鍵盤とパーカッション、そして歌。シンプルなアコースティック・サウンドで驚くほど情感豊かな風景を立ち上げる男女デュオ!

 しなやかさと力強さを併せ持った存在感ある歌声を聴かせるソングライターのムム(ヴォーカル/ピアノ)と、彼女が季節の移ろいや、日常の風景や思いを切り取りながらスケッチした世界観をより豊かな景色へと昇華させるてん(パーカッション/コーラス)によるアコースティック・ユニット、ツヅリ・ヅクリ。シンガー・ソングライターとして、サポート・プレイヤーとしてそれぞれ活動していた2人が出会ったのは、6年前。お互いが持つポテンシャルの化学反応を楽しみ、驚き、愛でながら綴られていったその作品をYouTubeやニコ動などで拡散する一方、これまでに2枚のフル・アルバムを編んできた。

 「技術的なことよりも、まずは世界観をきっちりと描けるか……そのうえで、聴く人が入り込める空間をしっかりと作りたい――激しい曲でも可愛らしい曲でも、そこは共通した意識を持って作ってますね。自分が衝撃を受けたアーティストも、鬼束ちひろさんや笹川美和さんなど、タイプは違ってもどういう世界観を描きたいかがしっかりされている方で」(ムム)。

 「彼女の音楽をいかに広げられるか、深くするかっていうことしか考えていないので、生かすも殺すも僕次第なのかなって思ってますし、この世界は自分たちじゃないと表現できないだろうっていう自負はありますね。パーカッションって音階があるわけじゃないので、どうしても出せる音に限りがあるんですけど、組み合わせによっては限りがないというか、〈こうだからこれしかできない〉じゃなくて、〈こうだけどこんなにできる〉っていうものを表現したいということも常に思っていて」(てん)。

ツヅリ・ヅクリ ネヲハリズム ベルウッド(2016)

 そしてこのたび新しいアルバム『ネヲハリズム』が届けられた。ピアノ、パーカッションといった基本構成に時折ストリングスを交えながら編まれるシンプルでありながら豊かな表情を持つ楽曲は、より強度と生命力を増し、〈圧倒させる〉というよりも〈じんわりと染み込みながら気付けば深いところまで……〉といったような感覚で、聴き手の心に訴えかけてくる。

 「“イカロス”という曲が最初に出来てきて、そのあとに“ハイゼンベルク”が出来て……あっ、新しい世界のドアが開かれたなって思いました。〈化学元素で出来た 僕らだっていうのに何故 こんなに割り切れないことばかり〉っていう歌詞を聴いて、すごいことを言うなって。この曲では〈ムム独特の間を活かす〉っていうテーマで、レコーディングするときにメトロノームも使わなかったんです」(てん)。

 「前作、前々作よりも良い結果になるだろうなと思って、自分主体で曲を作りました。『ネヲハリズム』というアルバム・タイトルそのものに私のコンセプトが表れていて、まずは〈自分の根を張る〉、そういう気持ちで。その世界をさらに広げてくれたてんちゃんは本当に尊敬します。こんなに良い作品が出来たので、これからも気が抜けないなって思いますし、これをどう伝えていくか……作ったところで終わりにしたくない作品ですね」(ムム)。

 〈自分〉という意志をその音楽から強く発しながらも、人を引き寄せる親しみやすさを持ったツヅリ・ヅクリの作品。その要因として納得できる発言を最後に記しておきたい。

 「決まったことを決まったようにやりたくない性格なので、常に感覚的でありたいと思ってるんです。好きなだけ起きていてもいいし、好きなだけ寝てもいいし……みたいな。そうやって常に〈生きてる〉っていう感覚に実感を持っていることが歌詞にも繋がっていくのかなあって。決まったように生きてると決まった感想しか出てこなくなるし、例えば〈おはようございます〉の挨拶が心から言えてなかったりとか、言葉が日常化していくと、その意味が薄くなってきちゃうというか。曲は常に自分が思ったこと、実感を伴って作りたいと思っているので、そこは大事にしています」(ムム)。

 


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ここではツヅリ・ヅクリの作品を一部紹介。初のリリース作品は2010年のミニ・アルバム『さかさまち』。ピアノと歌、そしてカホン+ジャンベのみで色鮮やかな音世界を綴る手腕はこの時点ですでに花開いており、そこから5枚のミニ・アルバムを立て続けて発表します。そして、2012年末にはファースト・フル・アルバム『描け出す世界』(Tz-sound)をリリース。ライヴ活動の場も日本全国へと広げつつ、翌2013年にはミニ・アルバム『かざまち郵便局』(同)とカヴァー集『カバー・ヅクリ』(同)を上梓します。本名陽子“カントリー・ロード”のカヴァーが動画サイトで話題を集めるなか、2014年にはミニ・アルバム『鍵がえし』(ベルウッド)を、翌年には2枚目のフル作『キミ待ち坂』(同)を送り出し、旺盛な創作意欲は現在も続いています。 *bounce編集部