“二十一世紀ノスタルジア” 心を伝える篠笛奏者メジャーデビュー・アルバム
物心ついた頃から唐津くんちが好きで好きでたまらなかった。篠笛に憧れて、中学生でお囃子に参加。洋楽器の洗礼も受けた。小学生の時はピアノ、中学時代はドラム、高校生でギター。東京の大学時代は、シンガーソングライターめざし路上演奏に励む。ターニングポイントは、トルコ一人旅だった。「トルコでは、伝統音楽が現代のリズムと融合して、世代を超えて人々が踊り楽しんでいました」。現地の結婚式に出席した時、日本の歌をリクエストされ、《時の流れに身を任せ》(テレサ・テン)を歌った。「日本の音楽っていいねぇ~」とよろこばれた。帰国後、自問した。「よろこばれる音楽とは?日本のうたとは?」。自分の部屋を見渡したら、篠笛がある。久しぶりに吹いてみた。ゾクッとした。ギターを弾く時とは違う高揚感。自分らしく“うたえる”と感じた。牛若丸が笛を吹く絵が浮かんだ。洋楽器は手放し、篠笛の道へ進んだ。
佐藤和哉が篠笛を構える姿はおごそかな儀式のようでもある。「〈理〉を重んじた構えは、一音目を確実に出すために。ぱっと構えると穴がずれていたりする。笛に語りかけ、ひとつひとつ確認しながら構えます」。〈理〉と〈美〉が共存する〈所作〉と〈作法〉。姿勢のよさは高校の弓道部仕込み。笛を構えながら、どんなメッセージを伝えるか考えるという。
メジャーデビュー・アルバム『フエウタイ』はメッセージにあふれている。《あけかぜ》は挑戦するひとへの応援歌。《カナデウタ》は、両親に感謝の気持ちをこめて結婚披露宴で初演。《故郷の空よ》は佐賀県・嬉野市のイメージソング。《オベールの祈り》は、モンサンミッシェルで降りて来たメロディ。《望郷》は、南米のジャマイカ在住の弟のために。現地の美しい海を見ながら兄弟で語り合った。「帰りたいと思わんと?」「思うばい。だけどここで家族を守ると決めたばい…」。故郷を離れて異国で生きる人々を思い、唱歌《椰子の実》を枕歌にした。《想》は今年誕生した息子への子守歌。「僕の曲は自然に生まれてくるものばかり。音楽で笑顔になってほしい。悲しみも辛さも恐怖も浄化して、幸せに気づいてほしい…」
どこか懐かしくおおらかな笛の音色は時空を越えて響く。「唐津くんちの篠笛の構造は独特です。一般的な日本の笛と異なり、篠笛の穴の一部に竹の皮(竹紙)が貼られ、それがびぃ~と振動して艶のある音が出るのです。中国の笛にも通じる特徴で、大陸の影響を感じます」。いつも吹く笛は、「六本調子」「十本調子」。出番が少ない笛にはいたわりの声をかける。ことだまを音にのせる“フエウタイ”はきっと多くの人々によろこびをもたらすことだろう。
LIVE INFO
「フエウタイ」レコ発記念ツアー
○11/19(土)会場:大阪 江坂 ESAKA HALL
○11/26(土)会場:福岡 天神 スカラエスパシオ
○12/4(日)会場:東京 新宿 LUMINE 0(ルミネゼロ)
www.kazuyasato.com/