©Toshio TSUNEMI

ジャズとは自由を表現するもの。イタリア注目のジャズ・シンガーの、純な胸の内。

 イタリア北部のボローニャで活動する、穏健しっとり派のジャズ・シンガーがキアラ・パンカルディだ。

 「ボローニャは、私のホーム・タウンです。小さな街ですが、大きな大学があって学生は世界中から来ていますね。アルフレッド・アルベルトというジャズの世話人がいて、彼がアメリカからいろんなジャズマンを呼んでおり、ボローニャのジャズの場は豊かであると思います」

 両親はジャズを聴いてはいなかったものの、ボローニャのそうした環境もあり、彼女は学生時代からジャズに魅せられた。

 「チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーは最初何をやっているか解りませんでしたが、その自由さに惹かれました。ビリー・ホリデイはとてもディープ、ジャズへの理解度が深まってから好きになったシンガーです。カーメン・マクレエ、シャーリー・ホーン、チェット・ベイカー、ケニー・ドーハムなど、本当に色々な人から影響を受けましたね」

 彼女の飾らない答えを聞いていると、ジャズという海外文化に耽溺した純情のようなものを感じてしまう。

 「10代の頃から、ジャズのレコードに合わせて歌っていました。生のミュージシャンの演奏で歌うようになったのが、20、21歳の頃ですね。その時は大学で人文学を専攻していたのですが、卒業後は歌に専念するようになりました。それ以降、ジャム・セッションに積極的に参加するなど、この道でやっていくために様々なことを始めました」

 ターニング・ポイントは? 彼女にそう尋ねると、以下の答えが返ってきた。

 「ピアニストのサイラス・チェスナットと出会ったことですね。彼が認めてくれたことで、自分がやって来たことが間違っていなかったと確信を得ることができました。また、彼と出会ったおかげでこの『アイ・ウォーク・ア・リトル・ファスター』も作ることもできて、私は大きく成長できたんです」

CHIARA PANCALDI 『I Walk A Little Faster』 Challenge/キングインターナショナル(2015)

 成熟した持ち味が魅力のチェスナットは彼女をNYのジャズ・アット・リンカーン・センターでのライヴに呼ぶとともに、スタンダードを歌うニュージャージー録音の『アイ・ウォーク・ア・リトル・ファスター』でもトリオで十全の伴奏をつけている。

 「彼らは秀でた音楽家であるだけでなく、人間的に優れた人たちでした。そして、そんな米国人の彼らが後で演奏しているだけで、いろんな勇気を与えられましたね。私はジャズというのは自由を表現する音楽であると思っていますが、彼らがいたからこそ、私の内にある自由を余すことなく出せたと思っています」