サザンオールスターズの12作目のアルバム『Young Love』(1996年7月20日リリース)が30周年を迎えた。前作までタッグを組んでいた小林武史のプロデュースを離れ、1960~1970年代のロックに原点回帰したバンドの転機作だ。249万枚を売り上げ、彼らのオリジナルアルバムで最大のセールスを記録したヒット作について、カルチャーライターふじもとに論じてもらった。 *Mikiki編集部

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サザンオールスターズ 『Young Love』 タイシタ(1996)

 

〈らしさ〉と〈らしくなさ〉が混ざった1枚

今年の7月20日は海の日。関東甲信越地方と東海地方ではこの日梅雨明けが発表となり、気象庁の観測によると同日の名古屋市の最高気温は37℃を記録。海の日に相応しい夏の幕開けとなった。

そんな海の日が初めて施行されたのは今から30年前の1996年。この記念すべき日にリリースされたのがサザンオールスターズの12枚目のオリジナルアルバム『Young Love』だ。海とサザンオールスターズ。いかにもピッタリな組み合わせではあるが『Young Love』はそうした大衆がイメージするサザン〈らしさ〉とサザン〈らしくなさ〉が混ぜ合わさった1枚だ。

 

小林武史プロデュース期を経て、自らの手でポップスを再定義

アルバムの評論の前に改めて本作の位置づけを振り返りたい。9thアルバム『Southern All Stars』からサザンオールスターズは小林武史とタッグを組み楽曲・アルバムを制作。桑田佳祐が映画監督を務めた同名映画のサウンドトラックとしてもリリースされた『稲村ジェーン』や『世に万葉の花が咲くなり』といったバラエティに富んだポップな作風のアルバムを小林プロデュースの下で共に制作してきた。その後、桑田佳祐はソロアーティストとして『孤独の太陽』をリリース。それまでの小林武史との共同制作体制から脱し、アコースティックギターを軸とした無骨なサウンドと内省的なテーマで小林のプロデュース作、あるいはサザン/桑田佳祐のそれまでのキャリアとは一線を画す音楽観を提示した。

そんな来歴を経てリリースされた『Young Love』は長年続いていた小林武史によるプロデュースから脱し、セルフプロデュースに回帰して初のアルバム。小林と制作された“真夏の果実”や“涙のキッス”といったJ-POPのド真ん中を射抜くような楽曲の制作体験を経た桑田が、改めて自分自身の手でポップスを鳴らす1枚となった。

たとえば、7曲目の“あなただけを ~Summer Heartbreak~”は、底抜けに明るい跳ねるようなメロディに切ない歌詞が乗る当時のサザンのJ-POP的サウンドの新機軸。その後の“LOVE AFFAIR〜秘密のデート”や“雨上がりにもう一度キスをして”に連なる楽曲といっていいだろう。フィル・スペクターを彷彿とさせるウォール・オブ・サウンド的なサウンドスケープはやはり小林武史との制作の延長線上にある。

原由子がボーカルを務める“恋の歌を唄いましょう”は歌謡曲のエッセンスも盛り込みつつ、キュートな原のボーカルが楽曲の世界観をより立体的にする、原由子が歌う意味のあるポップスだ。波音のSEと共に始まる“太陽は罪な奴”はモータウンビートを基調とした底抜けに明るいポップス。小林プロデュース以前のサザンにこういったストレートなポップスというのは実はあまり少なかったことを思えば、やはりこの曲も小林との活動を通してポップスを再定義した桑田による手腕が大きい。

アルバムを締めくくる“心を込めて花束を”は“逢いたくなったときに君はここにいない”や“慕情”といった小林と制作したバラードを経た名曲である。こうした楽曲はいわゆるパブリックイメージのサザンらしい曲だと位置付けられる。

 

〈らしくない〉ロック的エッセンスが色濃く表出

一方で、『Young Love』はサザンがそれまでチャレンジしてこなかった音楽性にも果敢に挑む1枚にもなっている。それは『孤独の太陽』の制作におけるセルフプロデュースによる発展型であり、サザンらしくない楽曲も数多く収録されているのが本作であり、サザンの表裏を同時に封じ込めたのが『Young Love』というアルバムなのだ。

