福岡を拠点に活動するロックバンドの奏人心が、3作目となるEPをリリースした。奏人心は2022年――彼らが高2のときに結成したスリーピースバンド。地元・福岡のライブハウスで活動を続けていくなか頭角を現し、2024年11月に1stシングル“昼でも星は光って”と1st EP『SEARCH感受YOUTH』でインディーデビュー。2025年8月に2nd EP『風がゆく若色の街』をリリースして、その2ヶ月後には東京での初ライブも行なった。

パンク、ガレージ的なサウンドで荒々しく初期衝動を表現した1st EPに対し、昨年の2nd EPでは2人のソングライター/ボーカリストがいることの強みを活かしながら〈勢いだけじゃない〉音楽性の広がりを早くも見せていたものだったが、3rd EPとなる『kioku no naka』では前作以上にツインボーカルを前面に押し出し、同時に彼らならではのグルーヴといったものも獲得している印象。言葉の選び方や組み合わせ方もますます磨かれ、進化の様がはっきりと示されている。3人の表現衝動がどこから来るのか、そして新EPの4曲にどんな思いを込めたのかを聞いた。

奏人心 『kioku no naka』 Beat Happy/FORLIFE SONGS(2026)

 

野球と同じくらい真剣になれたのが歌だった

――奏人心の楽曲を聴いていると、3人の切迫した表現衝動を強く感じます。それがどこから来ているのかを知りたいので、まずはおひとりずつ、バンド活動を始める以前の話を聞かせてください。有斗夢さんは中学時代に野球をやられていたそうですね。

永松有斗夢(ボーカル/ベース)「はい。小学生のときからプロ野球選手になりたいと思ってやってきました。だけどコロナ禍になって練習が満足にできなくなり、最後の大会にも出られなくて。その頃からインターネットでゲームをやったりYouTubeを見たりするようになり、音楽もいろいろ聴くようになったんです。

野球をやっていた頃からよく〈でかい声が出るね〉と褒めらていたんですが、友達とカラオケで歌っているとき、自分はでかい声を出すのがめっちゃ好きやな、歌うことが好きやなって気がついて。受験の失敗も重なって本当にやりたいことが何なのかあやふやになったとき、歌をやってみようと思いました。

その頃から本も読むようになって。自分の正直な気持ちを言葉にして、それをわかってもらえるのが気持ちのいいことに思えたんです。そうやって言葉を書くのが好きになり、それをでかい声で歌うことがやめられなくなった。野球と同じくらい真剣になれたのが歌だったんです」

――野球をやめてあやふやな状態でいたとき、抑えられない衝動を外に出すには歌がもってこいだった。

有斗夢「そうです。思えば子供の頃から我が強かったんやなと。自分は双子で、両親は分け隔てなく育ててくれましたが、やっぱり我を出さないとなかなか……。たぶんそういうのも関係していると思う。我を出して、気づいたことをほかの人にわかってもらって、その人がそのことについて考えてくれたり。そうやって人の人生に影響していくことが、人間としていいな、嬉しいことだなって思いました」

――ベースを始めたのもそのタイミングですか?

有斗夢「いや、バンドを始めるってなった高2から始めました。それまでは歌いたかっただけで、高1のときは軽音サークル内のコピバンで歌っていたんです。そこで一緒にやっていたのが(山路)あげはで、もっと真剣にバンドをやりたいね、オリジナル曲をやりたいね、という話をして。そこからスリーピースバンドを組もうとなったとき、あげははギターをやっていたので、自分はベースを持とうと」

――スリーピースにこだわった理由は?

有斗夢「ニルヴァーナとかがかっこいいなと思っていたし、ひとりひとりが際立つのがいいなと。スリーピースだと我が強い性格も活かせるし、独特のヒリヒリ感をかっこいいと感じていたので」

――曲作りは奏人心を結成してから始めたんですか?

