写真提供/COTTON CLUB 撮影/米田泰久

 

曲ごとが持つそれぞれの物語

 夜露を含んでしっとりと濡れたサウンドにポッカリ浮かぶ丸っこい歌声のなんと愛くるしいこと。美しい響きと味わい深さを大切にした心温まる曲で占められているフォンテーヌブロー生まれのジャズ・シンガー、シリル・エイメーの最新作『Let’s Get Lost』。ジプシー・ギター、エレクトリック・ジャズ・ギター、ブラジリアン・ギターが三つ巴で絡み合うなか、色ツヤの良い健康的な歌声が躍動する初ソロ作『It’s A Good Day』とはいささか異なる肌触り、そして気配がある。

CYRILLE AIMEE Let's Get Lost Mack Avenue(2016)

 「前作と同じバンドで録音しているし、異なる印象を抱かせたとしたらメンバー各自の成長が自然と表れたせいなのかも。前作のときはバラバラなルーツを持つ彼らをひとつにまとめながら音を作り上げるためには頭のなかで細かく構成を予め作り上げておく必要があった。でも2年もツアーをやって性格もよりわかるようになったし、アレンジよりもエモーションやメッセージの部分にもっと集中して録音できたと思う」

 少女の頃に住んでいたサモア(ジャンゴ・ラインハルトが晩年を過ごした小さな町)を振り返った《Samois A Moi》における彼女たちの囁き合うような会話運びとか関係性がより深まったことを示す好例だ。随所に散りばめられているアメリカン・ルーツのエッセンスも、メンバーとのやりとりのなかで自然発生的に出たものだと彼女は言う。ドミニカのコンポーザー、フアン・ルイス・ゲラのカヴァー《Estrellitas Y Duendes》が入っているが、彼女にとって子守唄のような曲だという。ドミニカ生まれの母が彼の曲をよくかけていたそうで、小さかった頃に姉と踊りながら聴いていたそう。話を聞いていて気づいたのだが、オリジナル、カヴァーを含めてここには自身の思い出と直結している曲が多く含まれているのではないか。

 「内省的な部分が強く出たかもしれない。私の性格のなかでこれまであまり表に出してきていない面が出てしまった気がする。いま言われてそう思ったわ(笑)。前作は太陽が燦々と射しているような作品だったけど、今回はお月さまの光に照らされている感じがあるわね」

 ところで前回の取材のとき、バンジョーやシタールなど色んな弦楽器と絡むアルバムのプランがあると話してくれたけど、それってまだイキているのだろうか?

 「そんなこと言ったっけ?(笑)。あのときは3本のギターをうまく使いこなせたから、もっと!って欲張りになってたのかも。今回は真逆の方向にいっちゃったわね。でも旅を続けていると荷物が多いのは何かと大変で、今回もギターを1本減らしてしまったぐらいで」

 そう言って微笑んだシリル。でもやっぱすごくいいアイディアだし、実現する日を心待ちにしてますので。