紅茶の国からこんにちは! ニンジャ・チューンきっての人気キャラが6年ぶりに仕掛ける音楽バクテリアは、またもやどんどん繁殖中で……

 DJをメインとする活動が頻繁にして堅調なのは重々承知していても、やはり作品で聴いてみたくなるというのが人情です。かつてはもう少しストイックなブレイクビーツ集団というイメージのあったニンジャ・チューンに加わってレーベルの色合いを少しだけ変え、カートゥニストとしての腕前も手伝ってシグネチャー・サウンドと親しみやすいイメージを早くから完成させたMrスクラフ。ポップな音作りへの信用も手伝って予想以上に日本でも人気を集めているという彼が、このたび実に7年ぶりとなるニュー・アルバム『Friendly Bacteria』をリリースしました。その間の多様な活躍は見られたとしても、やはり7年というリリースの間隔は長いものといって差し支えないでしょう。

MR. SCRUFF 『Friendly Bacteria』 Ninja Tune/BEAT(2014)

 ただ、スクラフ本人いわく「遊び心のある音を作りたいという方向性は昔から変わってないな。いろんなスタイルの音楽や時代の異なるサウンド、タイプの違うサウンド同士をミックスするのが以前からずっと好きなんだよ」とのことで、意識のうえでもタイムレスというか、我流のスクラフ・マナーは根本的に変わることがないもののよう。それはアーティスト・デビュー前からマンチェスターのクラブで培われ、自由自在なセットで定評のある彼のDJぶりにも通じるものでありましょう。元祖ゆるキャラのような自身のカートゥーン・キャラクターを活かしたジャケも(いくばくかの気持ち悪さはありつつ)同じ。そのなかで如実に前作と異なるのは、起用しているヴォーカリストです。そんなん当然でしょ、と思うなかれ。歌い手に触発されて曲を作ることも多いというスクラフだけに、声や歌唱法の変化そのものが作風の微妙なシフトチェンジに繋がっているのです。

「『Friendly Bacteria』のエッセンスとなる部分はデニス・ジョーンズと共同で作った曲だと思う。彼との曲を作ってから、そのサウンドに合うように他のトラックを作っていったんだ」。

 ニンジャ社長のピーター・クイックもお気に入りだという“Render Me”をはじめ、スクラフとデニスのコラボは実に4曲も収録。ハンブル・ソウルからレフトフィールドな作品を出しているデニスは、スクラフと同じくみずからアートワークも手掛ける人で、そんな気質も合ったのかもしれません。彼の他には、ヴァネッサ・フリーマンがソウルフルなブロークン・ビートの“Come Find Me”に適役として麗しい歌声を重ね、ベース・ヘヴィーでディープなロウテンポのハウス“He Don't”にはロバート・オーウェンスをフィーチャー。それぞれがひとつのシーンを代表するヴォーカリストですが、特にヴァネッサの起用はブロークン・ビーツのニュアンスを纏って跳ねる作品全体のビートから導き出された人選のようでもあります。ブロークン・ビーツといえば……のカイディ・テイタムをはじめ、マンチェ繋がりで参加したトランペット奏者のマシュー・ハッセル、そしてシネマティック・オーケストラのフィル・フランスと、ミュージシャンとの有機的な絡みもスクラフを触発した模様。極太なベースをフリーキーなトランペットが切り裂く“What”から、ラフなサンプルと煌めく鍵盤、ハウシーなビートの溢れ出る“We Are Coming”への展開模様は、非常にドラスティックでわかりやすくて楽しい今作中のハイライトではないでしょうか?

 本作と過去の作品の違いについて、「やっていることは同じだけど、音楽の知識が広がってるぶん、視野も広がっている」と語るスクラフ。彼の仕掛ける音楽のバクテリアは、その進化が続く限り、まだまだ感染者を増やしていきそうです。

 

▼Mrスクラフの参加作を一部紹介

左から、マッドスリンキーの2010年作『Make A Change』(Tru Thoughts)、ジャザノヴァの編集盤『Upside Down』(Sonar Kollektiv)
※ジャケットをクリックするとTOWER RECORDS ONLINEにジャンプ

 

▼『Friendly Bacteria』に参加したヴォーカリストの作品を一部紹介

左から、ヴァネッサ・フリーマンの2004年作『Shades』(Chillifunk)、ロバート・オーウェンスの2010年作『Art』(Compost)
※ジャケットをクリックするとTOWER RECORDS ONLINEにジャンプ