有斗夢「そうです。最初に作ったのが“生き急げ!遅刻常習犯”で。書いたときは〈これでいいのかな?〉って感じだったけど、メンバーに見せたら〈いいじゃん!  やってみよう〉となって。リズムとかはぐちゃぐちゃでしたが、この2人とだったらイメージを共有して、やりたいことができると思ったんです」

 

有斗夢は〈オレにはやりたいことがある〉って顔をしていた

――あげはさんは中学の頃に吹奏楽部に入っていたけど、半年でやめて学校にもあまり行かなくなったそうですね。

山路あげは(ギター/ボーカル)「元を辿れば、小学校の頃から集団生活が嫌いだったんです。転校してからはそれがさらに酷くなって。中学で挽回しようと考え、吹奏楽部に入りました。でも中1の夏休みが明けたらもう学校に行けなくなっちゃって。日々、家にこもってギターを弾いていました」

――ギターはそれ以前からやっていたんですか?

あげは「ずっと家にいる私を、親が〈NUMBER SHOT〉フェスに連れ出してくれたんですよ。そのとき、一番大きなステージに竹原ピストルが出ていて、ひとりでこんなふうに力強くギターを弾いて歌うってすごい!と感動した。それで誕生日にギターを買ってもらったんです。それから曲も作り始めて」

――自分の思っていることを歌にして誰かに聴いてもらいたかった。

あげは「いや、誰かに聴かせたいとかではなく、ただ自分の思いを表現したかったんです」

――有斗夢さんとあげはさんは初めて会ったときから通じるものを感じていたんですか?

有斗夢「最初は人間的に似通った部分がないと思っていました。音楽をやりたいって気持ち、バンドをやりたいって気持ちの強さだけで繋がったというか」

あげは「私は最初、距離を感じたんですよ。同い年なのに敬語で話してくるし(笑)。ただ、まわりのコと比べて、有斗夢は唯一、〈オレにはやりたいことがある〉って顔をしていたんです」

 

一翔はヘンだけど芯が強くて、自分に素直で正直

――一翔さんも、中学の頃に吹奏楽をやっていたそうですね。この道でやっていこうという気持ちがあったんですか?

今橋一翔(ドラムス)「全然ないです。苦痛でしかなかったですね。僕も集団行動が苦手だったし、吹奏楽特有の厳しさや上下関係が苦手で。先輩との衝突もあったし」

――じゃあ、〈オレはこれから何をやろうか〉みたいな。

一翔「中学のときはそうでした。勉強もしなかったし。高校に入ってもしたいことがなかったので吹奏楽を続けたんですが、1年でやめて。2年の半ばまでは暇してたんです。それで、この先どうしようって現実と向き合って悩みだしたとき、顔見知り程度だった有斗夢が急に〈ドラムやらん?〉と話しかけてきたので、その場でOKして、有斗夢のいた軽音サークルに入りました」

――OKしたということは、ドラムに興味があった?

一翔「ちっちゃい頃に楽器屋さんに入ったとき、ドラムを触った記憶があって。有斗夢に誘われるまでやりたいと思っていなかったけど、このタイミングで誘われたってことは、人生が変わる何かがあるかもしれんって直感的に思ったんです」

――バンドを始めて、自分を表現したい気持ちも芽生えましたか?  それともバンドとして良くなっていけばいいという考えですか?

一翔「どっちもあります。バンドをやるまでは自分を表に出すのが苦手なタイプで。でもバンドを始めて、自分のやっていることをお客さんや世間の人に見てもらいたいという気持ちが強くなったし、同時にバンドももっと知ってほしいという気持ちがあります」

――有斗夢さんとあげはさんの表現欲求から刺激を受けるところも大きいのでは?

一翔「そうですね。ふたりとも音楽に対して誰よりも真剣だし、情熱的で。僕にはない考えをふたりは持っていて、それが奏人心らしさに繋がっていると思います」

――有斗夢さんが一翔さんを誘った理由は?

有斗夢「まだ話しかける前ですが、一翔がiPadで音楽を聴いていたんです。何を聴いているのか訊ねたら、クラシックだと。ヘンなやつやなって思ったんですよね。みんなでワイワイしているわけでもなく、流行りの音楽を聴いているわけでもなく、ひとりでクラシックを聴いているなんて普通の人間じゃないのは明らかで。バンドで仲間としてやっていくなら、少しおかしい人とのほうが絶対面白いと思った。一翔はヘンなやつですが、芯が強いし、自分に素直で正直なところがあるんやろなと思って誘いました」

 

町田康からハン・ガンまで、有斗夢の文学的影響

――何かに打ち込みたい、情熱を傾けて何かを表現をしたい。それぞれのそういう思いとタイミングが重なって高2からバンド活動をスタートさせた3人ですが、『SEARCH感受YOUTH』や『風がゆく若色の街』を聴いて感じたのは、初期衝動がそのまま表れた曲調やサウンドに加え、歌詞がぶっ刺さるなということで。言葉の選び方・組み合わせ方と視点の面白さに個性を感じたんです。きっと本をよく読むんだろうなと考えていたので、さっきの有斗夢さんの話を聞いてやっぱりなと思って。今も読書が習慣づいているんですか?