それを象徴しているのが本作のアートワークだ。メンバーが描かれたアートワークはキャッチーでわかりやすい反面、レッド・ツェッペリンやザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズといった1960年代から1970年代にかけての洋楽ロックのオマージュが散りばめられている。そのオマージュ元が示す通り、それまでのサザンと比べてもロック的なエッセンスが色濃く表出したのが『Young Love』なのだ。

1曲目の“胸いっぱいの愛と情熱をあなたへ”はまさに本作のロック的エッセンスをわかりやすく形にした1曲だ。タイトルはレッド・ツェッペリンの“胸いっぱいの愛を”からの引用であり、軽快なギターリフと跳ねるようなドラム、洋楽のバンドの曲を聴いているような日本語と英語のちゃんぽんが印象的な桑田のボーカルにも洋楽のエッセンスを感じさせる。

タイトルトラックの“Young Love(青春の終わりに)”は、いかにもザ・ビートルズ・ライクなサウンドが印象的。当時40歳を迎えた桑田佳祐が青春を懐古しつつ〈来た道を憂いちゃないが…〉と敢えて明瞭に言い切らないところにミッドライフクライシスの現実を見るような気持ちにもなる。こうしたロック的なサウンド、そして夏らしい爽やかさとは一線を画す現実のアティチュードが散りばめられた楽曲群はパブリックイメージのサザンオールスターズとは全く違う〈らしくない〉存在である。

なによりも本作は、2年後にリリースされた『さくら』、そしてその先のサザンの活動の原型とも言えるような楽曲が多く収録されている。その後のサザンを考える上でも重要な位置づけの作品がこの『Young Love』なのだ。

シングルとしてミリオンセラーを樹立した“愛の言霊 ~Spiritual Message~”はジャンルを超越するサザンの怪作。語感を重視した言葉遊びを盛り込みつつも和のエッセンスがベースである一方で、英語やインドネシア語まで盛り込んだ歌詞がこの曲の多国籍性を確立している。どのジャンルとも言えないサウンドの本楽曲が、ドラマ主題歌とはいえミリオンセラーを確立したことに今改めて驚くばかりだが、このダークなサウンドスケープはその後リリースされるアルバム『さくら』の萌芽だ。

切れ味鋭い歪んだギターリフから始まる“汚れた台所(キッチン)”は、リリースから30年を経た現在においても通用してしまう社会風刺にこの国の成長出来なさを痛感してしまうロックチューン。当時の世相を切り抜く社会風刺的なフレーズの数々は、後年の“私の世紀末カルテ”などに連なる歌詞と言えるだろう。

デジタルロックと歌謡曲を融合した“恋のジャック・ナイフ”の延長線上には、よりデジタルロックを極めた“01MESSENGER〜電子狂の詩〜”がある。“ドラマで始まる恋なのに”は小林武史との制作の潮流にあるドラマチックなバラードだ。“真夏の果実”や“君だけに夢をもう一度”を経たサザンだからこそ作り出せた、キャリアの中でも傑作バラードのひとつと言える。映画のキャッチコピーさながらの〈あの夏の恋が思い出にかわる〉というサビのフレーズは“真夏の果実”における〈四六時中も好きと言って〉の派生であると共に、後年の“TSUNAMI”における〈見つめ合うと素直にお喋り出来ない〉のアーキタイプかのようなフレーズだ。こうした楽曲とその後の作品を比べてみると、その後のサザンの活動の指針となったのが『Young Love』だと言えるのではないだろうか。

『Young Love』は249万枚の売上を記録。サザンオールスターズのオリジナルアルバムとしては現在も最多の売上を記録している。小林武史と作り出したポップスから後年の『さくら』におけるハードロック然としたサウンドへの転換点、そして“TSUNAMI”で再びポップスに回帰していくサザンの根幹となったのがこの『Young Love』であり、過渡期としてバランスが取れたアルバムとして評価されたからこそ、現在までサザンとして最大の売上を誇っているのだ。