18年の活動歴でアルバムはわずか4枚。東京の2人組バンド、ELEKIBASSはマイペースな活動のなかでポップ・フリークのハートを捕えてきた。日本はもとより、アップルズ・イン・ステレオらとの交流からアメリカでもフェス出演やツアーを行うなど、気負いなくもワールドワイドな活動を繰り広げている。

今回は、新作『Theme of Melancholic Matilda』のリリースを記念して、筆者がELEKIBASSの楽曲を聴いて連想したアーティストや楽曲を、バンドの中心メンバーであるサカモトヨウイチ(ヴォーカル/ギター)にぶつけ、それに対する感想や楽曲の元ネタを引き出すという取材を企画。まるで音楽サークルの部室のヒトコマに〈バック・トゥ・ザ・フューチャー〉したみたいな楽しいやりとりが、彼らの音楽のコアにあるものをいつしか浮かび上がらせていった。

ELEKIBASS Theme of Melancholic Matilda WaikikiRecord(2016)

 

良い意味で軽いロック・バンドなんです

――新作『Theme of Melancholic Matilda』を聴かせていただいて、オリジナル・アルバムなのにまるでベスト盤みたいな印象を持ったんです。まさに〈自分の好きなおかずが全部入っているお弁当〉みたいなアルバムだなと。

「自分の好きなお弁当ってありますよね。他の人が食べてどう思うかはわからないけど、自分はこのきんぴらが好き、みたいな。年齢を重ねて、昔より自分の好きなものに自信が持てるようになったので、最近は〈全然ピンとこない〉と言われても傷つかなくなりました(笑)」

――今回はこのアルバムを聴いて、僕が連想した曲を流しながらELEKIBASSの音楽の深層に迫るというか、いろいろお話させていただくという取材です。

「この企画は僕自身が希望したものなんです。松永さんは古今東西のポップに詳しい方ですので、僕たちの音楽からどんなミュージシャンを連想されるのか、とても興味がありました。レコードを肴に雑談をするのも大好きですし」

――ありがとうございます。その前にELEKIBASSの結成とこれまでの活動について軽くおさらいしておくと、結成は98年。もう18年目なんですね。

「そうなんです。結成したときから人数は減りましたけど、解散することもなく、逆にすごく売れたとかもなく、とりあえず目の前にあることをやってきたらいつの間にか18年が経っていました」

――アルバムとしては新作で4枚目なので、マイペースというか、スロウ・ペースというか。

「自分でWaikiki Recordというレーベルをやっておきながら、ELEKIBASSではあまり計算していなくて、出たとこ勝負なんです。これは性格的なものだと思います。かなりのんびり屋なので(笑)。もちろんライヴはやるし曲も作るんですけど、アルバムは〈曲が貯まったから作ろうか〉とか〈アメリカにツアー行くから作ろうか〉くらいの感じ。学生時代にメンバーの亀田(JP/ギター)くんとレコード屋を回りつつ、〈最近は何を聴いている?〉〈新曲出来たんだけど〉みたいな話をしていたあの感じと、いまもあんまり変わらないんですよ」

2009年作『Paint it white』収録曲“Australia”
 

――サカモトさんのリスナー体質を表すエピソードだと思います。では早速ですが、アルバムを聴いて僕が連想した曲をいろいろ挙げていきますね。

★“se”

まずオープニングの“se”はムーンドッグの“Paris”という曲を挙げてみました。

ムーンドッグの97年作『Sax Pax For A Sax』収録曲“Paris”
 

「あ、ちょうど昨日聴いていました! ムーンドッグじゃなくてNRBQがカヴァーしているほうですけど。このオリジナル・ヴァージョンは知りませんでした」

――ブラスのアンサンブルがちょっと変わっていることや、後半コーラスが入って盛り上がる感じから連想したんです。SE的な楽曲からアルバムを始めたかった理由は?

「子供の頃、J-Popを聴いていたときはアルバムに40秒くらいの曲が収録されている意味がわからなかったんですよ。それがブリティッシュ・サイケのコンセプト・アルバムなどSEからスタートする作品に出会ったときに、〈あ、この40秒ですごく雰囲気が変わるんだな〉とわかった。それ以来、アルバムの曲を並べてみたときに短い楽曲が欲しくなったら、あとから作るようにしています。ちなみにこの“se”はアップルズ・イン・ステレオの『Tone Soul Evolution』(97年)あたりのイメージですね」

 

★“Yeah Yeah Yeah”

――曲調というより、坂本さんの声からイメージしたアーティストです。70年代アメリカのシンガー・ソングライターでビリー・マーニットという人なんですけど、ちょっといじけた高い声に魅力があって。

ビリー・マーニットの73年作『Special Delivery』収録曲“Special Delivery”
 

「この人は知らなかったですね」

――自分の声の特徴はいつ頃自覚しました?

