70年代UKロック、ニューウェイヴ、USインディー、J-Pop、etc……さまざまなジャンルの音楽を独自に消化。オモチャを楽器がわりに操って、ひねくれたポップ・センスと遊び心溢れるサウンドで注目を集める空中カメラが、タワーレコード限定のニュー・シングル“空中画用紙”をリリースした。メンバーは、中村竜(ヴォーカル/ギター)、田中野歩人(キーボード/おもちゃ)、牧野岳(ベース)、寒川響(ギター/パーカッション/おもちゃ)、中村隼(ドラムス)の5人。幼馴染みが中心になってバンドを結成した彼らは、その摩訶不思議でどこか懐かしい歌をどのようにして生み出すのか。空中カメラのファインダーを覗いてみた。
デモのめちゃくちゃさを活かしながらポップに仕上げる
――早速、ニュー・シングル“空中画用紙”について話を訊きたいのですが、表題曲は3月にリリースされたファースト・アルバム『Dr.KIDS LIFE』収録曲の新ヴァージョンです。この曲はどんなアイデアから生まれたのでしょうか?
中村竜(ヴォーカル/ギター)「初期の頃は、パーカッションとかおもちゃをサンプリングしてリズムにしていました。3年前にお兄ちゃんがドラムで入って、ちゃんとしたバンド編成になったので、それまでのおもちゃっぽい感じとバンド・サウンドをひとつにした曲を作ろうと思ったんです」
――バンドの新しい出発点を刻んだといえる曲なんですね。
中村竜「そうですね。ドラマーが入ったことで曲作りも変わったし」
寒川響(ギター/パーカッション/おもちゃ)「ドラムが入ったおかげで、バンドとして音が強くなりましたね。やっぱり、ドラムがいなきゃダメだと思った」
田中野歩人(キーボード/おもちゃ)「あと、お兄ちゃんが入ってからはライヴをやるようになったことも影響していると思います。ノリみたいなものを意識するようになった」
――ドラマーとして、この曲を演奏してみてどうでした?
中村隼(ドラムス)「やってて楽しいですよ。僕の好きなビートでもあるし。空中カメラの曲って、いままでノリノリの曲があんまりなかったんですよね」
――隼さんは竜さんのお兄さんで、バンドに加入するまでは客観的に空中カメラを見ていたわけですよね。空中カメラに対して、どんな印象を持っていました?
中村隼「あんまり好きじゃなかった(笑)。いつも(自宅の)隣の部屋で大きな音を出してるんですよ、住宅地なのに。それに僕の楽器を勝手に持ち出して壊したり失くしたりして。ひどい話ですよ」
――バンドの被害者だった(笑)。ちなみに、隼さんはどんなバンドをやっていたんですか?
中村隼「パンク・ロックです。ラモーンズみたいな」
――空中カメラとは全然違う音楽をやっていたんですね。
中村隼「そうですね。空中カメラはポップで優しい音楽だなって思ってました。バンドに誘われたのは、あまりドラムを叩いてなかった頃で、〈スタジオ代は出さなくていい〉って言うし、タダでドラムを叩けるなら嬉しいな、と思ったんですよ」
牧野岳(ベース)「その頃はみんな超ヘタだったでしょ?」
中村隼「ヘタだった(笑)。いまもまだまだだけど最近はがんばってるよね」
――演奏力は今後に期待するとして(笑)、空中カメラらしさというと、いろんな効果音やエフェクトを使った遊び心溢れる音作りです。“空中画用紙”もその良い例ですね。
中村竜「いろいろ入れたくなっちゃうんですよ。隙間があれば〈入れちゃえ!〉みたいな(笑)」
――メンバーみんなでどんどん入れていく?
田中「いや、大体この2人(中村竜と田中)です。デモ・テープは2人で作るんで」
寒川「ほかのメンバーが口を出すと怒られたりする」
中村竜「採用するときもありますけどね。最終的な判断は田中くんで、僕がぽんぽんアイデアを出して田中くんが〈ダメ!〉〈OK〉〈ダメ!〉みたいに判断してくれるんです」
寒川「漫画家と編集者みたいなもんだね(笑)」
――デモの段階で結構作り込んじゃう?
