(左から)TANAAMI DAISUKECross YouAkirag

 

アフロやレゲエ、ファンクを飲み込みつつ、 熱帯のブラスロッカーズ・サウンドを聴かせてきた6人組、RIDDIMATESの新作『OVER』が完成した。2014年の前作『JOY』以降、メンバーの脱退と加入があったため、新生RIDDIMATESとしては初のフル・アルバム。昨年発表したEP『DIVE』では児玉奈央をフィーチャーして話題を集めた彼らだが、今回のアルバムではさらに柔軟に進化を遂げている。

メンバーみずから〈最高傑作〉と胸を張るその内容について、リーダーのCross You(テナー・サックス)、Akirag(アルト・サックス/フルート)、TANAAMI DAISUKE(ベース)に話を聞いた。

RIDDIMATES OVER Roman/Bayon Productions(2017)

 

2MCみたいに2本のサックスを押し出していくスタイル

――まず、2014年の前作『JOY』 を振り返ってみて、あのアルバムでやろうとしたことは?

Cross You(以下、Cross)「ポップで開けたアルバムにしたかった。その前の『ZION RHAPSODY』(2013年)というアルバムには7、8分ある曲も入っていたんですけど、もっとキュッとした構成にしてもいいんじゃないかと思って。そうした理由で、僕らとしては短めの曲で統一しましたね」

――手応えは?

Cross「作品としてはすごく手応えを感じたし、あのアルバムを作ったことでその先も見えてきたんですけど、アルバム完成後、キーボードのYoopeyとドラムのsadabonが辞めちゃったんですよね」

『JOY』収録曲“HOT SONG”
 

――それもあって、それまでは毎年コンスタントに作品を出してきたのに、2015年はリリースがなかったですね。

Cross「そうです。ただ、後任のドラマー(Yosh)もすぐ決まったし、アルバムを出そうと思えば出せないこともなかった。でも、いま思うと、当時は〈どうしようかな?〉という迷いみたいなものもあったんじゃないかな」

Akirag「キーボードをどうするかという点はメンバーの間でも議論になりましたね。入れたほうがいいんじゃないかという意見もあったし、入れないほうがすっきりした構成になっていいんじゃないかという意見もあって。結果的にキーボードを入れないでそれぞれの味を出していくという方向にまとまっていった」

Cross「確かに〈キーボードを入れない〉という決定は大きかったかもしれない」

Akirag「それまではキーボードが各パートの間を埋めていくような役割を果たしていたけど、いなくなったぶん、隙間を活かしたアレンジになっていったんですよね」

――ドラマーのYoshさんとは付き合いも長いんですか?

TANAAMI DAISUKE(以下、TANAAMI)「僕は出会ってから10年ぐらいは経っていますね。音も大きいんですけど、身体も大きくて(笑)。その姿が印象に残っていて声をかけました」

Akirag「音楽的にはジャズが好きなんだよね?」

TANAAMI「あとはヒップホップ。The Lo-Fiというジャズ・ヒップホップのバンドもやっています」

Cross「だから、アフロビートは通ってないんですよね。最初はハマるまでちょっと時間はかかりましたけど、今はまったく問題ないですね」

The Lo-Fiの2013年作『Fortitude』収録曲“Departure”
 

――ギターのYousayさんはこれまでもライヴのサポートをずっと務めてきたわけですけど、今回から正式メンバーになりましたよね。そのことでバンドとの関わり方は変わった?

Akirag「スタジオ代が発生するようになったぐらいですね(笑)。Yousayは前からアレンジ面でも関わっていたので」

Cross「今後はもっと曲作りにも関わってくると思います」

――新しいバンドの形はすぐに固まったんですか?

Cross「そうですね、わりとすんなり固まりましたね。Akiragくんのアルト・サックスと僕のテナー・サックスをメインにした、いわばヒップホップの2MCみたいなスタイルをさらに押し出していこうと。それぞれのヴァースがあって、サビで一緒にラップするイメージですね。なおかつ『JOY』のポップな方向を伸ばしつつ、アフロ的な要素もさらに突き詰めていったのが今回のアルバムかなと」

――今回のアルバムを聴いて、最初に〈ずいぶん音が変わったな〉と思ったんですよ。

Crossトクマルシューゴさんを手がけてきた葛西(敏彦)さんにお願いしたんです。僕らとしてはメリハリのついた音にしたかったんですよね。今回はまず録り音自体がすごく良くて」

Akirag「ウチらとの相性も良かったのかも」

Cross「ドラムのバスドラやスネア選びもすごく細かくやったり」

葛西敏彦がエンジニアとして参加したD.A.N.の2016年作『D.A.N.』収録曲“Zidane”
 

――もちろんそういう音作りでの変化もあると思うんですけど、音の抜けが今までとは随分違う気がしたんですよ。音数が少なくなって、隙間が増えたというか。

Akirag「さっき僕が言ったこととリンクしてくる話ですよね。隙間を活かしたアレンジという」

――そうなんですよ。結果、前のアルバムよりもあきらかにファンク寄りになっている。

TANAAMI「自然とそうなっちゃった(笑)」

Akirag「僕らのなかでは〈ファンクに寄せていこう〉という意識はあまりなくて。『JOY』のときは狙って作ったところもあったんですけど、今回は原点回帰というか、〈自分たちのなかにある響きをいい形で出す〉という作業に集中しようと考えていましたね。〈あるスタイルを狙って作らない、決めつけない〉というのは今回の収録曲全部に共通していると思う」

――たとえば、ミュージック・ビデオを作られた“Swandive”はすごく新しいRIDDIMATESのスタイルという感じがしたんですよ。ゆったりとしているんだけど、大きなグルーヴでしっかり引っ張っていくというか。

Cross「確かに今までのRIDDIMATESにはなかったタイプの曲で、さっき話したホーンの2MC感はこの曲で出せるようになったし、Yousayが持ってきたBメロのコードも良かった。結果みんなで作った感じですね。この曲と、アフロとポスト・ロックを融合したような“Over Against”の2曲ができたときに次の形が見えた感覚がありました」

――アフロ系の曲は今回少なめですよね。それこそ“Over Against”ぐらい。

Cross「他にも5、6曲アフロ系があったんですけど、全体のバランスを見たときに外しました。単なる記録みたいなアルバムにはしたくなかったし、時間をかけたぶん、勝負できる曲だけを入れたかったんです」

――“The Barber”もゆったりとしたファンクですけど、この曲にもまた“Swandive”に通じる大きなグルーヴがありますね。

Akirag「これは僕が作ったんですけど、シンプルでいてクールなものをやりたくて」

――今回のアルバムは全体的に体温が低めです。今までのRIDDIMATESには汗がほとばしる熱帯感があったと思うんですけど、ちょっとクールダウンしていて、BPM的にもビートダウンしている。

Akirag「それは確かにそうですね」

Cross「パンク~スカコア上がりのリーダー(Cross)の熱量がようやく他のメンバーと近くなってきた……ということなんですかね(苦笑)」

TANAAMI「まぁでも、また熱量が上がっちゃうかもしれないし(笑)」

Cross「とはいえ、確かに少しクールダウンしてアレンジの間を作っていこうという話は最初にしていましたね。でも、それも自然な流れで、『JOY』の段階ではそういうこともできなかっただろうし」

Akirag「年齢のせいではないってことだよね? 3年経って自然と熱量が下がったという……」

Cross「うん、そういうわけじゃない……今ちょうど10分ぐらいサックス吹きまくる曲もやろうとしているし(笑)」