「オリジナル曲を作ってレコーディングしたのを初めて聴いたときです。こんな声なんだと思いました。でも、オブ・モントリオールやアップルズ・イン・ステレオみたいなハイトーン・ヴォーカルと系統が一緒だから、嬉しいと思いましたよ。もしかしたら潜在的に自分の声に近い人を好きになる傾向はあるかも」

 

★“Don't Stop Believe in Music”

――これは2曲選びました。

タートルズの66年作『You Baby』収録曲“You Baby”
 
ポール・マッカートニー&ウィングスの“Lady Madonna”のライヴ映像
 

タートルズは大好きです。ビートルズも大好きだけど、実はウィングスはそんなにちゃんと聴いていなくて。ちなみにこの曲はエレクトリック・ライト・オーケストラELO)の感じなんですよ。でもビートルズ・マナーに他の要素を入れるという意味ではELOとウィングスは通じていますよね。なので当たらずとも遠からずかと」

――タートルズは日本では全然人気ないですけどね(笑)。

「自分たちもそうなんですけど、タートルズも良い意味で軽いロック・バンドなんですよ。そこがちょっとナメられるフシではあるけど、めちゃめちゃ良い曲がいっぱいある」

――あと、この曲に関していうと歌詞がすごくポジティヴです。

「それは歳のせいという気がします。もし自分が20代前半とかだったら暗い影を見せようとしていたかもしれないけど、いまは〈もういいや!〉という感じ。バラードや複雑なメッセージを歌うことには、あんまり興味がなくなってしまっていて、いまはシンプルでいようと思っているんです」

 

★“星降る夜にきらめいて(STAR LIGHT)”

――次はポール・サイモンの“You Can Call Me Al”。この曲を聴いて小沢健二を思い出す人も少なくないでしょうけど。

ポール・サイモンの86年作『Graceland』収録曲“You Can Call Me Al”
 

「正解です、ポール・サイモンを意識しました(笑)。小沢健二は高校時代にふわっと買っていて、受験のときは電車で『犬は吠えるがキャラバンは進む』(93年)を聴いていました。ちゃんと好きになったのは大学生になってからなんですけど、音楽をやるうえでは相当救われています。決して逞しくなくて、ちょっとヘナヘナした感じだけど、一歩踏み込んで聴くとあんなにも音楽として懐が深い。すごいですよ」

 

★“Garden Party”

――そして、5曲目はアップルズ・イン・ステレオのロバート・シュナイダーが提供した曲。アメリカのあの世代のミュージシャンに特有なバーズ好きというか、ジーン・クラーク好きがよく出ている気がしました。

 

★“Mayinside”

――キーボードで参加しているミサワ(マサノリ)さん(Like This Parade)提供のインスト曲ですが、こういう曲を選びました。

デューク・エリントンの1953年作『The Duke Plays Ellington』収録曲“Dancers In Love”
 

テリー・アダムス(NRBQ)のインスト曲みたいなのをやりたいと、ミサワさんにお願いしたんです。ピアノのポップさと変な感じのミックス具合が、かなり僕には影響が強くて」

――NRBQが本当に好きなんですね。こういうジャズっぽいインストの志向は昔からあったんですか?

「いや、以前はあまりなかったです。初期は演奏を楽しむということがあまりなくて、それまでは音楽さえ作っていればいい思っていたんですよ。USインディーのマニアックなところを知らない人は、僕らの音楽は聴かなくてもどうでもいいです、なんて。ところがいざ現地にツアーで行くと、USインディーのミュージシャン自体はいろんな音楽が大好きで、それらをめいっぱい楽しんでいる。そういう音楽への接し方を目の当たりにして、〈他の人が知らない音楽を知っているぞ、どうだ?〉みたいなことを思っていた自分は狭いなと痛感したんです」

 

★“Roller Coster”

――“Roller Coster”はムーンフラワーズの“Tighten Up”のカヴァーっぽいなと思いました。

ムーンフラワーズの92年のシングル『Tighten Up On The Housework Brothers And Sistersghten Up』収録曲“Tighten Up”
 

「良いところを突いてきますね。ムーンフラワーズは結構ジプシーっぽい雰囲気の人たちでしたね。実を言うとこの曲はギルバート・オサリヴァンの“Matrimony”という16ビートの曲が元ネタなんですよ。オサリヴァンにこんな曲があるんだ!とびっくりして、その衝撃で作りました」

ギルバート・オサリヴァンの71年作『Himself』収録曲“Matrimony”のパフォーマンス映像