有斗夢「中学のときから文字に触れるのが好きで、本を読むなかで生まれ落ちてくる言葉を大事にしています。父の知り合いが古本屋をやっていて、いらなくなった本をくれるんですよ。ジャンルはバラバラですが、タイトルを見て〈いいな!〉と思ったものを読んでいます」

――好きな作家はいますか?

有斗夢「町田康さんとか。小説より先にINUから入ったんですが、言葉の使い方が独特で好きです。あと、最近読んだなかではハン・ガンさん」

――本に影響されて歌詞を書くこともあります?

有斗夢「歌詞を書くために本を読むことはなくて。自分が歌詞を書くときは、どういう言葉を使って歌えば自分が感動できるかを考えるんですが、そのときに本の影響が無意識に出るのかもしれないです」

――あげはさんも読書好きなんですか?

あげは「好きですね。最近、こだまさんの『夫のちんぽが入らない』を読んだんですが、こういう気持ちをどういった言い回しで表現するのかってところで、めっちゃ面白かった。吉本ばななさんも好きです」

――一翔さんは?

一翔「僕は小説を読むのが苦手で。漫画派なんです。だからふたりの話に入れない」

――ふたりの歌詞をどう感じていますか?

一翔「語彙力がないので未知の世界というか、すごいことやっているなと、いつも思っています」

 

聴いた人の心に残るのはやっぱり言葉

――『SEARCH感受YOUTH』は、有斗夢さんの初期衝動のようなものがダイレクトに表れたEPで、勢いと荒々しさがありました。対して『風がゆく若色の街』では4曲中2曲をあげはさんが歌い、メロディのよさも前に出てきた。とりわけ、あげはさんの歌う“それがすべて”のメロディと歌詞に70年代フォークの匂いを感じてやられたんですが、日本のフォークの影響ってありますか?

あげは「いや、フォークはあまり聴いていなくて。おばあちゃんの部屋にあったレコードをちょっと聴いたくらいですね。ただ、カネコアヤノとかフォークに影響を受けた人の音楽を高校のときに聴いていたので、その影響があるのかな。〈中島みゆき、好きですか?〉とたまに訊かれるんですけど、カラオケで歌うことはあるんですが、私の年齢からすると卒業式とかで合唱するイメージで」

――あげはさんは言葉がはっきり届くように歌いますよね。

あげは「私、喋るときの声が小さくて低いんですよ。そもそも口下手なので、伝わらないこともあって。言葉にしすぎるとかえって伝わらないから、しすぎないようにして、それをなるべく大きな声で歌おうと思っています」

――それにしてもパワフルなボーカルですよね。「声が小さい」と言う人のボーカルじゃないですよ、あれは(笑)。

あげは「あはは。バンドで歌うのが初めてだったので、〈こんな声が出たのか〉と自分でもびっくりしました」

――有斗夢さんも初期から歌い方が変化してきて、言葉を届ける意識がさらに強まってきたのかなと感じます。

有斗夢「そうですね。初めは言いたいことがたくさんあって、最初に素直に出したあの音、あの速さ、あの歌い方に自然になっていたんですが、ライブを観てくれた人や曲を聴いてくれた人の心に何が残るかを考えたとき、やっぱり言葉なのかなと思って。だったら自分の衝動や考えを思い描く形でキレイに投げかけられる歌い方をしないとって気づいて、今の歌い方になりました」

――一翔さんのドラムも、以前より歌と言葉を際立たせる意識が強まっていると感じます。

一翔「意識が変わったのもありますし、手数が増えたことで前は見えていなかった景色が広がって見えるようになってきたのもあります。意識の変化に伴ったドラムが叩けるようになったかなと」

 

言葉の力を信じて音楽にすることがコンセプト

――ここからは『kioku no naka』について聞いていきます。EP全体のコンセプトはありましたか?

