SPEAKING OF DIVERSITY
[ 特集 ]日本語ラップの多様性

悠長に振り返ってるヒマもないくらい、進行形の注目作がリリース・ラッシュ。こんな多様に拡張しているからこそ、日本語ラップの最高はひとつじゃないのだ!

★Pt.1 MONYPETZJNKMN『磊』
★Pt.3 春ねむり『アトム・ハート・マザー』
★Pt.4 野崎りこん『野崎爆発』
★Pt.5 TWINKLE+『JAPANESE YEDO MONKEY』

 


SALU
愛で染められた藍の世界を歌う、真摯に開かれたニュー・アルバム!

 これこそノリにノッているということなのだろう。ホワイトデー限定シングルとして“First Dates”を公開して始まったSALUの2017年は、4月に入って突如アップされた〈エピソード3.5〉を謳う英詞曲“YEDI”のMVと共にアルバム・リリースのインフォメーションが明らかにされ、俄に忙しく回りはじめた。昨年4月に登場した前作『Good Morning』から数えれば約1年ぶりの新作だが、その間の10月にはSKY-HIとのコンビ作品『Say Hello to My Minions』があったことを思えば、とんでもないハイペースだ。それ以外にも盟友AKLOや大地への客演もあったし、一方では尾崎裕哉“サムデイ・スマイル”のラップ・パートを作詞するという新たな試みの成果も記憶に新しいだろう。果たして内容はどんなものになるのか……と思っていたら、届けられた通算4枚目のアルバム『INDIGO』は、極めて多面的だった『Good Morning』のある側面を受け継ぎながら、これまでのキャリア中でもっとも親しみやすい表情をしていた。

 

SALU INDIGO トイズファクトリー(2017)

 資料によると〈センシティヴなラッパーの視点からポップス表現の最高地点を標榜〉した作品とのこと。もちろんいわゆる〈歌〉に寄せることがポップネスを高めることとイコールではないし、そうした従来型のポップネスを高めることが本当にポピュラリティーを増すのかどうかも定かではない。その観点から見ても、SALUはファースト・アルバム『IN MY SHOES』で表舞台に表れた時から幅広いリスナーを惹き付ける力を備えていたわけで、出会い頭の求心力にはズバ抜けたものがあった。そこから考えると、いまのSALUは求心力よりもさらに遠心力を意識しているのだろう。試行錯誤しながら初めてセルフ・プロデュースのプレッシャーに臨み、各界の才能たちとコラボした『Good Morning』の繊細な魅力とメッセージは、よりSALU本人の身に付いた(=IN MY SHOES)表現として思うがままに磨かれて、この『INDIGO』に確かに宿っている。

 あえて雑踏の中で聴きたくなるようなオープニングの“WALK THIS WAY”から、心地良い適温の空気感は明らか。ゆったりした余裕のある語り口をゴスペリッシュな昂揚感のあるピアノとウォーキング・テンポで支えるトラックはJIGGによるもので、この曲の心の体温を上げるようなトーンは先述の“First Dates”などと並んでアルバム全編の温度感を象徴しているようにも思える。続く“LIFE STYLE”にはD.Oと漢 a.k.a. GAMIというコワモテなコンビを招いているが、顔ぶれから連想されるストリート感よりも彼らのメッセージやユーモアの本質を伝える作りになっているのがおもしろい。YENTOWN作品で知られるChaki Zuluのメロウなフューチャー・ベース調トラックも絶妙な浮遊感を醸し出すものだろう。BACHLOGICによる“TOKYO”は散文的なリリックを効果的に響かせるアトモスフェリック大都会ポップだし、SUNNY BOYと組んだ“SPACE”でも、Sho Kamijoのアコースティックな伴奏が寄り添った手紙ソング“Dear My Friend”でも、もっとも印象的なのはSALU自身の素朴な歌い口と、胸の中からそのままこぼれてきたような飾りのない言葉だ。

 このように聴き進めていけば、大切な人との切実な別れを前向きに歌った“Good Bye”も、人工知能と愛をテーマにしたブリーピーな近未来チューン“2045”も、ゆるふわギャングを迎えてマイルドなディスコ・ダブ調に躍動する“夜を失くす”も、いずれの楽曲も恋愛や友愛や慈愛など多様な意味合いの愛(藍=INDIGO)で染められていることが伝わるのではないか。本編ラストに置かれたのは〈気持ちがレイムじゃモノホンプレーヤーに成れねぇ〉(!)と吐きながらチェインスモーカーズ風のシンセ・ポップに乗せて羽化への決意を歌う“Butterfly”。なお、その後にはボーナス・トラックとして、都営地下鉄PR動画のテーマ曲として書き下ろされた“東京ローラーコースター”を収録。SALUの札幌時代の盟友FRAME a.k.a FAKE ID(Refugeecamp)を迎えたこの曲の温かみも快い平熱のエピローグのように響くに違いない。

 藍に染まったジーンズのように、自身の伝えたいことが聴き手の日常に溶け込んでほしいと願って題された『INDIGO』。聴いているあなたの心が少しだけ温かくなったなら、その願いは達成されている。