孤高の作家の〈死〉の呪縛を乗り越え、〈生〉を捉えた、〈肉体〉の言葉による〈決闘〉
一枚のモノクロ写真(「見られる」世界)がある。両手を腰に当てた三島由紀夫が余裕の笑みで仁王立ちし、あの特徴的な大きな目が右手に視線を向ける。ぴったりとしたポロシャツ姿で鍛え上げられた肉体が誇示され、手前の教卓にはマイクが置かれている。一方、彼の目前には無数の男女の若者たちがひしめき――後方の二階席まで会場は埋まり、立ち見の聴衆も多く見られる――、壇上の三島に熱い視線を注ぎながらもどこか楽しげに見える……。
この写真が撮影された1969年5月13日の東京大学駒場キャンパス900番教室は異様な熱気に包まれた。60年代後半の〈政治の季節〉の雌雄を決する安田講堂攻防戦で同年1月に〈敗北〉したばかりだった東大全共闘(全学共闘会議)の有志が、68年の川端康成の受賞まではノーベル文学賞候補と取り沙汰されるなど世界的名声を獲得していた小説家にして、次第に極端な右翼思想への傾斜を強め、前年秋に私的民兵組織〈楯の会〉を結成したことでも注目を集めた三島由紀夫を招き、討論会が開催されたのだ。〈暴力〉と〈ラディカリズム〉こそ、両者の共通の関心であることは明らかで、三島が警察からの警護の申し出を辞退したとのエピソードも当時の雰囲気を如実に伝える。そんな一触即発の雰囲気のもとでの討論の内容については、直後に出版された「討論 三島由紀夫vs東大全共闘――美と共同体と東大闘争」で確認できるが、それから半世紀の節目に当たる今、討論の模様を記録した映像をもとにしたドキュメンタリー映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」が公開される。