
リバプールは人を温かく受け入れる土地
――アリさんはロンドンからリバプールに移住されたそうですが、交流があるズートンズやコーラルのメンバーなど、地元のミュージシャンたちとはどうやって仲良くなっていったんですか?
アリ「リバプールって本当に小さな街で、郊外にはたくさん家があるけれど、中心街はとても狭い。だからコンサートに行けば行くほど人と出会うし、その後パブで一杯飲んだりしてると、みんな〈彼がアリだよ〉と紹介してくれるんです。僕がプロとして演奏するようになってからは、20室くらいスタジオが入っている大きなスタジオビルの一室を借りていました。そこにコーラルのスタジオがあったり、ズートンズのスタジオがあったりしてね。それにウォンバッツも、リバプールのバンドがみんなそこにいました。だから、休憩の時間に下の階のパブで酒を飲んでいると、〈ハロー!〉ってことになるんです(笑)。
ロンドンの音楽シーンはかなり競争が激しいけれど、それに比べてリバプールは、何というか……すごく温かく受け入れてくれる。こっちではみんな、他の人もうまくいってほしいと願っているんです。そこがリバプールの大好きなところ。競争というよりは、ひとつのコミュニティのように感じられるんですよ」
――よくわかります。元ラーズで、今はキャストで活躍しているジョン・パワーに日本で取材したときもそんな感じで、インタビューが終わっても彼は席を立たないで、ビールを一杯やりながらずっとしゃべってました。
アリ「ジョンはナイスガイですよね! 僕がライブハウスのマネージャーをやっていた頃から彼を知っています。リバプールの人たちは人同士が好き合っているし、外から来た人たちに対してもオープンで、受け入れてくれる。そんな土地なんです」

ビートルズ的持ち味と現代的要素が融合したアルバム
――そういうリバプールの空気が、Any Joy?のアルバム『Sweet Nothings』にも詰まっているように思います。本作をお聴きになった感想は?
藤本「メロディがすごくいいですね。その魅力に加えて、音作りも含めてなんですけど、個人的には、ショーン・レノンやダニー・ハリスンといったビートルズの息子たちのアルバムに通じる印象を受けました。ポップ感がすごく強くて、サウンドも今風で。ビートルズ的な持ち味と、現代的な要素の融合がとてもいいし。それと、コーラスがすごくいいですね。全体の印象は聴き心地がいいし、すごく開放感、爽快感があって、そこに叙情性も含まれている。曲数も多過ぎずで、あれくらいだと何回も繰り返し聴けるし、耳に引っかかりやすいですよね。それはすごく大事なことかなと思いました」
アリ「本当にありがとう、うれしいです」
藤本「これは偶然だと思うけど、ポール・マッカートニーの新作『The Boys Of Dungeon Lane』にも、Any Joy?のアルバムにも、“Mountain Top”っていう曲があるじゃないですか。これはどういう繋がりなんでしょう」
アリ「僕たちとポールはきっと、テレパシーで繋がっているんでしょう(笑)。まあ、ただの奇妙な偶然です。僕と一幸とで、あの曲をだいたい2時間くらいで書きました。たぶん9ヶ月くらい前かな。本当に空から降ってきたみたいに、あっという間にできた曲です。ポールがアルバムをリリースする前に、僕らのアルバムをリリースできていたら良かったのに(笑)」
柴山「アリはアメリカのシンガーソングライターが好きで、ポール・サイモン、ニール・ヤング、ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーンのファンなんです。だからやっぱり歌詞がちょっと文学的というか。“Mountain Top”の歌詞もそうで、僕もそういう歌詞を英語で書きたいんだけど、うまく書けない。そこに彼の魅力があると思うし、一緒に組んでやりたいと思う理由でもあるんです」
――“Sometimes Love Is Hell”という曲の歌詞も、通常のラブソングとは異なる深い内容で、心に響きました。
柴山「あれはアリのブラザーについて書いた曲だったのを覚えているよ」
アリ「そうだね。僕は、最高のソングライティングというのは、かなりオープンなものだと感じているんだ。そうやって心を開けば、違う人々に対して様々な意味を持たせることができるからね」
――なるほど、よくわかります。
アリ「僕は曲を書く時、ひとつの事柄だけに絞らず、あらゆるインスピレーションを使おうとします。家族の生活、妻、友人たち、すべての異なる経験から。まるで、映画の脚本を書くような感じで、現実の生活そのものではないけれど、自分自身の経験を使って表現するんです。僕には問題を抱えているブラザーがいて……僕はただ、彼に愛を送りたかった。でも直接的な書き方ではなくて、パートナーとの関係という文脈に置き換えて書いています。つまり僕はこの曲を、まるで夫と妻の間の関係性であるかのように書きました。だから聴いている人は、僕自身と妻のことのように感じるかもしれないですね」