プログレにしてプログレに非ず
スウェーデンの6人組ムーン・サファリが6月にやってくる。前回の来日公演(2014年10月)は、少なくとも今世紀以降の自分のライヴ体験歴ではベスト10に入るほど素晴らしいものだった。コンサート後も数日間、自宅でずっとアルバムを聴きながら余韻に浸った、そんなライヴは他にはあまり記憶にない。今回は〈MARQUEE presents SYMPHONIC NIGHT VOL.1〉なるイヴェント名の下、イタリアの若手プログレ・バンド、バロック・プロジェクトとのカップリング・コンサートに参加する。つまり、プログレ系イヴェントであり、主宰者の宣伝文言にもムーン・サファリは「シンフォニック楽団」と書かれている。実際彼らのサウンドを無理やりジャンル分けすればプログレということになろうし、本人たちもしばしばプログレ・バンドを自称してきた。が、単純にプログレの枠に収まりきらないことにこそ、彼らの魅力の本質もあるのだ。
私は70年代からずっと大のプログレ・ファンだったが、だからこそ、80年代以降のプログレ・フォロワー・バンド(いわゆるポンプ・ロック)が大嫌いだったし、様式美だけにこだわる引きこもりプログレ・ファン(日本には特に多い)を憐れんできた。なぜならそれは、“プログレ”の本質から最も遠いものだから。感じ取れるのは、残骸の無残さとコンプレックスだけである。
ムーン・サファリはプログレを自称しつつも、その表現には妙なコンプレックスが一切ない。とことん美しいメロディ、巧みなアレンジと構成力、圧倒的コーラス・ワーク。それらが一体となって築き上げられる、朗らかで開放的なポップ・プロダクト。全員がハモるコーラス・ワークは、50年代米国のハイ・ロウズやフォー・フレッシュメンといったコーラス・グループのスタイルと技巧を彷彿させる一方で、時にクィーンのようなアクロバティックな場面も差し挟まれる。そしてサウンド構築のスキのなさとドラマティックな展開力、スピード感、抒情性、清涼感。ビートルズ、ビーチ・ボーイズ、イエス、ラッシュ、イ・プー、10cc、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング、ジェリーフィッシュ…といった偉大なるバンドの遺産を受け継ぎつつ、あくまでも自分たちにしか作れない新しいポップ・ミュージックにこだわっている。この“潔さ”こそが、彼らの最大の魅力だと思う。
今回が3度目となる来日公演。来るたびに、その素晴らしさが口コミで伝わり、着実にファンを増やしてきたムーン・サファリだが、小さなハコで観られるのも、今回が最後になりそうな気もする。
LIVE INFORMATION
MARQUEE presents SYMPHONIC NIGHT VOL.1
A GREAT FEAST OF MANIERA
6/22(木)19:00開演
会場:TOKYO TSUTAYA O-EAST
出演:MOON SAFARI/BAROCK PROJECT
WORLD OF CONSTANT BLOOM
6/23(金)19:00開演
会場:TOKYO TSUTAYA O-WEST
出演:MOON SAFARI