2015年のデビュー以降、力強く包容力のあるハイトーン・ヴォイスでリスナーを魅了してきたシンガー・ソングライターの夏代孝明。元来は生粋のバンド・キッズだったという彼がライヴハウスで初めて演奏したのは「中3と高1の間」で、ギター/ヴォーカルを担当。BUMP OF CHICKENやASIAN KUNG-FU GENERATION、そして「父親が車の中で流していた」というMr.Childrenなど、日本のロック・バンドに影響を受けて育ってきた。オリジナル曲も高校時代から制作。仲間と切磋琢磨していた夏代は、先人たちから「たくさんのものをもらえた」と話す。

 「中・高校生の頃って、大人に何かを言われたとしても、その言葉の意味を100%理解することは難しいと思うんです。同じように、中・高校生が思っていることを大人に伝えたとしても、それが100%理解されることは難しい。でも、それが音楽を通すとすごく素直に伝わってくる。そういう言葉に励まされてきた経験が僕自身あるから、僕もそういう音楽をやっていきたいんです。自分の好きなアーティストたちが僕にくれたものを、僕なりの伝え方で次に渡していきたいんですよね」。

夏代孝明 トランジット TOHO animation(2017)

 今回のニュー・シングル“トランジット”は、TVアニメ「弱虫ペダル NEW GENERATION」の〈第2クール〉のオープニング・テーマ。前作“ケイデンス”から主題歌を続投する形となったが、渡辺拓也が作/編曲を手掛けたその表題曲は、〈弱ペダ〉の世界観にマッチした爽快感やパワフルさはあるものの、どこかシリアスさも感じさせる。

 「歌詞も前作と違って、苦しみや葛藤を乗り越えていくイメージが強く出ているんですよね。ただ、ヴォーカルのキーが高めだから、力強く歌うこともできれば、物悲しく歌うこともできるなと。そういった温度感をどうするかはいつもかなり気を付けているので、制作チームともそのあたりを話し合いながら進めていきました」。

 カップリングには、夏代が作詞/作曲をした2曲を収録。物語調の歌詞に初挑戦した“ニア”は、人間と人工知能の対話で構成された心温まるアップで、もう1曲の“世界の真ん中を歩く”は、「自分の人生は自分が主役だからこそ、譲りがちになるのではなく、自分の世界の真ん中を堂々と歩いてほしい」という思いを詰め込んだドラマティックなアンセム・チューンだ。どちらも自然と心が弾むポップ・ナンバーで、本人としても〈日本人に響く大衆音楽であること〉を大切にしているとのこと。そして、〈みずからの曲で誰かを励ましたい〉という信念が根底にある。

 「(歌詞が)直球すぎて偽善的かなと思うときもあるんですが、理想を語れなくなってしまった先には絶望しか残されてないと思うんですよ。生きていると暗闇の中を歩いているような感覚を味わうこともあるけれど、そのときに背中を押せるようなメッセージがあれば、足元ぐらいは照らすことができるんじゃないのかなって。でも、あまり説教臭くしたくはないんです。僕は聴いている人に何かを強制したいわけではなく、その人が進みたいように進んでほしいと思うし、〈照らす〉と言っても明るすぎたら目が眩んでしまうと思うので」。

 〈誰かを励ましたい〉という思いで歌詞を書きながらも、「後から見返すと、本当は自分がそうやって励まされたかったんだなってわかることが多くてゾッとする」と苦笑する夏代。だがその無意識な表現は、自身の奥底にあるものを嘘のない言葉で綴った証左とも言える。そう捉えると〈世界の真ん中を歩く〉というフレーズは、彼自身が世界=音楽シーンの真ん中を歩こうとしている気持ちの発露とも言えそうだ。

 「ミュージシャンとして活動すると決めたときからそうありたいと思っていますけど、そこは徐々にですね。一歩ずつ進んでいきたいし、たとえば10年後にこの歌詞を見返したときにどう思うのかなって。そのときは笑っていたいですね」。

 


夏代孝明

大阪出身のシンガー・ソングライター。2015年にファースト・アルバム『フィルライト』を発表。翌2016年には、TVアニメ「フューチャーカード バディファイト トリプルディー」のオープニング・テーマとなった初のシングル“クロノグラフ”をリリースする。そして2017年は2月にEveとのジョイント・ライヴをZepp Tokyoで開催し、3月にはモデルとして〈神戸コレクション 2017 SPRING/SUMMER〉にも初出演する。5月にはTVアニメ「弱虫ペダル NEW GENERATION」のオープニング曲を収めたシングル“ケイデンス”を発表。このたび、同アニメの〈第2クール〉のオープニングを飾るニュー・シングル“トランジット”(TOHO animation)をリリースしたばかり。