田中「そうですね。二人で宅録で90%くらい作ります。それをメンバーに聴いてもらって、楽器特有の手癖が入った演奏にしてもらうんです」
牧野「デモ・テープを聴くと、結構めちゃくちゃだったりするんですよ。ギタリストが無理矢理弾いてるようなベースのフレーズだったりして。でも、それがバンドにとって美味しいところでもあるというか。そういうめちゃくちゃなところをどう活かしていくかが」
いまのインディーズの流行を気にせずに、おもしろいものを作るほうがいい
――あえてめちゃくちゃなところを活かしたりするわけですね。2曲目の“話し相手になるーよ”は、“空中画用紙”に比べるとロックな感じになってます。
中村竜「高校時代にふざけ半分でできた曲で、そのまま置いてあったんです。ビートとか何も考えないでアコギ一本で完成させました」
田中「空中カメラとしては珍しい作り方でしたね」
牧野「そしたら、ロックになった(笑)」
――キーボードとかが派手に鳴っていて、初期のニューウェイヴっぽい雰囲気もありますね。
田中「そうですね。僕らニューウェイヴも好きなんですけど、これまではあんまり出してなかったから。とはいえ、空中カメラらしい変な感じ、ジメッとした感じも入れつつ(笑)」
――空中カメラはジメッとしてるんだ(笑)。
寒川「乾いてはないですね。ビショビショでもなくて、ベタベタなんです。汗みたいな感じ」
中村竜「そんなヤツが〈話し相手になるーよ〉って(笑)」
寒川「妖怪っぽい(笑)」
田中「爽やかな曲も結構あるよ(笑)!」
――3曲目の“ファンファーレ”は、音の重ね方とかコーラスの付け方がナイアガラ・サウンドっぽいですね。
田中「もろ意識してます(笑)」
中村竜「ストリングスとかも入れて、キメも真似したり」
――それは曲作りの段階から意識していた?
中村竜「この曲はデモもバンド編成も僕1人でやったんですけど、その時点で大瀧(詠一)さんのイメージはありました。ストリングスのアレンジは新鮮で楽しかったですね。自分たちが普段使ってる楽器とはちがう音の重ね方だったりするので。コーラスもおもしろかったです。大瀧さんを意識してBメロで〈ワッシュワリワリ〉とか歌って」
――ビーチ・ボーイズっぽいコーラスもありますね。
田中「そうですね。ビーチ・ボーイズとかコーデッツとか」
中村竜「いろんな方向からコーラスが聴こえてくるように作りたいと思いました」
――そういえば、“空中画用紙”の〈グッドモーニング/グッドモーニング〉っていうコーラスはビートルズっぽい。
田中「メロディーをちょっと変えてるんですけど、気付いてもらえて嬉しいです」
中村竜「わざと不安定な感じにしたんですよ」
――あと、“ファンファーレ”のヴォーカルはほかの曲に比べると男前ですね。
中村竜「そうなんです。結構、直しました」
田中「4回くらい直させました。ミックスしててもカッコよく決まらなくて。もっと男らしくっていうか……」
寒川「包容力のある歌詞なのに包容力のある声じゃなかったんで。このシングルにはヴォーカル曲が3つ入っているんですけど、それぞれ別の歌い方というか、別のテイストで入れたつもりです」
中村竜「この曲は男前な歌声を聴いて欲しいです(笑)」
――3つヴォーカル曲があって、最後に“空中画用紙”のカラオケ・ヴァージョンが入っていますが、あえてカラオケを入れようと思った理由は?
田中「CDが短冊だった頃、シングルにカラオケ・ヴァージョンが入ってたじゃないですか。そのパロディと、あと、いろんな音がガチャガチャ入っている曲なので、ヴォーカルがないほうが楽しんでもらえるかなって」
俺たちが最先端だ、このヤロウ!
――なるほど。そのガチャガチャした感じが空中カメラらしさでもあるんですよね。空中カメラを聴いていると、例えばニューウェイヴとか大瀧さんとかを意識しながらも、そこから脱線していくおもしろさがありますね。その脱線ぶりを楽しむというか。
田中「いまの日本のインディーズの流行りの音みたいなものをやれればラクなんだろうな、とも思うんですけど、『Dr.KIDS LIFE』を作って、そういうことを気にせずに自分達が良いと思うものを作ろうっていう気持ちに落ち着きました。そうしたらいいアルバムが出来たので。トレンドは意識せず、自分達がおもしろいと思うものを作ったり、引用したりすればいいんじゃないかって」
――『Dr.KIDS LIFE』は、どんなふうにして作り上げたんですか?
田中「自分の持ってるCDやネットにある音源から〈アルバムにはこういう曲がほしい〉っていうのを300曲ぐらい集めて、それをメンバー全員に聴かせたんです。こういうのが2曲目だったらいいな、こういうのが4曲目だったらいいな、みたいなのが頭のなかにあったんで」
――レコーディング前にアルバムの青写真があった?
田中「ありました。けど、曲の具体的な引用というよりは自分が選んだ遠いジャンルの曲たちを合わせて聴いた時の印象の共有という感じでした。ところどころ具体的な引用もしてますが(笑)」
寒川「違う方向に落ち着いたよね。でも、その300曲は十分なヒントになりました」
中村竜「それまで好き勝手に曲を作っていたんですけど、『Dr.KIDS LIFE』は初めての流通盤ということで、空中カメラをどういうふうに見せたいか、どんなジャンルとして打ち出すのかってのを悩んだんです」
――バンドの見せ方を考えた?
