今春、17回目の〈ライヴ・イン・ジャパン〉で何度目かの黄金期にあることを印象付けたハード・ロックの伝説が新作を完成! 瑞々しさに溢れた『SPLAT!』の源泉とは?
止まらない時間の流れのなかで、普遍的なものの価値や感触が変わることがある。少し前まで古くさく感じられていたはずのものが、ある日突然、新鮮に感じられたりするのだ。そんなときによく使われがちなのが〈一周回って新しい〉という言葉だが、彼らの場合はこれまでそうしたサイクルを何周も回ってきた。もちろんディープ・パープルの話だ。

先頃リリースされたばかりの彼らのニュー・アルバム『SPLAT!』がとにかく素晴らしい。68年に結成された老舗にとって今作は24枚目のオリジナル・アルバムにあたる。現在のバンドはイアン・ギラン(ヴォーカル)、ロジャー・グローヴァー(ベース)、唯一のオリジナル・メンバーであるイアン・ペイス(ドラムス)といったお馴染みの顔ぶれを擁しつつも、キーボードはジョン・ロード(2012年に他界)ではなく2002年に加入したドン・エイリー、ギターはリッチー・ブラックモアでもスティーヴ・モーズでもなくサイモン・マクブライドという体制だ。
2022年に加入したサイモンは現在47歳で、このバンドの歴史においてはかつての解散と再結成の狭間にあたる79年に生まれている。そして、他のメンバーたちにとって息子世代にあたる彼との合流が、バンドにある種の覚醒をもたらしたことは疑う余地もない。その実力については加入翌年の2023年に行なわれた来日公演でも実証されていたが、それを経たのちに制作された前作『=1』(2024年)、この春に行なわれたジャパン・ツアーの目撃者すべてが、もはや彼が伝説的な誰かの代役ではないことを実感したはずだ。
彼にとって加入後第2作にあたる今回の『SPLAT!』では、バンド内のケミストリーがさらに有機的で濃厚なものになっている。まず去る5月に先行公開された“Arrogant Boy”に驚かされた。スピード感と重厚さ、緩急を併せ持ったこの情報量豊富な楽曲から感じられたのが、大物然とした風格よりもむしろ新世代の温故知新型バンドのような瑞々しさだったからだ。各楽器の聴きどころを過不足なく盛り込みながら3分半に満たないコンパクトさにまとめていたことも、そうした印象の一因だった。
そして実際にアルバムが届いた際に改めて驚かされたのは、同楽曲が例外ではなかったからだ。ここには5分を超える楽曲が一切含まれていない。しかもすべてがディープ・パープル然としていながら、まるでメンバー全員がタイムマシーンに乗り込んで、革新的なロック・バンドが次々と登場した60年代末から70年代序盤にかけての時代に舞い戻り、なおかつ現在の経験値と技量、テクノロジーを駆使して作られたかのような感触があるのだ。往年の代表曲にも通ずるような象徴的ギター・リフもあちこちに顔を出し、“Sacred Land”や“Guilt Trippin’”などでの表情の違ったキーボードの音色による楽曲演出のあり方も印象に残る。
そうした奇跡的ともいえることが起こりえたのは、2013年発表の『Now What?』以来6作連続でタッグを組んでいるプロデューサー、ボブ・エズリンとの阿吽の呼吸が過去最高レヴェルにまで研ぎ澄まされているからでもある。往年からのメンバーたちと同世代にあたる彼は、過去にはアリス・クーパー、ピンク・フロイドからピーター・ガブリエルに至るまでの作品を手掛けてきた。キッスの『Destroyer』(76年)を制作した際に、若き日の彼らを鬼コーチのようにしごいた人物でもある。それに対して本作でのエズリンは、ディープ・パープルの特性を熟知したうえで、そこに起きる化学反応を押し上げ、時代感を超越することに成功しているのだ。
かつてハード・ロックを聴いて育ちながらも、近年めっきり新譜には手を出さなくなったという世代もいれば、改めて歴史的名盤たちを聴き漁りながら新鮮な発見をしている人たちも少なくないだろう。『SPLAT!』は、その双方の手に届くべきものだと筆者は感じている。そして、いまは何よりも、今作を軸とする演奏内容でのライヴに触れられる日の到来を待ち焦がれている。
ディープ・パープルの近作。
左から、2005年作の20周年記念盤『Rapture Of The Deep (20th Anniversary Remix)』、2024年作『=1』(共にEar Music/NEXUS)