某有名オーディションで出会った佐々木陽吾吉田理幹によって結成されたThe Super Ball。このたびリリースされた初アルバム『スパボ! スパボ! スパボ!』には、〈24時間が制作モード〉という同居生活のなかで作り貯めてきた100曲を超えるデモ音源から、厳選した13曲を収録。喜びや切なさなどさまざまな感情を持った曲が並びながらも、全体としては温かな印象が残るポップ・アルバムとなっている。

The Super Ball スパボ! スパボ! スパボ! 徳間ジャパン(2017)

 「結成時に特に話し合ったりはしなかったんですけど、優しいメロディーであったり、聴いている人の背中を押せるような歌詞が、自分たちの声には合うんだろうなと思って。そこを中心に、曲を作りはじめていきました」(吉田)。

 The Super Ballとしての方向性の意思疎通は最初から取れていたようだが、「聴いてきた音楽は結構違う」という2人。佐々木は学生時代にオアシスフランツ・フェルディナンドといったUKロックを聴きつつ、ブルーハーツのコピー・バンドを経験。吉田は両親の影響で、スティーヴィー・ワンダーマイケル・ジャクソンイーグルスなどを幼い頃から口ずさみ、高校時代はK-Popやヒップホップも聴いていたとのこと。そこに加え、佐々木は平井堅、吉田は槇原敬之スキマスイッチといったJ-Popの影響も強く受けているそうだ。

 「日本中の誰もが知っている〈本当のヒット曲〉を作りたいんです。音楽的な部分だけじゃなくて、いろんな観点から2人で最近の曲を分析して、日々研究を重ねています。僕らもいつか〈名曲〉と呼ばれるものを生み出したいですね」(吉田)。

 これまでの集大成をめざしたという本作には、路上ライヴ時代からの代表曲を元に、佐々木が〈卒業〉を題材に歌詞を綴ったバラード“明日、君の涙が止む頃には”や、「スティーヴィー・ワンダーの“Superstition”を意識した」こともあり、クラヴィネット風のシンセが印象に残る“tell me why”などがラインナップ。また、“RUN”では〈泣く笑う泣く泣く泣く〉というメッセージを印象付けるためにイントロとアウトロを極端に短縮するなど、歌詞へのこだわりも強い。なかでも、密かに想いを寄せている〈君〉から、自分とは違う好きな人がいることを打ち明けられるR&B調のポップソング“秘密”は、曲中の〈ダメ押しの追加点〉というフレーズが耳に残るのだが、佐々木はこの言葉にちょっとした仕掛けを施した。

 「理幹は昔、野球でプロをめざしていたんですよ(桐光学園高校野球部に所属)。僕も野球をやってたからわかるんですけど、〈ダメ押しの追加点〉って本当にツライんです(笑)。ヴォーカルも、ここは〈追加点〉の〈ん〉で伸ばさなきゃいけないから結構難しいんですけど、理幹なら絶対に良い感じで歌ってくれると思ったので、あえてこの歌詞にしてますね」(佐々木)。

 ときには遊び心を織り交ぜた言葉たちを、佐々木は甘くソフトに、吉田は透明感のある声で美しく歌い上げる。そんな2人のハーモニーこそがThe Super Ballの最大の武器と言えるだろうが、彼らのハモリは、いわゆるシンガー・ソングライター・デュオのそれとは違い、ヴォーカル・グループ的なニュアンスの強いところが特徴的で、2人で初めてスタジオに入ったときには「今までにない心地良さ」を感じ、「もっと世に広めないとダメだ」という使命感すら覚えたとのこと。そんな歌声への絶対的な自信は、2人のユニゾン~ハーモニーで幕を開ける“ミライキャッチャー”を本作の1曲目に据えているところからも伝わってくる。

 「声の成分とか出せるキーの違いが絶妙なバランスなのもあって、僕らの最大の武器は声だと思っているし、お互いに歌うことが本当に好きで。ただ、ライヴを重ねていくうちに、最近は楽器を弾くことも楽しくなってきたんですよね。自分はギターだけじゃなく、ベースやピアノもやっていきたいし、理幹も最近ドラムを習ったりしていて。今後はライヴも歌を聴いてもらうだけでなく、よりエンターテイメント性のあるものにして、お客さんと一緒に楽しんでいけるようになりたいです」(佐々木)。

 


The Super Ball
佐々木陽吾(ギター/ヴォーカル)、吉田理幹(ピアノ/ヴォーカル)から成るツイン・ヴォーカル・ユニット。2011年に某レコード会社のオーディションで出会い、2013年に結成。都内のライヴハウスや路上でのパフォーマンスを2015年より本格化させ、カヴァー曲を歌った動画の配信で知名度を高める。2016年7月にシングル“トモダチメートル”でメジャー・デビュー。8月には赤坂BLITZでのワンマン・ライヴを成功させると、10月にはハシグチカナデリヤとのコラボ名義で『Rin! Rin! Hi! Hi!』を発表。2017年1月に送り出した2枚目のシングル“キミノコエガ…。”に続き、このたびファースト・アルバム『スパボ! スパボ! スパボ!』(徳間ジャパン)をリリースしたばかり。