田中「そう、見せ方です。でも結局特定のジャンルに落とし込もうというセコい考えはやめて(笑)、自分たちが発信したい曲、発信すべきだと思う曲が多少いびつでも、合わせて聴いたときに響きあうことへと注力しました。制作中は不安でしたが、いまでは〈俺たちが最先端だ、このヤロウ!〉という気分です」
――〈KIDS LIFE〉っていうタイトルが、空中カメラのサウンドを表していますね。子供みたいに音で遊ぶ。例えばおもちゃを楽器として使うとか。
中村竜「そこからバンドが始まったみたいなものですからね。高校のとき、みんながウチに集まって、好き勝手に楽器で遊んでたんです。楽器が弾けない奴は、おもちゃを使ったりゴミ缶を叩いたりしてました。部屋にあるものすべてが楽器だったんです」
寒川「犬が噛んで遊ぶカエルのおもちゃがあるんですけど、最初の頃からそれをゲコゲコ鳴らしていて、いまではライヴの必須アイテムになってます。僕らみんな軽音楽部じゃなくて美術部にいたんですよ。だから、全員、楽器が弾けるというわけでもなくて」
――美術系出身というのもニューウェイヴっぽいですね。バンドに固執していないというか、ルーツに縛られないというか。
牧野「美術って自由だから、音楽でも何をやってもいいって当たり前のように思ってるんですよ。『Dr.KIDS LIFE』はそれが結実したアルバムだと思っていて。タイトルに〈KIDS〉って入っているのは自由度が高いということなんです」
田中「アートから刺激を受けて〈変なことをやりたい〉という気持ちと、〈やっぱり普通のポップスも良いな〉という気持ちを無理矢理一緒にして、何かよくわからない状態になったのが空中カメラ。僕たちは変なものもポップなものも、どっちも好きなんです」
――メンバーは幼馴染みだそうですし、ずっと〈KIDS LIFE〉が続いている感じですね。
中村竜「そうですね」
田中「ヤバいなあ」
寒川「アダルト・ライフを送ってみたい(笑)。お酒飲んだりして」
――5人でお酒を飲んだりはしないんですか?
田中「それがないんですよ」
中村竜「打ち上げもしない。〈疲れたからまっすぐ帰ろう〉っていうクチで」
寒川「もしくは、一緒にクレープ食べに行こうみたいな(笑)」
――クレープってキッズライフすぎる(笑)。
田中「後は録音したり」
寒川「撮影したり」
中村竜「会ってなくても連絡を取り合ってるよね」
牧野「ちょっと気持ち悪いな(笑)」
――確かに(笑)。撮影といえば、ミュージック・ビデオも自分達で撮ってるんですよね。その辺はさすが美術部出身。
寒川「僕が基本的に撮影と編集をぜんぶやってます。“空中画用紙”に関して言うと、ストーリーのあるビデオは空中カメラに合わないことが多くて、今回はテレビをモチーフにしたんです。テレビのチャンネルを変える時って、自分の好みの番組とか好みのコンテンツを探して変えるじゃないですか。“空中画用紙”が持ってるいろんな方向性を、無理矢理ひとつにまとめ上げるためにはテレビが合ってるんじゃないかと思って。みなさん、どうでしたか?」
中村隼「いいビデオだと思います!」
中村竜「最高です!」
寒川「ほんとか(笑)? ビデオに関しては、ほかの誰かに任せるのが嫌なんですよ。メンバーそれぞれの特技とか魅力を映像に落とし込む作業がすごく好きなんで。そもそも、空中カメラのメンバーとは10年ぐらい一緒にいるんで、僕がいちばんこいつらをうまく見せられるという自信があるんです」
牧野「へえ。それは初めて聞いた」
田中「でも、ほかの人にも頼んでみたいな」
寒川「いいよ」
田中「いいのかよ(笑)!」
――音だけじゃなく、映像やアートワークも含めて空中カメラというアートなんですね。では、最後の質問。“空中画用紙”が新たな出発点だとしたら、今後のバンドの方向性について考えていることはありますか?
中村竜「最近、変なこととポップなことのバランスが見えてきたというか。なのでどんどん作品を作りたいですね」
寒川「作品の数だけ遊べるしね」
田中「ふざけながらも、曲のクォリティーは絶対落としたくない。欲張りなんですよ、僕たち(笑)」
Live Information
2017年8月12日(土)東京・学芸大学 アピア40
〈マジカルサムシング!〉
共演:トイメンシャオ [原さとし(パスカルズ)+竹内信次]/山本慎太郎
2017年9月7日(木)東京・下北沢CLUB QUE
〈ワイキキ 日本 世田谷 レコード〉
共演:PARIS on the City!/ジャパニーズCLUB
2017年9月23日(土)東京・下北沢440
〈対決バーサスvol.1〉
共演:ミックスナッツハウス ※ツーマン公演
2017年11月19日(日)東京・六本木VARIT.
〈空中カメラ ワンマン公演「タイトル未定」〉
開場/開演:17:30/18:00
料金:前売り ¥3,000 当日 \3,500円(いずれも1D要)
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