W主演&初共演の野村周平・賀来賢人の切ない友情をグッドラックヘイワの音楽、星野源の主題歌がそっと心に寄り添い、ちょっとだけ、あなたの人生を変える!

 山間の田舎町にある木造の廃校〈森山中〉。そこで営業している自動車教習所(非公認)へ仲良く通い始めることになったノーテンキな大学生、清高(野村周平)とポーカーフェイスのインテリヤクザ、轟木(賀来賢人)。もともと高校の同級生であるふたりが再会したのはひょんなことから。ジメジメした夏の夜、チャリンコに跨ってふらついていた清高を、親分を乗せて走っていた轟木の車が轢いてしまったのだ。轟木はまだ免許を持っていない。これ以上人を轢かれちゃかなわんと、組長はすぐさま彼を森山中へと連れていく。一方清高はというと、てっきり死んだものと思われてトランクに放り込まれていたが、ヤクザたちに埋められる寸前ひょっこり復活。でもって目を覚ました先が、夏休みだし、ちょうど通おうと考えていた自車教習所だったものだからキャッキャと大はしゃぎ。轢かれちゃったことはキレイさっぱり忘れる、という組長からの提案を呑み、運良くいっしょに通わせてもらえることに。かくして彼らの不思議な夏休みの扉が開かれる――。

 熱烈なファンが多い真造圭吾の青春コミックを原作とした映画「森山中教習所」は、水と油のように対照的な男子のひと夏を描いたほろ苦くもめっぽう愉快な青春絵日記である。監督は「ヒーローマニア-生活-」が公開されたばかりの豊島圭介。残酷なまでに儚く切ない一瞬をとらえるべく全身全霊を傾ける演出が実に爽快にして痛快だ。

 まるで小学生がクレヨンで描いたかのようなカラフルな運動場(=自動車の練習コース)がまずもって夏休み感満点。ぽかんと開かれたこの透明な楽園は、同時に田舎特有の閉塞感をリアルに描くことでいっそう眩しさを増していくだろう。そんな運動場を来る日も来る日もグルグル駆けまわるふたり。車に乗らないときはピカピカと光る水風船を空に向けて投げたりして遊んだりするのだが、光が強くなればなるほどどうしても影は濃くなるもので、楽しい時間が積み重ねられていくにつれて両者の立場の違いはより明確になっていく。無邪気に運動場を回転し続けることで、ふたりの距離も徐々に遠のくのだった。

 どこにだって行けるさ、でも結局はどこへも行けないのかもしれない。といった気持ちが風見鶏のようにクルクルと回転する様子。そんな感情の揺れを巧みに掬い上げる若手ふたりの演技が絶妙である。いつも腹ペコそうな眼をしているけれど、突如暴走するかもしれない危なさを秘めた清高を体当たりで演じた野村周平。運動神経が抜群なことを容易に想像させる逞しい体格を持ちながら、不器用そうで頼りなさげな風情をうまく醸してみせるところがいい。そして時々つむじ風を起こして周りを唖然とさせる危険野郎、轟木を抑えた演技でやり切った賀来賢人。彼は翳りをイメージさせる身体の線の細さが魅力的だ。

 カタギとヤクザ、自由と不自由など、映画のさまざまな場面において並置されている対立軸。本来なら相容れないものどうしのはずが、なぜだか仲良さげに丸く収まってしまう。それこそが森山中という空間が持つ不思議な磁力であり、夏休みが持ちうる霊力なのかもしれない。と、そんなことにふと気づいたとき、映画のなかで流れている旋律の持つ特別な力について考えが向かってしまう。音楽を担当しているのは、野村卓史伊藤大地から成るインスト・デュオ、グッドラックヘイワ。清高が纏う“どこ吹く風”という感覚を巧みに表現しているのが見事で、彼らが奏でる伸びやかでピースフルなサウンドがなければ作品が持つ特別な夏休み感は半減していただろう。そして主題歌《Friend Ship》を歌うのは、かつて野村と伊藤とSAKEROCKで同じ釜の飯を食った星野源。メロディから感じ取れるほのかなオリエンタル風味、どこか懐かしいマリンバの音色が遠い記憶を呼び起こさせる。ほろ苦くもめっぽう愉快な友情譚のエンディングを飾るに相応しい曲で、甘酸っぱさ満点の歌声がとにかくまぶしい。あぁ、夏休みが止まらない。

 

映画『森山中教習所』
出演:野村周平 - 賀来賢人
岸井ゆきの寺十吾佐藤真弓裵 ジョンミョン黒田大輔音尾琢真ダンカン根岸季衣麻生久美子光石研/他
主題歌:星野 源『Friend Ship』
原作:真造圭伍『森山中教習所』(ビッグスピリッツコミックス刊)
音楽:グッドラックヘイワ
監督:豊島圭介
7/9(土)新宿バルト9他、全国ロードショー!
配給:ファントム・フィルム (2016年 日本 103分) 
(C)2016真造圭伍・小学館/「森山中教習所」製作委員会
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