有斗夢「一貫してあったのは、前作を踏まえながらもう一段階レベルアップしたものにしたいということ。それと言葉の力を信じて音楽にすることがコンセプトでした。この1年で生活や感情にいろんな変化があって、思い出さないだろうと思っていたことを思い出す瞬間が多くなったんです。記憶のなかに保存してあった瞬間瞬間がフラッシュバックするというか。それを形にして伝えたかった。タイトルは最後に付けたんですが、そのことをシンプルに表したものになったと思います」

――1曲目“惑星の呼吸”は、作詞が有斗夢さんとあげはさん、作曲・編曲が奏人心。詞はどのように書いたんですか?

有斗夢「まず僕が曲を弾き語りで作ったんですが、ふたりで歌う曲にしたかったので、〈この部分の歌詞はあるから、ここをお願いしていい?〉と頼んで。イメージの共有もしないまま投げました」

――この曲だけをとっても、ふたりの個性の違いが表れていますね。有斗夢さんは俯瞰で見て書いている感じがするけど、あげはさんは赤裸々に心情を書いている。

有斗夢「僕はいい意味でも悪い意味でも言葉をデザインしちゃうところがあって。あげははもっと正直に感情を出せるし、今どういう光景を見ているのかが伝わりやすい書き方をする。書き方の違うふたりの詞が1曲のなかにあるのが面白いと思います」

――まさしくそこが奏人心の面白さだし、強みだと思います。あげはさんは剥き出しの感情を書こうと意識したんですか?

あげは「それもありました。あと、有斗夢の歌詞を見てすごいなと思ったんですが、そこに合わせにいくのは違うなと思いましたし、歌詞で対比が生まれることで曲にもコントラストが生まれるんじゃないかと。そのへんを意識して言葉を選びました」

――〈大事なことだけ忘れないように/それ以外の事は何も知らなくていいのに〉というフレーズで始まります。これは有斗夢さんが普段から思っていること?

有斗夢「そうですね。何かを思い出したとき、僕はいろんなことを考えちゃうタイプで。あのとき自分が最後に言った言葉を相手はどう受け取ったか、とか。けどそれは人間関係の上に立って言ったことだし、自分が一番大事だと思うことだけ伝わったらそれでいいのかなと思ったりもするし。後悔することもあるけど、後悔できること自体が大事なんじゃないかと思うので……。それを歌詞にした感じです」

――サウンドはどんなことを意識しましたか?

有斗夢「言葉数が多いので、言葉の節々がちゃんと聞こえるようにするためにサウンドも聞こえやすくすることを意識しました。あと、リズムがいい曲にしたかった」

――導入部分、あげはさんの〈惑星感〉があるギターがいいですね。

あげは「今回はギターを歪ませすぎないようにしました。無駄を削ぎ落したかったんです。歪みが無駄だと思っているわけではないですが、曲の良さを引き立たせるために、削ぎ落せるところは削ぎ落そうと。この曲のイントロは、あえてチープな感じにしました」

――この曲は有斗夢さんとあげはさんがそれぞれのパートを歌って進んでいくわけですが、〈かすんで見えたよ 東京の街/理由は君がいない事〉と有斗夢さんが歌ったあと、ふたりで〈ウォ~~~オ~オ~〉とそこだけ声を重ねて歌うでしょ?  そこでグッとエモーショナル度数が上がるわけだけど、あれは自然に?

有斗夢「僕が〈こうしよう〉って自然に言った記憶があります。そこでガーっとクレッシェンドして、熱い感じになって、また戻る。そういう緩急の付け方で聴く人をハッとさせられるんじゃないかと思って」

――ドラムはどんなことを意識しました?

一翔「やったことのないリズムだったから、ひとつの挑戦でした。ギターとベースのグルーヴを感じ取って、ふたりが納得できるもの、かつ聴き手がリピートしたくなる曲にしたいなと考えて。それはほかの全曲にも言えることですけど」

 

自分に喝を入れ、怒りを込めつつも曲名は“小鳥”

――2曲目の“小鳥”は作詞があげはさん、作曲・編曲が奏人心。この歌詞はどんな思いで書いたんですか?

