篠笛とピアノが語り合い、心をほぐすカヴァーアルバム

 「妹尾さんとのレコーディングはライヴ感覚でした。まさに妹尾節!」KOBUDO-古武道-のピアニスト妹尾武との衝撃的な共演コンサートから一年を経て、実現したカヴァーアルバム『唄の音(うたのね)』。レコーディングの時、佐藤和哉は完全に笛で唄を歌える状態にして臨んだという。

佐藤和哉 唄の音 コロムビア(2017)

 一曲目の“浜辺の歌”の前奏から妹尾節。包容力のあるおだやかな海の波のようなピアノの調べに、佐藤和哉の篠笛が唄う。「穏やかで、ずっと眺めていたくなる、そんな海が思い浮かぶ唄です」。おおらかな青い海に寄せては返すピアノと笛の音の波が心地良い。

 森山直太朗のカヴァー曲“夏の終わり”は、実は反戦歌としての思いを込められていることを知って選んだ。「愛しいひと、大切なひとがいってしまったかなしみ。直太朗さんは、この曲ができたときに、作家として確信したものがあったそうです」。共感の選曲。今回のアルバムには“さよならの夏~コクリコ坂から~”も並ぶ。ジブリ映画のために手嶌葵が歌い知られた曲のオリジナルは、1976年に森山良子が歌っている。森山親子にゆかりの2曲。世代を越えて名曲は愛され続けることを感じる。

 “秋桜”のイントロもドラマチックで印象的だ。妹尾武の推薦で田ノ岡三郎がアコーディオンを演奏。「僕も歳を重ねたことで、さださんの歌が心底沁みるようになった」。深く尊い想いが溢れるさだまさしの歌には、佐藤も学ぶところが多く、尊敬しているようだ。

 はじめてのカヴァーアルバムということで、自作曲は控えめにしたそうだが、ドラマチックな“舞姫”は、物語性の高さを感じさせる曲調が美しい。佐賀の松浦佐用姫の悲話をもとに篠笛で作曲。映画のシーンが浮かぶような情景描写が妹尾節と篠笛の唄で語られる。

 “誓いの空”は、ゆずの北川悠仁との共作二作目だ。まるで“雨のち晴レルヤ”の物語の続編のように、幸せな和のウェディングソングをイメージした。

 ドヴォルザークの『新世界より』からの曲は、“遠き山に日は落ちて”という堀内敬三の日本語訳詞にひかれた。もうひとつのタイトル“家路”は訳詞が異なるので、あくまでも堀内訳にこだわった。「今日もわざをなし終えて、心ひろくやすらえば……」。詩のことだまを伝えながら 篠笛は唄う。

 前回のアルバムでは、がんばるひとにエールを贈った。今回はさらに〈おつかれさま〉の気持ちを込めたという。「くたくたになって働いたあとに、お茶やチャイでも飲みながら聴いてほしいですね」。寄り添いあう笛とピアノの音色が懐かしく響きあう『唄の音』は、心のリカバリーに効きそうなアルバムだ。

 


LIVE INFORMATION

New Album「唄の音」発売記念コンサート
○2018年2/10(土) 福岡 アクロス福岡  円形ホール
○2018年2/11(日) 東京 自由学園 明日館
○2018年2/17(土) 大阪 大阪倶楽部
出演:佐藤和哉(篠笛) 妹尾武(p)
www.kazuyasato.com