烈火の炎が燃やすのは闘う魂、熱くするのは聴く者の心――初のベスト盤『BEST POSITIVE』に刻まれた10年の軌跡は、前向きな熱を帯び続けてきたleccaの歌の本質を改めて照らし出す!

 

共通項は〈POSITIVE〉

 ファースト・ミニ・アルバム『Dreamer』から今年4月で丸10年。それを祝して作られたlecca初のベスト・アルバム『BEST POSITIVE』は、代表曲の“紅空”で晴れ晴れしくスタートする。以降、ダウンロード数やMVの視聴数が多い曲が発表順に収録されているが、ラストに収録された新曲“ねがい”は、leccaの母親目線ナンバー。母と娘の深い絆を描いたTVドラマ「最高のオヤコ」のために作られた曲で、昨夏に女の子を出産、現在2人の子を持つ自身の経験を基に書き下ろしたのだという。願うのは大切な人の笑顔。歌詞に出てくる〈あなた〉は、我が子だけでなく、愛する人全般に置き換え可能だし、ファンに向けた歌にも解釈できる。

 「2人目を抱っこした状態で去年の9月からライヴ復帰したんですけど、あるフェスから帰京する新幹線で、娘が疲れちゃったのか泣き出しちゃったんです。可哀想だなと思ってデッキ部分でゆらゆら立ちながら赤ちゃんを抱っこしてた時に思ったことを書いたのがこの詞で。何があっても私は見守ってるよとか、何があってもあなたの味方だよっていう思いが軸になってます」。

lecca BEST POSITIVE cutting edge(2016)

 女性らしい繊細な愛情表現とそこに留まらない情熱で、これまでに200曲近くの楽曲を発表してきたlecca。「10年間の共通項をひとつ挙げて言い表すなら、〈レゲエ〉じゃないし、〈ポップ〉じゃないし……と考えたときに〈ポジティヴ〉という言葉が出てきた」ことから今回の『BEST POSITIVE』を命名したという。

 「自分の曲は辛い現実や苦しい日常を歌うところから始まるんですけど、それを良い方向に変えていく転換点が曲の中に入ってると思うんです」

 そんな10年でのターニングポイントを3つ、本作の収録曲に絡めて挙げてもらったところ、彼女が最初に選んだのはブレイクへの活路を開いた“For You”(2009年)。この曲は彼女が自身のラジオ番組でリスナーから募集した〈大切な人への想い〉に触発されて書いたラブソング。メッセージを寄せてくれた人のなかには小学校の教頭やお坊さんもいたという。

 「自分と全然違うところに暮らし、全然違う仕事をしていても、私の曲を聴いて同じように時間を過ごしてくれる人がいるんだということをリアルに感じて。それまでは自分に向けて書いたり、自分が第一のリスナーだったんですけど、“For You”からそういう人がいることを意識して書くようになったんです」。

 2つめはアスリートにもファンが多い自分鼓舞ソング“My measure”(2009年)。この曲を作るにあたって彼女は、周囲の人間に〈あなたにとって仕事とは?〉とアンケートを実施。その熱い思いを自身の経験も踏まえてまとめたそうで、「何度聴き直しても、この曲の歌詞はいろんな人の人生を背負ってる」と語る。

 

自分にしか歌えないもの

 そして、3つめに挙げたのは“Sky is the Limit”(2013年)。日本語ラップの先駆者にして、彼女にとっては大学の先輩でもあるRHYMESTERを迎えた曲だ。『BIG POPPER』と『パワーバタフライ』のヒット以降、〈あの曲みたいなのを作って〉と自身の過去曲を引き合いに出されることが増え、苦悩していたという彼女。続く『Step One』『ZOOLANDER』『TOP JUNCTION』の時期に抱えていた葛藤を晴らしてくれたのがその“Sky is the Limit”だという。

 「この曲を作って、〈私、あと10年がんばれる〉って思いました。孤独感もあり、指標にしたい存在が欲しくもあり、自分の言葉で伝えられるものがこれ以上あるんだろうか?と考えてた時期だったんです。そんなときにRHYMESTERが、〈限界はない 限界はない そう思えたヤツに限界はない〉って歌ってくれて。その言葉はいまでも辛いときに浮かんでくるラインなんです」。

 この曲の制作現場ではMummy-Dから愛ある指導を受けたとも。それはルーツであるダンスホール・レゲエに影響を受けたフロウや符割りについて。

 「一緒に作ってるときに、〈わかってる? それ、字余りだよ〉って。レゲエのフロウは大好きだけど、それに固執し過ぎると確かに曲を殺してしまうことがある。自分の良いところは残して、変なところは正していかなきゃいけないって気付かせてくれたんです。それで次の年にレゲエ・アルバムを作ろうと思い立って『tough Village』を作ったことがすごく楽しかった。振り返るとデビューして3年くらいは意識がレゲエに向いてたんですよね。レゲエの先輩たちに認めてほしくてやってた。でも、Dさんは〈ちゃんと音楽をやりなさい〉と言いたかったのかなと。すごく勉強になったし、原点回帰して音楽を楽しむキッカケを作ってくれたし、暗闇にトンネルを開いてくれたのがRHYMESTERだったかもしれないです」。

 最新作が最高傑作。そんな思いから、いまいちばん好きなアルバムに『前向き』を挙げるlecca。そして、このケレン味のない表題から「私の加齢を感じ取って」とも。最後はこんなポジティヴな言葉で締めてくれた。

 「いろいろ経て、自分のスタイルに自信がついてきたんです。いまはこねくり回す表現をしたくなくなったし、より簡単な日本語を使って、それを歌にすることが上手くなってきたと思う。『tough Village』あたりから人前で歌うのも楽しくなってきて、自分にしか歌えない曲っていうものの存在価値もようやく感じはじめてきたので、このスタイルを続けられるなら、まだまだこれから先も曲を届けていきたいなって思っています」。