あげは「今まで作った曲のなかでもかなり自分勝手に書いた曲で、自分に対して言っている部分が多いですね。“それがすべて”や“フィールドアンドサンセット”は自分に歌いながら人に対しても歌っている感じでしたが、この曲は自分に喝を入れるために書きました。でも、わかる!って思ってくれる人も多いだろうから、バンドでやろうと思ったんです」

――〈みないでくれ/笑わないで〉といった剥き出しの言葉を書くのって勇気のいることでしょうけど、あげはさんは思い切って書きますよね。

あげは「恥を忍んで書いてます。そうしないと、本当に思っていることが伝わらないから」

――そこに打たれます。因みに〈小鳥〉というワードは歌詞に出てきませんよね。

あげは「曲名をつけるのが得意じゃなくて、自分に喝を入れるワードって何かな?と悩んでいたときに一翔が〈小鳥〉って言ったんですよ。それを聞いて、自分に怒っている歌詞なのに〈小鳥〉って付いていたら、皮肉みたいで面白いなと思ったんです。今は怒っているけど、それがいつか可愛らしいものになる可能性もあるかもしれない。そういう希望を託すタイトルとしていいかなと」

――一翔さんはどうして〈小鳥〉という言葉が浮かんだんですか?

一翔「歌詞全体の意味を汲み取ったわけではなく、曲調や最初のギターのフレーズを聴いて思い浮かんだのが〈小鳥〉だったんです」

――いいですね。今となっては、この曲は〈小鳥〉以外に考えられない。

あげは「あははは。ほんとにそう」

――サウンド面で意識したのはどういったことですか?

あげは「このEPでは新しいことをいろいろやっているんですが、この曲のギターはこれまで寄りの音で。途中、有斗夢がベースでメロディを弾くところがあるんですが、それを際立たせるにはどうするかを考えて弾きました」

――ドラムもあげはさんの感情の移行に沿って変化していきますね。

一翔「そうですね。でもギターや曲調の変化に合わせて変えているだけで。僕は歌詞を汲み取るのが苦手なので、自然にこうなったんです」

――歌詞を汲み取るのが苦手と言うけど、あげはさんの曲から〈小鳥〉というイメージが浮かぶ感性があるわけで、それはドラムにも反映されていると思いますよ。

一翔「そうなんですかね……(笑)」

 

昔の恋愛を思い、届かない思いを書く

――3曲目はCDのみ収録の“SAYONARA.”で、作詞が有斗夢さん、作曲・編曲が奏人心。どんな思いで詞を書いたんですか?

有斗夢「昔の恋愛のことを書きました。届かない思いを書こうと思って。〈どこにも/僕を辞める薬ない〉と歌っていますが、本当に僕は自分を崩すことが一番嫌だと思っているので。それはできないってことと、そういう自分に対する嫌悪感を夏の暑さと重ねて表現できればと」

――〈全部消えてゆく/全部探しにゆく〉というところを、あげはさんが歌っています。ここは自分が歌うことでよりリアリティを出せるだろうと?

あげは「そうですね。“惑星の呼吸“と同じでこれもコントラストを出したかったんです。有斗夢が自分の苦しい気持ちを歌っているなか、私は女の子側で歌っていて。有斗夢の気持ちに寄り添うというより、客観視している感じ。ふわっと現れる感じで歌いました」

――グランジ的な音がイントロや間奏で鳴りますが、ドラムで意識したことは?

一翔「レコーディングする直前に叩き方を変えた記憶があって。録音ではこうなりましたが、まだ伸びしろがあるというか、ライブではもっとやれると思っています。ライブでやることでもっと変わっていく気がしていますね」

 

音楽という魔法に救われた経験を伝えたい

――4曲目は“Ma魔法hou”。先行リリースされたシングルとは違うバージョンで。

有斗夢「シングルバージョンは瞬発力がありますね」

――作詞が有斗夢さん、作曲・編曲が奏人心。どんな思いで歌詞を書いたんですか?

有斗夢「〈魔法〉というキーワードが初めにあって。僕自身、魔法をかけられた感じになったことが何回もあるんです。ライブハウスでだったり、そのことを思い出しているときだったり。その瞬間だけでなく、思い出すこと自体が魔法みたいに感じられたりする。実際、想い出が自分を助けてくれることもあったので、そういうことを伝えたいなと」

――〈僕はあのステレオナイツが忘れられなくて〉や〈世界を変えるよステレオの魔法で〉というフレーズが印象的でした。

有斗夢「ライブハウスで魔法をかけられた感覚になったことが、すごく大きくて。それはデジタルなものではなく、ステレオで出てきた音だったというのがひとつ。それと福岡にTHE SHITMSという先輩バンドがいるんですが、そのバンドの“ステレオ☆ナイツ”という曲をライブハウスで聴いて、本当に救われた気持ちになったんです。そのことを形にして残しておきたくて」

――あげはさんは有斗夢さんがこの詞をあげたとき、どんなふうに感じました?

