〈ネット・シーン最強の歌い手〉から〈リアルな感情を描くロック・シンガー・ソングライター〉へ――これはモード・チェンジを超えた、新たなアーティストの誕生と言ってもいいだろう。2009年から動画共有サイトで歌い手として活動してきたぐるたみんが、初の全曲オリジナルによるフル・アルバム『GRACE』を完成させた。ボカロ楽曲のカヴァーで示した高い歌唱力によって絶大な支持を得てきた彼は、みずから作詞作曲を手掛けた楽曲だけで構成された本作において、ソングライターとしての資質を前面に出している。
「これまでのぐるたみんは主にカヴァーの世界にいましたが、僕個人はその前からオリジナル曲を作っていて、作曲家の事務所に入っていたこともあるんですよ。そのときは鳴かず飛ばずで、ネットのシーンに興味を持ったわけですが、自作曲を自分で歌うアルバムを出すことはずっと夢だったんです。……こうやって僕自身のことを話すことも、以前はできなかったんですよね」。
抑制の効いたAメロからドラマティックなサビへと一気に駆け上がるロック・チューン“GRACE PLACE”、バウンシーに飛び跳ねるメロディーと日本語の響きの良さを活かしたフロウがひとつになった“あのねのね”。幼少の頃から父親の影響でジャズを聴き、思春期には「J-Popのチャートの1位から20位くらいまでのシングルをすべてレンタルして聴いていた」という彼の音楽的な志向は個々の楽曲に強く反映されている。なかでも、特徴的なハイトーン・ヴォイスを活かすメロディーラインは大きな魅力だろう。
「たとえばメロディーの語尾をグッと上げたり、自分が歌いやすいようにしているところはありますね(笑)。僕は〈上手く歌いたい〉と思ったことはなくて、〈いい音を出したい〉ということを意識して歌っているんですけど、そういう意味でも自分の声質を活かした作品が作れたと思います。どの曲も歌うのはすごく難しいけど、ライヴで歌うことを心配して出し惜しみしてもしょうがない。まずは作品を良くすることだけを考えているので」。
さらに特筆すべきは、彼自身の心情を映し出す歌詞。「〈なぜオリジナルの楽曲をやるのか?〉ということを書いた曲。もともとはアルバムの中心として考えていたんです」という決意表明のアッパー・チューン“GIANT KILLING”、〈自分が死んだとき、大切な人たちに何を残せるか?〉という普遍的なテーマを掲げたロック・バラード“天使のお手紙”、そして、4月の熊本地震を受けて書かれたメッセージソング“Yell for”。みずからの思いをストレートに綴ったこれらの楽曲は、彼がオリジナル曲を発信しはじめた理由に深く関わっているという。
「カヴァーを歌っているときは自分の思いを伝える術がなくて、それがすごくもどかしかったんです。オリジナル曲を歌うことで、ようやくそれができる立場に立てたのかなと。特に“Yell for”は大きかったですね。こういう曲をこのタイミングで発信することに関しては、スタッフの間でも賛否両論だったんです。でも、動画でアップして、ライヴで歌ったときに〈勇気をもらいました〉という声をたくさんいただいて、最終的にアルバムのリード曲になりました。自分の言葉をしっかり出した曲が受け入れてもらえたことは、これからの作品にも繋がっていくと思います」。
〈シンガー・ソングライター〉としてもキャリアを踏み出したぐるたみん。『GRACE』から始まる新しいストーリーは、これまで以上に幅広いリスナーに共有される可能性を十分に秘めている。
「〈変わった経歴〉って言われるし、イロモノみたいに捉えられてるところもあるかもしれないけど、自分は昔からしっかり音楽をやってきて、共感してもらえる部分もたくさんあると思っています。たくさんの人に聴いてほしいと思っているので、模索しながらがんばっていきます」。
ぐるたみん
2009年6月に歌い手としての活動を開始したシンガー・ソングライター。動画共有サイトに投稿した自身の歌唱動画が話題を呼び、2011年12月に初CD作品となるカヴァー・アルバム『ぐ ~そんなふいんきで歌ってみた~』をリリースする。コンスタントにカヴァー作品を重ねるなか、2014年にはオリジナル曲によるシングル“センセーション・シグナル”も発表。2015年にベスト盤『み -GLUTAMINE BEST-』とシングル“JOURNEY”をリリース。今年に入って、4月に移籍後初のシングル“GIANT KILLING”を発表する。6~7月の全国ツアー〈LIVE-G TOUR 2016 -GIANT KILLING-〉を経て、このたび初のオリジナル・アルバム『GRACE』(UNIVERSAL-W)をリリースしたばかり。