Norbert Pfammatter, Patrice moret, Elina Duni, Colin Vallon(C) Nicolas Masson/ECM

 

失われそうになったアルバニアとコソボの伝統的な民謡をジャズとして演奏する

 アルバニア人のシンガー、エリーナ・ドゥニを中心としたバルカン半島のアルバニアと旧ユーゴスラビアのコソボの伝統的な民謡をテーマとして演奏するジャズ・カルテット、エリーナ・ドゥニ・カルテットが来日した。

 ECMから発売されているCDにはとても詩的な歌詞が含まれている。そこでまず、“民謡”とは何か、と聞いてみた。“民謡”という言い方は19世紀のロマン派の人達が作った言い方であって、本当は伝統的に伝わった作者不明の作品の事だと語っている学者もいる。

 「アルバニアの場合は、そうした国とは少し違います。アルバ二アの文字が出来てから100年しか経っておらず、アルバニア人は長い間、オスマン帝国、近年ではコソボがユーゴに支配されて来たという歴史があって、詩や歌を伝承的に伝える事こそが、私達の文化を伝える手段だったのです。アルバニア語が禁じられていた時代も長くありました。家族の間で歌い、頭で記憶しながら、次の世代に伝えたのです」

 1970年代にイギリスの前衛現代音楽の作曲家、コーネリアス・カーデューはアルバニアの共産主義思想に影響を受けて、アルバニアのリーダーを讃える作品をいくつも発表し、彼の仲間達もそうした作品を演奏していた。共産党によって多くの民謡は新たな“民衆の歌”として書き直されたのではないでしょうか?

 「書き直された曲は多く、本物の民謡の魂が失われかけました。アルバニアに行って演奏すると、とても喜んでくれるのは、私たちの演奏によって本物の民謡を再び発見する人も多くいるからだと思います。私の母さえもがそうなのです。共産党の時代は文化全体に大きなダメージを与えました。また、当時のアルバ二アではビートルズやジャズを聴いただけで刑務所に入れられたのですよ」

 どうやって今のレパートリーを覚えたのですか?

 「お爺さんやお婆さんの覚えていた歌、コレクターによって録音された音源、様々な古い録音からです」

 エリーナ・ドゥニにはアルバニアの音楽家達と演奏するソロ・プロジェクトもあって、そのテーマは『傷ついたからこそ、より美しくなれる』だという。

 アルバニアの音楽には複雑な細かいリズムが多い。4/4に近く聴こえても、もっと細かい。しかし、音楽の全体の雰囲気はまるで、1960年代のニューヨークのジャズ・シーンを思い起こすような感じだった。

 「ダンスの長いステップと短いステップのコンビネーションでリズムを作るのは、アフリカのシンコペーションと違って、元々はヨーロッパ中にあったと僕は思うのです。ローマの文化がそうだったように」と、ドラマーのファンマッターは答えてくれた。