タワーレコードメンバーズへの登録およびレシート番号の入力が必要となります。
抽選応募期間:2026年7月3日(金)~2026年8月2日(日)23:59まで
対象店舗:タワーレコード全店およびタワーレコード オンライン

応募方法:以下の応募フォーム、またはレシートに印字されたQRコードを読み取り、ご応募ください
応募フォーム:https://tower.jp/SIENNASPIRO2607
※サインは直筆のため、その過程において一部汚れ等が入る場合がございますが、返品・交換はできません

■対象商品
2026年7月3日(金)リリース
シエナ・スパイロ『ビジター』
国内盤CD/UICC-10060
輸入盤CD/5778400
輸入盤LP/5747477
輸入盤LP<タワーレコード限定/Red Vinyl>/5778397

〈YO!GAKU TO THE FUTURE〉特設ページ:https://tower.jp/article/feature_item/2026/06/25/0101

 

LIVE INFORMATION

2027年1月4日(月)東京・豊洲PIT
開場/開演:18:00/19:00

オールスタンディング:12,000円(税込/別途1ドリンクオーダー)
※未就学児入場不可
問い合わせ:クリエイティブマン 03-3499-6669
公演ページ:https://www.creativeman.co.jp/event/sienna-spiro_2027/

 


PROFILE: SIENNA SPIRO
2005年、ロンドン生まれのシンガーソングライター。エタ・ジェイムスやエイミー・ワインハウスを宿したような感性と、20歳とは思えない圧倒的な歌唱力は、すでにサム・スミス、エルトン・ジョン、サブリナ・カーペンター、SZA、ライアン・テダー、ハリー・スタイルズ、フィニアス、マーク・ロンソンといった音楽家たちを虜にしている。

SNSに投稿したカバー動画が絶大な人気を誇り、2024年5月、シングル“NEED ME”でキャピトル・レコードよりデビューを果たす。リリース曲がまだ数曲でありながら、TikTokのフォロワー数は400万人を突破、Spotifyの月間リスナー数は2,800万人を超える異例の数字を叩き出している。

2025年10月にリリースしたシングル“Die On This Hill”は、自身初となる全英シングルチャートでトップ10入り(9位)を達成し、Spotifyのグローバルチャートでも10位にランクイン。さらに、ローラ・ヤング、オリヴィア・ディーン、レイといった実力派アーティストに並び、全英トップ100に3曲を同時にランクインさせた数少ないイギリス人女性アーティストとしての地位を確立した。なお、これはデビューアルバムを発表していないアーティストとしては唯一の快挙でもある。

2025年よりライブ活動を開始し、サム・スミスのニューヨーク公演〈To Be Free: New York City〉にゲスト出演したほか、テディ・スウィムズの全米ツアーにも帯同。最新ツアー〈The Visitor Tour〉における自身初の北米公演は、発表と同時に数秒でチケットがソールドアウトを記録し、その反響を受けて追加公演も決定した。

これらのブレイクスルーを経て、アデルやサム・スミスらを輩出してきたブリット・アワードのライジング・スター賞(旧クリティックス・チョイス賞)にもノミネートされるなど、シエナの快進撃はとどまるところを知らない。
Instagram:https://www.instagram.com/siennaspiro/
TikTok:https://www.tiktok.com/@siennaspiro
日本公式HP:https://www.universal-music.co.jp/sienna-spiro/