99年に設立されたオランダのスピニンは、もともと良質なトランスやフィルター・ハウス、テクノ、エレクトロ・ハウスなどをリリースする、インディーのダンス・ミュージック・レーベルだった。
そんなレーベルに変化があったのが2010年から2011年のこと。それまでトランスやプログレッシヴ・ハウスをベースとしていたシドニー・サムソンや、渋めのテクノを作っていたアフロジャック、ニッキー・ロメロなどのアクトが、タフなダッチ・ビートとトランスのメロディーやテクノの派手な飛び音をミックスしていき、いまのEDM(特にビッグルーム・ハウスと呼ばれるオランダ勢が得意とするサウンド)が形成される。インストではボビー・バーンズ&シドニー・サムソン“Countdown”、歌モノではハード・ロック・ソファー“True Emotion”でその萌芽が生まれ、ファイアービーツ“Funky Shit”やマニュエル・デ・ラ・マーレ&ルカ・モンティチェッリ“Guerrilla”で完全にスタイルが確立された。その後、ニッキー・ロメロの代表曲“Toulouse”を皮切りに、バスト、シャーマノロジー、リハブ、マーティン・ギャリックス、ディミトリ・ヴェガス&ライク・マイク、ダブヴィジョン、ショウテックなど、いまをときめくタレントが話題曲を発表し、特に2013年にはアンセムを連発して大ブレイク。さらにジャスティン・ビーバーのマネージャーであるスクーター・ブラウンと連携し、マーティン・ギャリックスをスターダムに押し上げたほか、数多くのレーベルと提携を結ぶなど、一大レーベルへと成長を遂げたのである。
そんななか、今回DJのYAMATOとSHINTAROが、スピニンの音源を使ったミックスCDを立て続けにリリース。そこでカラーの異なる2枚のミックスCDを軸として対談を実施し、世界をめざして奮闘しているお互いの現在を語り合ってもらった。


VARIOUS ARTISTS 『SPINNIN’ IN THE MIX mixed by DJ SHINTARO』 FARM(2015)
ターミネーターで例えると
――アンセミックなトラックの多いスピニンだけに、ノリや選曲が被らないかなと心配だったんですが、どちらもテイストがガラっと違ってて大変興味深かったです。
SHINTARO「いまのEDMシーンっていうよりはSHINTAROスタイルを意識してミックスしました。スクラッチが得意なんですが、許諾の問題もあるので、そこはできるだけレーベル側とお話しながら(笑)。自分のファンはもちろん、EDMのCDをフィジカルで出すことで新しいファンにもアプローチできるんで、自分のフレイヴァーを意識しましたね」
――いわゆるフューチャー・ハウスと言われる曲が前半にあって意外でした。
SHINTARO「スピニンの曲をレーベルで意識しては聴いてなかったので、オファーをいただいた時に自分の感覚で良いと思うものを入れていったんです。ディープ・ハウスも好きなんですよね」
YAMATO「僕はSHINTAROくんと曲が被らないように意識はしながらも、自分の好きな曲、自分の色を出した感じでしたね。もともとダンサーをやってて、車を運転するのも好きなんですけど、ドライヴとかで歌ったりとか、フェスでプレイするような感じをイメージしてました。(スピニンは)好きなレーベルで曲もいっぱい持ってて。今回のミックスCDで使ったなかだとマーティン・ギャリックスの“Animals (Botnek Remix)”が大好きなんです」
SHINTARO「(カード・マーヴェリックの)“Hell Yeah”とかビンゴ・プレイヤーズの“Devotion”も良かったですよね。最近だと、スピニンではないけど(チェインスモーカーズの)“#Selfie”とか」
――YAMATOさんはTJR & ヴィナイ“Bounce Generation”をミックスのなかで何回か使ってますよね?
YAMATO「あえて繰り返してるんですよ、いろんなヴァージョンで。でも、現場でやったら別のヴァージョンってまず気付かれないんですよね」
――YAMATOさんのミックスはいまのEDMシーンの流れを組んだフェス仕様の徹頭徹尾アッパーなスタイル。一方のSHINTAROさんはスクラッチを混ぜながらも、序盤はスピニン・ディープ(ディープ・ハウス/フューチャー・ハウス系のサブ・レーベル)の音源でジワジワと流れを作って、後半にビッグルーム系でガンガン上げていくクラブ系のクラシカルなDJスタイルで、対比もおもしろかったです。
SHINTARO「俺はターンテーブルとミキサーだけでやってるんで、〈ターミネーター〉シリーズで例えるとシュワちゃんの旧型なんですよ。で、YAMATOくんは最新機材を駆使するスタイルで、液体型のターミネーター。だから自分はシンプルな感じですよ」
YAMATO「でも、僕から見たら自分が〈ターミネーター2〉で彼が〈ターミネーター3〉なんですよ。〈Red Bull Thre3Style〉でのプレイも見たけど新しいものを発見している感覚がありましたからね。僕は〈burn WORLD DJ CONTEST〉に出演して、どちらも2013年だったので、大会は違えど同じように世界で戦っている人がいるんだと思って嬉しかったですね」