カーディガンズからコール・ポーターまでを輝かせる、カナダの若きジャズの歌姫

 短髪が印象的なバーブラ・リカは、トロント生まれのカナダ人シンガーだ。順調にキャリアを伸ばしてきている彼女の話は、そうなんですかという内容が次々に……。あらら、おもしろい。彼女は熱烈な日本のアニメのファンで、取材中に上手な日本語でアニメ主題歌を歌ってくれたりもした。

 「母はルーマニア出身のポップ歌手で、父はウクライナ出身のピアニスト。2人はカナダで出会って、私が生まれたの。フランス語とルーマニア語も喋れるわ」

 子供の頃から音楽漬けで、トロント大学ではジャズを専攻。歌う事に自信はあったものの、音楽の道に進む踏ん切りがつかず、人類生物学も専攻したという。

 「進路に葛藤があった。実際、医者になるための奨学金も得ていたけど、卒業時に音楽の道に進む覚悟ができたの。その決定を一番喜んだのは、父だった」

 そんな彼女は大げさに言えば、歌手として二つの顔を持つ。特にライヴで顕われるのが、本格的なジャズ・シンガーとしての像。彼女はこの9月の〈東京ジャズ〉にも出演したが、堂々とその姿をアピール。そして、もう一つはCDを聞くと分るが、洒脱なジャジー・ポップの歌手という行き方だ。その差異に触れると、彼女は意識的に二つの顔を使いわけているように思えるが。

 「意図的に、CDとライヴを分けているつもりはなかった。ただ、今のバンドとは6月からジャズ祭に出ているので、よりジャズぽくなったかもしれないわね」

BARBRA LICA Love Songs DO RIGHT!JAPAN(2015)

 彼女はユニバーサルから日本盤もリリースされた、『ザッツ・ホワット・アイ・ドゥ』で2012年にデビュー。そして、今年は『Kissing You』と『ラブ・ソングス』という別内容の2作品を発表した。

 「私が書いた曲をまとめたいと思って録ったのが、『Kissing You』ね。あなたはポップ・シンガーなの、それともジャズ・シンガーなのという声が、カナダでも出たのは確かね。一方、日本に向けて作ったのが、『ラブ・ソングス』。前に日本に来たときに、ジャズ・クラブなのにお客さんが踊っていたという印象があるので、聞いていて身体が揺れるような、軽快な内容にしたつもりよ」

 コール・ポーターデューク・エリントンのスタンダード、彼女の自作曲、カーディガンズロン・セクスミスのポップ曲など属性違いの曲が、『ラブ・ソングス』には混在。それらはキュートなのに質量感を持つ彼女の歌のもと、洗練という名の世界に収束している。

 「それこそは、目指すところ。ジャズを大多数に分りやすく届けたいというのが、私の本意なの」