ダークなトラップが咲き乱れるなか、ハードさとユーモアをハイブリッドしたディープな言葉が蠢く。kiLLaからの次なる重要作は毒々しくもスマートな気鋭のファースト・アルバム!

 かつて大友克洋の「AKIRA」で描かれた〈2020年の五輪開催を控えたネオ東京〉が現実を予言していた……という都市伝説めいたトピックも少し前に話題となったものだが、フューチャリスティックな混沌を生きるkiLLaの作品世界は現実の東京から現出させてみせるかのようだ。地元の渋谷を拠点にストリート・バスケを通じて出会った友人同士が、音楽やファッションへと興味を広げて形成されていったのがkiLLaのクルーである。現在はYDIZZY、Arjuna、Blaise、KEPHAというラッパー4名に加え、DJのNo Flower、トラックメイカーのacuteparanoia、VJのYESBØWYら9人のメンバーで構成され、今年の6月にはそこからYDIZZYが初のフィジカル・リリースとなるソロ作『DIZZiNESS』を投下して注目を集めたのも記憶に新しいだろう。それに続き、今度はArjunaが初のソロ・アルバム『Lord Shaka』をこれまたフィジカルで届けてくれた。

Arjuna Lord Shaka kiLLa/bpm tokyo(2017)

 クルーでもひときわスタイリッシュなArjuna(アジュナ)はアメリカ人の父(プロのドラマーだという)と日本人の母を持つ95年生まれのラッパーで、同じkiLLaのBlaiseは実の弟でもある。目黒生まれながら中学時代を渋谷で過ごしたことで現在の仲間たちとリンクし、kZmをきっかけに17歳の頃から日本語ラップに親しむようになったという。当初はjeLLyという名義でラップしていた彼の名を早耳の間に広めたのは、やはりYENTOWNの面々とコラボした2015年の7人リレー“Seven Sinners”ということになるだろうか。翌年にSoundCloudで公開したjeLLy名義のミックステープ『Deliverance from darkness』も話題となり、その後で名義を本名のArjunaに改めると、ソロ曲“Foreign”を発表。並行してYDIZZYの『Syndrome II』やBlaiseの『SQUAD』、そしてクルーでの初EP『kiLLa EP vol. 1』などに次々と参加し、短かい期間で一気に頭角を表してきた。

 今回の『Lord Shaka』からはすでにChaki Zulu制作のロッキッシュな“GRANDIOSO”が公開されているが、アルバムの全体を支配するのは仲間たちのソロ作ともまたひと味違うダークな空気感だ。USのトラップを下地にしながら闇の底で蠢くようなビートと、苦味を残す重ためのフロウが融和して、密度の濃い聴き心地が用意されている。前半は攻撃的で尖ったアティテュードを見せるトラックが目立つが、キャッチーなメロウ・トラップ“Gorgeous”、ドラッギーで幻惑的なラヴソング“private”などドロリと溶けたモダンな聴き心地も彼の語り口とは好相性。Blaiseを迎えて不敵に構える“black boi”、KEPHAを交えて穏やかに言葉を吐く“say good bye to Tokyo city”といったゲスト入りの2曲も効果を上げている。そうでなくてもいま聴くべき注目作なのは間違いないだろう。

 

kiLLa kiLLa EP vol.3 F.O.E[Family Over Everything] kiLLa/bpm tokyo(2017)

 なお、そんな『Lord Shaka』と同時にリリースされるのが、ダフト・パンクなジャケも印象的なkiLLaのブランニューEP『kiLLa EP vol.3 F.O.E[Family Over Everything]』だ。これは今年7月の『kiLLa vol.2 Summer』に続くクルー総員でのEPシリーズ第3弾にして、彼らにとって初のフィジカル作品。プロデュースはクルー内のNo Flowerとacuteparanoiaが分け合い、コンパクトながらも刺激的な全6曲入りの楽曲集に仕上げられている。そして、こうした状況の整備を受け、年内にはクルーでのファースト・アルバムも控えているとのこと! 渇望をそそるコンパクトなサイズ感はあくまでも前哨戦ならではのものとして、この後のデカい一撃に期待を膨らませておこう。