あげは「“ステレオ☆ナイツ”のことだなってすぐにわかりました。今まで有斗夢は自分のことを書いて自分に歌っているところがあったけど、この曲は誰かのために歌っているというか、聴き手を意識しているなと思いました。このタイミングでそうすることが、今の奏人心には大事だな、必要だなと思ったんです。今までより聴き手を濃く意識した曲です」

――シングルバージョンは、ド頭から無伴奏でふたりの歌がバーンと聞こえてくる。あれ、すごいインパクトですよね。聴き手を一瞬でつかむ力がある。

あげは「確かにシングルのほうが強さはありますね」

――この曲も“惑星の呼吸”もそうですが、今回のEPはツインボーカルの面白さ、ふたりの歌の異なる個性をかなり前に出していますよね。

有斗夢「そこは意識しました。これまでは僕の曲とあげはの曲というふうに分離していたんですが、今回はもう一段階レベルアップさせるため、ふたりで歌うことをしっかりやってみたんです」

――一翔さんは、“Ma魔法hou”でどんなことを意識しました?

一翔「“惑星の呼吸“もそうですが、この曲はもっと型にとらわれないリズムがあって。普通に表拍で、跳ねる感じでいくのも合わないし、裏拍ばかりでも合わない。裏拍を意識しながら細かい調整をすることを意識しました」

 

人間の強い気持ち、大きな感情がパワーになる

――奏人心ならではのグルーヴがこのEPでできてきた印象があります。作り終えてみてどうですか?

有斗夢「成長できた部分がすごくあるなと思うし、〈奏人心ってこういうバンドだよね?!〉というイメージが変化したり広がったりする気がしているので、これからに対してワクワクしています」

あげは「今回は新たな試みがいっぱいあったと思っていて。ふたりで歌うこともそうですし、音や歌詞も今までと違う。奏人心は毎回作品の色が違うので、そこも楽しんでもらえたら嬉しいです」

一翔「新しい挑戦を含め、自分たちが今やれることをぎっしり詰め込んだEPになったと思います」

――確かに作品毎に変化しているし、出す度に音楽性と可能性が広がっている。そうでありながら初めに言った通り切迫した表現衝動を持ち続けているのが素敵なので、これからも変に慣れたりせず、それを持ち続けて活動してほしいです。

有斗夢「ありがとうございます。衝動はなくさずにいたいと思っているし、僕はやっぱり人間の強い気持ちが好きなんですよ。人間から出る大きな感情がパワーになると思っているので、表現の仕方が変わったとしても、そこは大事にしたいです」

 


RELEASE INFORMATION

奏人心 『kioku no naka』 Beat Happy/FORLIFE SONGS(2026)

リリース日:2026年9月9日(水)
品番:FSCR-5
形態:EP(CD/配信)
価格:1,400円(税込)
配信リンク:https://friendship.lnk.to/kiokunonaka_stsn

TRACKLIST
1. 惑星の呼吸
作詞 永松有斗夢 山路あげは 作曲・編曲 奏人心

2. 小鳥
作詞 山路あげは 作曲・編曲 奏人心

3. SAYONARA. ※CDのみ収録
作詞 永松有斗夢 作曲・編曲 奏人心

4. Ma魔法hou
作詞 永松有斗夢 作曲・編曲 奏人心

■配信シングル
奏人心 “Ma魔法hou-single version-”

リリース日:2026年8月5日(水)
形態:配信シングル
配信リンク:https://friendship.lnk.to/Dnfa_stsn

TRACKLIST
1. Ma魔法hou-single version-
作詞 永松有斗夢 作曲・編曲 奏人心

 

■SNS
Instagram:https://www.instagram.com/soutosin6969
ロックマガジン『WEB DONUT』連載 若きオルタナ詩人 永松有斗夢(奏人心)〈なぞる感覚と道標〉:https://donutroll.tokyo/nazoru/