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高野麻衣(コラムニスト)× 小沼純一(音楽・文芸批評家/早稲田大学教授)

小沼純一「『のだめカンタービレ』が韓国でTVドラマになりました。わたくしたち、ざっと拝見したわけです。もちろん『のだめ』はまずマンガがあり、TVドラマ、映画がありました。それを踏まえたうえで、麻衣さん、まずどうぞ」

高野麻衣「韓国版を観て、まず序盤で〈よく忠実に再現したな!〉と舌を巻きましたね。とくにキャストが、日本の俳優たちの雰囲気に近い。〈ちょっぴりファンタジー〉な世界観も、そっくりでした。ファンタジーというより、ファンシーかな。ロケーション(大学や主人公たちのマンションなど)も独特のデザインで」

小沼「わたしは、わりあい古典的な少女マンガをそのままCGとかで〈描い〉たようにみえましたね。マンガチックとか乙女チックとか言ったらいいのかな。それに、こっちだとメルヘンはメルヘンとしてじゃなくて、もっとパロディというか、距離をもってつくるでしょう? そういうのがもっとストレートなんだな、韓国のは。そこがいいところでもあり、って」

高野「そのへん、日本の少女マンガの遺伝子が息づく韓国ドラマならでは。さすが得意分野だと思いました。あと、総合的に女性がかわいくておしゃれ(笑)。学長ミナ(イェ・ジウォン)や、声楽科のマドンナ・ドギョン(キム・ユミ)など、メイクからファッションまでメモしながら見入ってしまいました。韓国ドラマは、設定も女性像も「ファンシーでクラシックでフェミニン」なのが好きなポイントです。私は宝塚の娘役が大好きなので、共通項を感じますね」

小沼「あ、だからね、もちろん作品としてどうのというのはあるけど、やっぱりおなじ原作に対しての料理のしかたというかな、その文化的な差が対照できておもしろいとおもうんです、マンガやこっちでのドラマとはね」

高野「はい。オープニングが、日本で“のだめのテーマ”としておなじみになったベートーヴェンの交響曲第7番(ベト7)ではなく第3番“英雄”であるところが、とても韓国らしいなって。骨太というか、マッチョなイメージ。そういえばK-POP好きの友人は、千秋先輩にあたるユジン役のチュウォンさんが〈マッチョでカッコイイ!〉って絶賛していました。私は〈残念な王子様〉がよく似合う、玉木宏さんの千秋も大好きだったんですが(笑)」

小沼「そうそう、“ベト7”が“英雄”に!、っておもったな、やっぱり。クラシックというところからみて、『マンガと音楽の甘い関係』を書かれた著者としては、どうでしょう?」

高野「『マンガと音楽の甘い関係』では『のだめ』のような〈音楽マンガ〉に限らず、『ベルサイユのばら』や『SLAMDUNK』など人気マンガのなかでキャラクターがハマっていたり、タイトルやテーマ曲として使用された楽曲を解き明かすという作業をしました。“聴こえない”マンガですらそうなので、BGMがつく映画やドラマはほんとうに気になります。今作ではやっぱり、〈原作、日本版ドラマとの選曲の違い〉がおもしろかった。オープニングの“ベト7”と“英雄”もそうですし、のだめ=ネイルとユジン先輩の出会いの曲も、ベートーヴェンの“悲愴”でなくリストの“愛の夢”なんですよ。〈音楽で恋に落ちるシーン〉としては非常にわかりやすいですが、〈『悲愴』でなく『悲惨』だな!〉と悪態をつきながら惹かれていく千秋とのだめの独特の関係性の提示は薄くなる。そう思っていたら、ドラマも後半でわかりやすく男女のラブストーリーになっていって、なるほどなと(笑)」

2009年の映画「のだめカンタービレ最終楽章 前編」プレヴュー

小沼「『のだめ』はクラシックの世界が扱われている人間模様でありつつ、音楽する、演奏するヒトの心身とその動きを描きだしたマンガとして感嘆したんですね、わたしは。それはマンガの力でもあったわけで、生身のヒトがでてくるとどうしても異なった部分がでてくることになる。そこはそこでおもしろいわけですが」

高野「私にとって『のだめ』は、学生時代に出会ってクラシック音楽業界で働く動機を固めた作品のひとつです。でも、なにより魅力的だったのは、のだめと千秋が男女の恋愛を超えた〈最大の理解者にしてライバル〉であり〈バディ(相棒)〉であった点でした。芸術家が直面するさまざまな葛藤を乗り越えた原作のふたりは安泰に思えますが、韓国版のふたりはちょっと心配かもしれない。恋愛だけではやっぱり、もろいですよ(笑)」

小沼「そういうところはあるねぇ」

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高野「ただし、それも韓国ドラマとわりきればおもしろかった。とくに終盤のとある人物(パク・ボゴム)の登場は、少女マンガファンとしてはかなり高得点です。ネイルの女の子っぽさも、のだめであることを忘れればかわいい。ザルツブルクのシーンなど、自分が18の夏にはじめて訪れたときのことを思い出してきゅんとしてしまいました。また、原作と同様、群像劇はしっかり描かれていましたよね。登場人物が勢ぞろいして、大好きなモーツァルトのピアノ協奏曲第21番の第1楽章で幕を閉じるエンディングは大好きでした。ネイル(韓国語で〈あした〉)という主人公の名前が、象徴的に生きているシーンだと思いました」

小沼「いろいろ見較べてみるおもしろさがある、というのは大事なポイントですよね。演奏家によってひとつの楽曲が変わるのに似て、その意味で『のだめ』もクラシックの流儀をなぞっているのかも、なんて(笑)」

 


DRAMA INFORMATION
ドラマ「のだめカンタービレ~ネイル カンタービレ」

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原作:二ノ宮知子「のだめカンタービレ」(講談社「KC Kiss」所収)
脚本:シン・ジエウォン
演出:ハン・サンウ
出演:チュウォン/シム・ウンギョン/パク・ボゴム/コ・ギョンピョ/ドヒ(Tiny-G)/チャン・セヒョン/キム・ユミ/ペ・ミンジョン/ペク・ユンシク/イェ・ジウォン/イ・ビョンジュン/ナムグン・ヨン 他
https://www.cinemart.co.jp/k-nodame/

 

EVENT INFORMATION
Blu-ray & DVD先行発売記念イベント
5月29日(金)東京・Zepp DiverCity(TOKYO)〈2回公演〉
・昼
開場/開演:14:00/14:30
・夜
開場/開演:18:00/18:30
登壇ゲスト:チュウォン/シム・ウンギョン
詳細はオフィシャルサイトで  https://www.cinemart.co.jp/k-nodame/event/

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